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藍の陰陽師  作者: 蓮華
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諍いと負けん気

 向きになって章来が断る。


「恩義を返したいのだ」


「恩義なんて大袈裟だ」


「貴様は頑固だな」


「夕凪だって頑固だろ」


 清輝にもよく『頑固だ』と言われた。懐かしい響き――。


 三人で共にいたあの頃、冠世と清輝、そして蝶彩。来る日も来る日も修行に明け暮れていた。


 懐旧の念に駆られている場合ではない。が、考えてしまう。


 黙り込んだ理由が分からず、眉を寄せ首を傾げてうろたえる。様子はあたかも滑稽だ。


「滑稽な姿を晒すな」


「誰が滑稽だって!?」


 膨れっ面になり、ふんと外方を向く。


「実に幼稚くさい。ちと貴様は大人らしくできぬのか」


 青と章来は面白いくらいに似ている。あの時は、清輝と似ていると思ったが今は違う。


 お互い気づいていないが繋がるものがあった。


「どうせ、僕はお前と比べれば幼稚くさい。けど、式神の方が遥かに幼稚くさいぞ!!」


「はぁー?幼稚くさくて悪かったな。でも、俺の方が黒髪より断然分別はある」


 腕組みをして凄む青は、章来の後ろ姿を睨みつける。


 視線に気づき睨み返す。言い合いが始まった。


「礼儀知らずなお前のど・こ・に分別があるんだ。ぜひ、教えて欲しい」


「俺は物事の本質や道理を思慮深く考え、正邪をしっかり弁えている」


「フッ」


「鼻で笑うな。喧嘩売ってんのか。売られた喧嘩は喜んで買うぜ」


 余裕綽々と身体を伸ばす青の言葉で、少年は長刀の柄に手を走らせる。


「今は下らん諍いをしている場合ではない。だが、貴様等の負けん気が強い所は嫌いでないぞ」


 淡々と言い放つ蝶彩は優美な口元に、仄かな笑みを漂わせた。


 章来はさっと頬を覆い隠して俯き、忽ち耳が赤く火照る。


 青は上機嫌で「心の準備ができていなかった。もう一回言え」とからかう。


「二度も同じ事は申さぬ」


 渋面を作り、目に映る狭間をただ眺めた。


 ふと偶に思う時がある。人はあの先へ踏み込む事が、果たして可能なのか。見える者しか考えない疑問だ。


 光なき暗黒が広がる闇へ試しに飛び込む、馬鹿な真似などしない。濃い妖気に加えて底知れぬ恐怖も感ずる。


 確実に鬼と少女は出会すだろう。


 この異質な妖力に引き寄せられ奴は来る……。


「夕凪は狭間が見えるんだろ。僕が見る事は可能か?」


 どういう風の吹き回しか、素直に望みを述べた。


「恐らく可能だ。これで借りを返せるな」


 蝶彩が章来の手首を掴むと、物凄い勢いで振り払われた。


 声を上擦らせて言う。


「きゅ、急に何するんだ!?」


「数秒だけ手を貸せ。妖力を流す為に必要なのだ。手を通じると流しやすい。少々嫌かもしれぬが、我慢しろ」


「別に…嫌じゃない」


 男らしく手を差し出す。俯いた状態だったが。


 蝶彩はその手を握り、妖力を流した。己の視覚と相手の視覚を一時的に繋げる事により、認識不能な狭間を彼へ見せられる。


「上を見ろ」


「……あれが、狭間」


 瞠目する瞳は揺れ、初めて目にした狭間に、衝撃を受け恐怖を抱いた。


 幼き頃から少女の瞳に映る世界は恐れと不安だった。


「ひょっとして黒髪、怖いのか?」


 青は小刻みに動く少年の手を見てくすっと笑う。


「恐怖を感じて何が悪い!」


 震えを無理に抑えて、狭間をきっと睨んだまま開き直った。


「恐怖を感ずるのは恥ではない。それを感ずる事を忘れた時こそが恥だ」


「……」


 無言で話を聞き、意味を静かに考える。表情は真剣だった。


 蝶彩は妖力を流すのをやめ、彼の手を握り締めて離した。


「これで借りは返したぞ」


 暗黒の裂け目に此方を窺う、ぎょろりと動く目玉が二つあった。獲物を見定め、気味の悪い目玉はすっと闇に紛れて消えた。


 鬼……。


 全身に戦慄が走り、寒気を覚えた。本能が危険だと訴えかけてくる。あれには到底敵わないと。

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