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藍の陰陽師  作者: 蓮華
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この世で最も嫌いな言葉

 不服ながら割り込んできた男に説明役を譲る。


「僕は単純明快が嫌いなんだよ」


 千柚は指先で愛弟子の額を突き、そして話し始める。


「現在、六晶都ではある妖が問題になっています。その厄介な問題に天皇は、大層心を痛めておられるのです。妖は民を幾人も喰らい、日に日に死人を増やしていき、退治する側の陰陽師でも、敵わず容易く殺された」


 言葉を切り、一呼吸置いて付け加える。


「天皇は直々に陰陽寮へ依頼をなさった。妖を滅するようにと命じたのです」


 六晶都を騒がす妖。この世に溢れるものとは、比較すらできない並外れたもの。


 少女は正体を悟る。


「悪神、邪神、鬼神とも呼ばれる鬼が、六晶都で騒ぎを?」


 直感の鋭さに感嘆して千柚がただ大きく頷いた。


 書物によれば鬼は美男、美女に化けてこの世に現れる。真の姿は恐ろしく、頭に角を生やし鋭い牙を持つ。怪力で性質は荒い。人を誑かして呪い祟る。


 実物の鬼をまだ見た事はなく、単なる好奇心だが一度は目にしたい。


「陰陽寮は深刻な人手不足です。妖退治の為、殆どの者は各地に出向いています。招集をかけていますが未だ戻らず。殺された陰陽師の中には、腕が立つ者もおりました。これ以上、何も失えません」


 失う。蝶彩がこの世で最も嫌いな言葉――。何かを失いたくないのは誰だって同じだ。


「陰陽師上様は『腕が立ち、尚且つ強い陰陽師を都に連れて来い』と僕に命じたのです。愛弟子に話をした所、条件を満たす『藍の陰陽師』を知っていると教えてくれました」


 お茶を飲み干し男は口を拭う。


「早い話が蝶彩に鬼退治をして欲しい、だろ?」


「あぁ、式神くんのお察しの通り」


 青は頬杖を突くのをやめて大きく伸びる。


「六晶都には外から妖が、入り込む事を防ぐ為、結界が張ってあるよな。黒髪」


「そうだ。偉そうに聞くな!!」


 苛立ちで章来が顔を歪めた。偉そうに聞かれれば、あんな反応になる。


 しれっと笑い尋ねた。


「鬼は都へ入る度に結界を破り人を喰らう。今まで相当な量の人を喰らったようだな。陰陽師上が直々に鬼退治をしないのか、それとも退治したくてもできないのか?」


 行儀悪く両肘を突き、青は重ねた手に顎を乗せた。鋭い眼差しで千柚を射る。


 鋭い眼差しで射られても辟易せず、威圧的に髪を掻き上げた。


「陰陽師上様は一度、鬼を退治した事がおありだ。一人で五体を滅した」


 目立った感情がない顔に蝶彩は驚きを示す。


「いくら退治したくてもできない理由、それは……」


「鬼が陰陽師上に呪詛をかけたのですか」


「はい、蝶彩は鋭いですね」


 明らかに千柚の口調が変わった。揃って青と章来はげんなりする。


「どのような呪詛ですか?」


 通常の呪詛は対象者に対し、災いが及ぶよう神仏に祈る。まじない、呪いの類だ。


 しかし、鬼がかける呪詛は一味違う。


「陰陽師上様がかけられた呪詛は、二度と鬼の種族を殺せなくなる、とても厄介なものです。もし鬼に掠り傷をつければ呪詛が働き、優れたあの方でも死んでしまいます」


 鬼の呪詛は強力だと亡き冠世が教えてくれた。解けるものと解けないものがあると。大半は解けず生涯残る。


「どうせ、汝は鬼退治を承諾するつもりだろ」


「当然だ」


 人を喰らう鬼を放ってはおけない。何よりも許せなかった。許せるはずがない。


「鬼退治は死に急ぎ、自ら死に行くようなものだ。いいのか」


 澄んだ瞳を逸らさず、蝶彩は真剣に直視して笑みを零す。


「私は更々死ぬつもりはない。安心しろ。無論、貴様も手助けをしてくれるのだろう?」


「はいはい。仰せのままに」


 青は端整な顔を寄せ、蝶彩の耳元で囁く。


「俺が守る。守ってやるよ」


 あの時、口にされた言葉だった。陰陽師で在り続ける限り、暗い死が付き纏う。


 それでも蝶彩は陰陽師で在り続けたいのだ。生あるうちは陰陽師として妖と戦う事を決めたから。


「己の身くらい己で守れる。危ない時は私が助けてやるぞ」


「へぇー。頼もしい」


 首に手を回し、青は無邪気な笑みを浮かべてぐっと引き寄せた。即座に回された手を外そうとするが、強い力の所為で中々外せない。


「戯れはやめろ。外せ!!」


「やーだね。彼奴等に俺と蝶彩の仲をだな……」


 章来は勢いよく机を叩き「ふざけるな!」と怒鳴り立ち上がった。正座をしていた足の痺れに耐えきれず膝を折る。

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