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学園


 セリア・ルミエールは転生者である。生前は華の女子高生をしていた。華の、とは言っても女子校の王子様をしていたタイプなので皆が想像するのとは少し違うかもしれない。


 親譲りの高い背とスラリと長い手足、スッキリとした綺麗な顔立ちは女の花園で王子様役になるのにはピッタリだったのだ。そしてなにより自身が可愛い女の子が大好きだった。いや、可愛くない女の子なんていないのだが。そんな彼女は雨の日の歩道橋で足を滑らせて死んだ。悲しい事故である。まぁ、死んだものは仕方ない。基本的に明るく生きてるので、いや死んだのだが、こうしてまた生を受けたので無問題である。


 うんうんと頷いてセリアは鏡の中の自分を観る。まだ5歳なので記憶の中の自分よりも随分と幼い。生前の自分は美人だったが、いまの自分もかなり美人である。というか生前の自分とどことなく似ている気がする。前から見ても横から見ても斜めから見ても最高だ。セリアは女の子が大好きだったが、自分のことも大好きだったのでこれには大満足である。


「完璧だね」


 鏡の中の自分に満足した辺りで、母が部屋を訪れた。今日は王子様とお茶会があるらしい。女子校の王子ではなく正真正銘この国の王子様である。


 初めて会った王子様はめちゃくちゃ可愛かった。サラサラの絹のような髪、宝石を砕いて散りばめたような瞳、新雪のように白く透き通る肌、果実のように色付いた頬。そして何より、緊張からか小刻みにプルプルと震えている様子が生まれたての子うさぎの様であった。そのあまりの可愛らしさに、セリアは思わず前世の癖で、王子の手を取って顔を覗き込んだ。


「緊張しているの? 可愛いね。大丈夫だよ、何も怖いことは無いからね」


 その言葉を聞いて、ポカンとセリアを見つめた王子はじわじわと顔を真っ赤にさせて固まってしまった。


 これが、セリアと第3王子レオンハルトの出会いである。


 尚この後セリアは言葉遣いについて母親にこっぴどく叱られた。



「にしても出会った時の殿下は可愛らしかったですね。いや今も大変可愛らしいんですけど」


 ふと昔のことを思い出して、馬車の目の前の席に座るレオンハルト殿下にそう言うと殿下は「分かった分かった」と適当な返事をしながら馬車の外へと顔を向けた。その耳がほのかに色付いているのを確認してセリアはにっこりと満面の笑みを浮かべる。今日も今日とて殿下は可愛い。


 あの顔合わせの日から、セリアはレオンハルト殿下の婚約者候補となった。候補と言っても家柄や年齢、諸々の政治的事情からほぼ内定していると言っても良いだろう。そうでなければこうして学園に同じ馬車で向かったりしない。


 セリアは学園の門前に着いた馬車から降りて、レオンハルト殿下へ手を差し出す。普通エスコートは男性が女性にするものであるが、殿下は「やれやれ……」と言った顔はするものの好きにさせてくれている。とても優しい。セリアは与えてもらえる優しさや甘やかしには全力で乗っかるタイプなので遠慮なく好きにさせてもらっている。


「足元気をつけてくださいね」

「セリアが何もしなければ問題ない」

「え? お姫様抱っこが良いですか?」

「新入生の前でやめろ……本当に出来るから困るんだよお前は」


 はぁ、と呆れた溜息をつきながらもレオンハルト殿下はセリアの手を取って馬車を降りる。昔はセリアよりも殿下の方が頭1つ分以上身長が低かったが、今ではほぼ同じ目線だ。このままいけば学園卒業する頃には身長が追い越されているかもしれないなぁ、とセリアはほんの少し惜しく思った。


「新入生可愛いですね。みんな緊張してて」

「セリアは初日から堂々としていたけれどな」

「そうでしたっけ? 殿下が可愛かったことは覚えてるんですけど」


 そんな話をしながら門をくぐった丁度その時、目の前を歩いていた女子生徒がそれはもう盛大に転んだのが目に入った。


「きゃあ」


 という可愛らしい悲鳴を聞いて、セリアは反射的にその女子生徒に駆け寄って手を差し伸べる。


「大丈夫かい? お嬢さん、立てそうかな?」


 セリアに声を掛けられて顔を上げた少女は、何故か驚いた表情でぽつりと「悪役令嬢……?」と言葉を零した。


「悪役……? ふふ、可憐なご令嬢を救う為になら悪役になる事もあるかもしれないね」


 セリアは少女を立たせてあげながらパチンっとウィンクをしてそう言う。その時に、少女の手の甲に唇を寄せる仕草も忘れない。


 それに対して「キャーーー!」っと周りで見ていた女子生徒達から黄色い声が上がる。いつもの光景である。


 初めてこの光景を見た新入生達は戸惑っているが、やがて慣れていくのだろう。


 それを眺めながら、レオンハルトは遠い目をした。


(今年も騒がしくなりそうだな……)



「なんだか最近学園が騒がしいですね」


 入学式から3ヶ月経った昼休み、セリアはレオンハルト殿下と昼食を食べながらそう言った。学園にはいくつか食事を取れる場所があり今回は上位貴族のみが使えるところを利用している。そのため、2人の会話が聞こえる距離に他の生徒はいない。


 セリアの言葉を聞いた殿下は「お前がそれを言うのか?」という顔を隠しもせずにセリアを見る。


「そんな顔されても……」

「セリアがそれを言うのか」

「口に出されても……」


 「仕方ないじゃないですか」とセリアは言いながら、殿下の口元に付いていたパンくずを取って自分の口に運ぶ。それを見た殿下は「そういう所だぞ……」と言いながら項垂れる。ちらりと見える首筋は先程より赤い。


「私のことは置いておいて、1年生の子がちょっと大変って聞きましたよ」


 殿下の様子をニコニコと眺めながらセリアは話題を戻す。何事も引き際が大事なのだ。


「それなぁ……セリアが入学式の日に起こしてあげた女子生徒が居ただろ?」

「あぁ、あの可愛い子ですね」

「お前にとっては女子生徒全員可愛い子だろ」

「それは否定しませんけど」

「まぁいい。そいつが色んな男子生徒と良い仲らしい」

「えぇ……?」


 そんなことしてどうするのだろうとセリアは首を傾げる。セリア自身、色んな生徒を口説いてはいるがあくまで同性だ。異性で口説いているのは婚約者候補であるレオンハルト殿下だけである。


 異性の生徒複数人と良い仲になるのは、その女子生徒自身へのデメリットにしかならない気がするのだが。


「何がしたいんですかね?」

「さぁな……」


 うーん。と考えてみるがこれといってなにか理由が思いつかない。


「あ、私が様子を見に行ってみましょうか?」

「セリアが? 死人を出す気か……?」

「流石に出ませんよ」


 セリアに黄色い悲鳴をあげる女子生徒はこの学園に数え切れないほど居るが、別に本気で恋しているわけではない。演劇の役者に対する熱と同じ系統のものである。なによりレオンハルト殿下がいるのだから。


「それより殿下が見に行く方がマズイですよ」

「それはそうだが」

「任せてください。女の子に声かけるのは慣れてるんで」

「そんなことで威張るな。口説くなよ、様子を見に行くだけだぞ」

「もちろん」


 そしてそのまま、様子見はセリアに任されることになった。


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