故郷
僕の故郷は東北の、冬になれば眠ってしまったように静かな町で、そんな町で僕は育った。
父と母と、歳の離れた兄の4人家族で、こじんまりとした家で肩寄せ合って、まぁ仲のいい方だったと思う。
父は町の役場に勤めていて、母は近所のスーパーにパートに出ていた。
兄は勉強が好きだったけど、公立の大学に行けるほどではなかったので、高校を出てすぐ就職した。
今時高卒ではなかなか仕事に恵まれず、物凄く苦労して、やっと小さな工務店に決まったらしい。
僕はその時まだ小学生だったので、そんな兄の苦労をほとんど知らない。
そして兄は24歳で中学の同級生と結婚し、もうすぐ女の子が産まれるらしい。
僕が叔父さんになるんだって。
僕は家族は好きだったけど、田舎は嫌いだった。
だって都会なら、
いくらパートだからって10年勤めて最低賃金から1円も時給が上がらないスーパーはないだろうし、
兄が職場で耐えている事の殆どは「パワハラ」って禁じられているらしいし、
女性は妊娠したら職場をクビになるのが当たり前、じゃないらしい。
そしてそんな全てを、
「田舎だから」の一言で片付けてしまう。
そうやって貧困のスパイラルは終わる事無く子へ、子へと繋がっていくんだ。
だから僕は決めていた。
中二の夏、兄が過労で倒れた時に。
僕は都会の大学に行って、「企業」に就職するんだって。
こんな田舎から出てやるんだって。