PM11:00の彼女
時計の針が11時を指す。
店内に客は2人だけ。
1人はOL風の若い女性で、お弁当を選んでいる。
綺麗なんだけど疲れが顔に出ていて、幸が薄く見える。
もう1人は高校生っぽい男で、雑誌を立ち読みしている。
店長が立読み防止にと必死に紐をかけたけどあまり効果はないらしい。
金髪にハデなピアスをしているから注意はしない事にしよう。
僕は非力な学生アルバイトだからね。
駅からは10分くらいであまり人通りは多くないけど、
駅から住宅街に向かう途中の最後のコンビニだから、お客が途切れる事はない。
自動ドアの開く聞き慣れたチャイムの音に、僕は慌てて姿勢を正した。
30分間隔で電車が停車するので、
仕事終わりで帰宅する人の波が同じ間隔でこの店にも訪れる。
太ったおじさん。
いつも煙草を買いに来る。意外とマルボロ。
同棲カップル。
彼氏の方はずっと前から見るけど、彼女の方は3回変わっている。
今度の彼女はギャルじゃないんだね。うん、黒髪もいいと思うよ。
近所のおばちゃん。
1日に3回くらい来ることもある。ひまなのかな。
そして、来た。
彼女が店に入ってきた瞬間、空気が変わった気がした。
細身のジーンズに白のTシャツ。少し茶色い髪を耳の後ろでハーフアップにした彼女は、
凄く綺麗なのに男っぽいサバサバした雰囲気がある。
若いけど学生っぽくはなく、社会人なんじゃないかと勝手に思っている。
いつも1人で、彼氏や家族と一緒のところは見た事がないから、一人暮らしなのかもしれない。
彼女について僕が知っている事と言えば「優希」という名前だけ。
電気料金を支払いに来た時に見えたんだ。
その気になれば住所も苗字も見えたんだけど、そこは自重した。個人情報だからね。
偶然見えた「優希」は「ゆうき」と読むのか「ゆき」なのか。
サバサバした彼女には「ゆうき」が似合うと、僕は心の中では勝手に「ゆうき」と呼んでいる。