「夕暮れに解き放つ『十八歳の叫び。』」(全編)「Colorful World Project 」短編集まとめ(再投稿):2
叫べ、その苦しさを。
ほとんどの生徒と先生が下校した学校にて、
誰もいない教室に、1人の少女がいた。
「はぁ……今日も書き出さないと…。」
十八歳の少女、オルタ・スカイブルーはつぶやく。
夕暮れの教室の下、パソコンを開いて、
ドキュメントを作成する。
古びたキーボードに手をかけ、
無心になって文字を打つ。
「私の心には憂鬱さが混じっていた。
それはぬぐい捨てきれないもので
依然として私にへばりついたままだ………」
オルタは、昔から現実でのストレスを「文字起こし」することで発散して、
今までを生きてきていた。
学校での友人関係のいざこざ、
家での家族との争い、
終わらない宿題の数々。
それらから自分にのしかかるストレスを
文字として吐き出す。
オルタはストレスを言葉で吐き出すことはしない。
なぜなら、言葉で吐き出せば、周りに迷惑がかるし、自分の喉も枯れてしまうからだ。
それはわかっている。
でも、
最近のオルタは叫びをあげたくてしょうがないほど
ストレスが溜まっていた。
「鬱陶しい両親の指示
耳に痛い教師の発言
勉強量の大幅な増加
友人と話す時間の極端な減少
・・・・・・・・・」
それらによる怒り・憤り・辛さや虚しさを
必死に文字で書き留めた
そして、学校や家ではそのストレスを放たないように
必死に堪えて、明るく振る舞っていた。
しかし、いくら文字起こしをしようと
心の中の憂鬱は消えることはなかった。
今まで消化できていた不満が消えることなく、無限に降り積もる。
「辛い」「逃げたい」「休みたい」「目を背けたい」
「悲しい」「憎い」「怖い」
それらが積み上がるたび、オルタの心が締め付けられて痛む。
それでも彼女は耐えていた。
みんな、同じことを考えているんだ。
だから、「耐えなきゃ」いけない。
発狂するかしないかの狭間で彼女は自分をなんとか立たせていた。
しかし、今まさにオルタの心が、限界を迎える。
「……あぁーっっつつ!」
思わず彼女は叫んでしまった。
慟哭にも見えたそのがなり声は
四角く切り取られた教室の中で
激しく反響する。
幸いその時には教室にはオルタしかいなかったので
誰かにそのうるささを咎められることはなった。
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数分後、教室のドアが開かれる。
現れたのは、オルタの友達、
「ブラウン・カルマ」だった。
オルタとブラウンは高校一年の体育祭の時に初めて出会い
同じチームになったことがきっかけで、現在まで交流を続けている。
オルタはさっきまでの表情をぐっとしまい込んで、
何も考えていないように見せた。
「あ、カルマ、どうしたの?」
「部活の帰り。荷物を撮りに来たんだよ。」
カルマは少し疲れた様子で言う。
荷物をまとめるカルマを
オルタは少し見つめていた
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「…あんた、さっき叫んでただろ。」
カルマがカバンに教科書を詰め込みながら徐に話し始める。
オルタは思わず驚いて、
「!、き、聞こえてたか…ごめん…」
カルマに謝るように言った。
「…いや、別に気にしてないよ。ただ…」
カルマは続ける
「どうしようもない時って叫びたくなるもんだよな。」
オルタの動きが止まる。
「最近、先生や親が進路のことでうるさいし、話を聞いて欲しくても
勉強のせいでなかなか人と話すことができないよな。」
オルタはカルマが自分を見透かしているのか、と思った。
「カルマ…どうして私の気持ちがわかるの…?」
オルタは言った。
カルマは言った
「いや、今時の高校生が叫びたくなる理由ってそんなもんかな、って思っただけ。
別にあたしがあんたの心を見透かしてるわけじゃねーよ。
ただ、あんたみたいないつも明るく元気なやつもそう言う思いを心に留めているのかな、って」
「…う、ううっ…」
オルタは、思わず泣いてしまった。
「!?」
カルマは思わず動揺してしまった
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「そうだよ…その通りだよ!君の言うとおり、最近は親や先生が「自分の行きたい大学を早く決めておけ」とか
「趣味なんかせずに、一日に7時間は勉強しろ」とかでうるさいし、その悩みの話を聞いて欲しくても、こんな叫びを誰も聞きたがらないって思ったから!
今の今まで、文字で書き出して堪えてきて!…ううっ…」
オルタは、自分の今思っていることを止めることなく全部『言葉』で吐き出した。
カルマは泣きじゃくるオルタを思わず優しく抱きしめてしまった。
こんな彼女を見たのは初めてだった。
(「オルタはこんなに自分の心を押さえていたんだ…私も…こんな時があったな…」)
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カルマは、オルタを抱きながら、昔のことを思い出していた。
人間関係とか勉強とかがめんどくさくなってどうしようもなくなったあの日。
あの時も、自分はこんな叫び声を出していた。
だからこそ、自分は今のオルタの気持ちがなんとなく理解できた。
(「こんな時、あたしならどうする…?」)
カルマは必死に考えた。
友達のつもりに積もった憂鬱を晴らす方法を。
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(「!、そうだ。あの時の私は…!」)
数十分後。
「…よし、行こうか!」
少し落ち着いたオルタをカルマは教室から連れ出して駆け出した。
「…!?」
いまだに泣き止んでいないオルタは、カルマの行動の理由がわからなかった
それでも、オルタの心は少し満たされていた。
誰にも言えない思いをやっと誰かに話すことができた
それだけで、さっきまでビルのように積み上げられた憂鬱が、一気に崩れ去っていく気がしたのだ。
夕陽を浴びた校舎の廊下を二人の少女が駆けていく。
止める者も、見届ける者さえいない静寂の廊下に、タンタンッ、
上履きの音が響く。
二人は廊下をかけた後、階段を駆け上がった。
そして_______
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二人が行き着いたのは、見慣れた学校の屋上。
地平線の向こうに輝く太陽を見つめながら
「よし、誰もいなさそうだな…」
カルマは呟いた。
「…こんな場所で、何をするの…?」
やっと落ち着いたオルタが呟く。
「こうするんだよ。」
カルマは大きく息を吸って、
『叫んだ』。
『こっちは不満が溜まってんだよーーーーーーーーーっ!!!』
一人の少女の叫びが夕焼けの空に響き渡る。
オルタは少し耳を塞ぎながらも、
彼女の叫ぶ姿に見惚れていた。
「…ふーっ、さあ、あんたも叫んでみな。すっきりするぞ!」
カルマは笑顔で言う。
オルタは校庭の大地に立って、大きく息を吸う。
体が震えた気がする。
そして遂に彼女は叫んだ
「私の辛さを誰か聞いてよーーーーーーーーーーーーっ!!!」
また、一人の少女の叫びが空に広がる。
その瞬間、オルタの視界は急に開けたような気がした。
一方カルマは、叫ぶオルタを見て、
(「オルタ、意外と叫び声がやばいな…あたしのよりでけえ…」)
と少し、引いていた。
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少しの沈黙の後。
「……はぁ〜っ…疲れた〜」
力を使い果たしたオルタはその場にぺたんと座り込んだ。
そんな彼女をカルマは見下ろして
「どうだった?初めて校庭で叫ぶ感覚は。」
と、笑顔で話しかけた。
「…書くのとはまた違った感覚だね…
本当に「吐き捨てる」ような、そんな感じ…」
息が上がっているオルタも笑顔で応える。
「ははっ、そうか。」
(「こんなことはもう二度とできないかもしれないけど…」)
カルマはそう思いながら彼女に言った。
「じゃあ、帰るぞ。」
カルマは言う。
「…うん。」
オルタは彼女の手を取って立ち上がった。
彼女の心はもうすっかり晴れている。
「明日も頑張ろうな、オルタ。」
カルマが笑顔で言う。
「そうだね。カルマ。」
オルタも笑顔でそう言った。
その時の夕焼けの太陽は今まさに彼女たちを照らさんと一層輝いていた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・(終わり。)




