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奇数のジンクス

作者: ウォーカー
掲載日:2025/11/02

 占いの種類は数あれど、花占いほど単純な占いは無いだろう。

花の花弁の一枚ごとに願掛けして数を数えて、最後の一枚の願いが叶うという。

そんな花占いに熱中している女子生徒がいた。

名前を、多田おおた祥子しょうこと言った。

祥子は何を決めるにしても、花占いで決める。

今日の服装から、夕飯の献立まで。

花占いとは言っても、本当に花を使うわけではない。

例えば適当に用意した葉っぱの数や、

千切った紙の切れ端の数で決めたりもする。

お手軽だがしかしその結論には全幅の信頼を寄せていた。


 今、祥子が夢中なのは、憧れの先輩との恋愛について。

お相手はサッカー部のエースで三年生、一沢いちざわと言う。

部活動もしていない一年生の祥子とは釣り合わないように思えた。

しかし、祥子の花占いによれば、二人は相性抜群なのだという。

「花占いで、先輩と私の相性占いしちゃったんだよね。

 一枚目は一年生、つまり私のこと。

 二枚目は二年生のことなので無し、

 三枚目は三年生の一沢先輩。

 好き、嫌い、好き。一枚目と三枚目は好き同士。ほら、相性ピッタリ。

 おまけに、先輩の名前には一という字まで入ってる。」

祥子本人は至って真剣なのだが、

友人たちからは祥子の花占い趣味は呆れられている始末。

「そんな単純な理由で、先輩に告白するの?」

「大丈夫かなぁ・・・。」

しかし何事も行動を起こさないことには始まらない。

そのきっかけになるのなら、花占いも捨てたものではないかも。

そう考えて、友人たちは祥子の後押しをした。


 祥子はサッカー部の先輩である一沢に告白することにした。

決行日は、花占いに従って、お互いが現学年になって奇数日目の今日。

更には朝食の海苔は奇数枚だけ食べ、昼のピザも奇数である一欠片だけ食べた。

学校まで来る歩数まで、奇数で揃えた。

その度に、好き、嫌いと数えたものだった。

これ以上に準備のしようがない。

放課後、校舎裏で待つ祥子のところに、一沢がやってきた。

「一沢先輩!来てくれたんですね。」

「ああ、呼び出されたからね。それで、要件は何?」

「実は・・・私、一沢先輩の事が好きです!付き合ってください!」

祥子の精一杯の勇気を込めた言葉は、しばらくの静寂を生み出した。

それから、一沢が口を開いた。

「俺は多田さんのことが嫌いじゃないけど、でも良いのかい?

 僕は三年生、君は一年生だ。

 残りの学校生活で一緒にいられる時間は限られている。

 俺、卒業後は、遠くのサッカークラブに入ることがもう決まってるんだ。」

「と、いうことは、先輩と私のお付き合いは、卒業までの数カ月だけですか?」

「うん、そう。」

「それでも良いです。

 花占いが、私たち二人の相性が良いと言ってるんです。

 これから先、何があるかわかりません。付き合ってください!」

「そこまで言うなら・・・」

祥子が伸ばした手を、一沢が優しく握る。

こうして、祥子と一沢は恋人として付き合うようになった。

何の接点もない、花占いで選んだだけの相手。

しかも一沢はあと数ヶ月でいなくなることが決まっている間柄だった。


 それから、祥子と一沢の恋人同士としての生活が始まった。

祥子は毎朝早起きをして一沢のために弁当を作った。

もちろん、中に入れるものは、花占いで縁起の良い奇数になるようにした。

海苔は三枚、沢庵も三枚、ハンバーグは一個、プチトマトは三個。

弁当の数を奇数にするために、父親の分の弁当もついでに作った。

彼氏のおまけと言われ、父親は複雑な表情をしていた。

昼休みにはサッカー部の練習の合間をぬって、一緒に弁当を食べたものだった。

だが、そんな二人の恋人生活は、思ったよりも甘くはなかった。


 祥子と一沢の恋人生活は、恋人生活らしからぬものだった。

弁当は一緒に食べ、登下校は仲良く並んで、たまには手を握ったりもした。

しかし一沢は、それ以上のことを祥子にしようとはしなかった。

例えば祥子が接吻を望んだ時も、一沢は応じなかった。

それは、一沢の良心によるものだった。

一沢は数カ月後の卒業後、遠くに行くことが決まっている。

今、祥子と愛を深めたとしても、破局は決められていること。

まだ若い二人が遠距離恋愛など無理だと悟っていたから。

だから一沢は祥子を傷つけないように、後戻りのできないことはしなかった。

しかし、祥子にとってはそれが不服だった。

遠距離恋愛が可能かどうか、やってみなければわからない。

今、愛し合っている二人が、何の遠慮をする必要があろうか。

それが男の優しさであることを、まだ若い祥子は理解できなかった。

認識の違いは心のすれ違いを生み、祥子と一沢の関係は悪化していった。

ある日、一沢は祥子に言った。

「俺たち、これまでにしよう。」

一沢からの離縁の意思表示は、半ば祥子のものでもあった。

祥子は今日、一沢との恋人関係が終わると確信していた。

なぜなら、今日が祥子と一沢が付き合い始めて偶数日だったから。

好き、嫌い、好き、嫌い、何度も繰り返した花占いの凶兆の日だった。

祥子は花占いで相性が良いはずの一沢と破局したことを悲しみながら、

しかし花占いへの信頼はまだ捨ててはいなかった。


 それから数年後。

祥子は高校を卒業し、進学していた。

進学先はもちろん、花占いで決めた。

日々の生活も相変わらず花占いで決めていた。

好き、嫌い、好き、嫌い。奇数は吉兆、偶数は凶兆。

すると、ある日、ある男子学生から声をかけられた。

「君、いつも同じ講義に出てるよね?

 俺、二見ふたみ。君の名前は?」

「・・・多田祥子です。」

二見と名乗った男は、見るからに軽そうな男だった。

チャラチャラとした身なりは、祥子の好みにも合わない。

「でも・・・。」

と、祥子は思った。

祥子は一沢との件以降、男との接触を避けていた。

だからいつまで経っても、花占いの二番目、縁起の悪い状態のままだ。

こんないい加減そうな男なら、

適当に付き合って振ってしまえばいいかもしれない。

そうすれば、縁起の悪い二人目を消化することができる。

そんな打算もあって、祥子は二見に誘われるがままに付き合うようになった。


 二見は付き合ってみると、思ったよりも真面目な男だった。

チャラチャラした外見は変わらないものの、人の話はきちんと聞く。

だから花占いのことについても、真剣に聞いてくれた。

「つまり、俺は花占いで嫌いになるはずの二番目の彼氏なんだな。

 一番目じゃないのはショックだけど、それ以外は気にしてないよ。

 祥子ちゃんが気にするなら、なるべく触れないようにする。

 でも、俺は花占いが理由で祥子ちゃんを諦めるつもりはないな。

 占いの結果なんて、人の力で変えられると思うから。」

そんな生真面目なところは、祥子の気に入るところだった。

結局、祥子は、花占いの凶兆である偶数を消化する目的だったはずが、

二見との恋人関係は続けることになった。


 祥子と二見の蜜月は、比較的長く続いた。

しかし祥子にとって花占いの結果は絶対。

二見とは接吻程度は許しても、それ以上の関係は絶対に許さなかった。

祥子曰く。

「私たちは絶対に上手く行かない。

 だから、これ以上深い仲になったら、きっとお互いに傷つくよ。」

「占いは占いだろう?」

祥子と二見は、お互いの関係と占いを巡って言い合いになることが多くなった。

破局が訪れるのは、誰が見ても明らかだった。


 「もうたくさんだ!お前、俺より占いの方が好きなんだろう!?」

「私は最初から占いは大事だって言ってたよ!」

ある日、祥子と二見はとうとう感情をぶつけ合うことになってしまった。

何をするにも奇数は吉兆という祥子の花占いに、

二見は辛抱強く付き合ってきた。

しかしそれでも、祥子は二見に身体を許すことはなかった。

それが二見の我慢の限界を超えてしまった。

「勝手にしろ!占いとでも付き合えば良い!」

こうして祥子は、花占いで不吉な二人目の恋人とも破局してしまった。

しかし今度は何の疑問もない、占い通りの予想された結果だった。


 それからしばらく、祥子は男とは無縁の生活を送っていた。

花占いによれば、次は縁起の良い三人目の男。

付き合えば上手くいく可能性は高いと祥子は思っている。

だからこそ、相手は慎重に選びたい。

そして間もなく祥子は、三人目の恋人と出会うことになる。

相手の男の名前は三田みた。爽やかな好青年だった。

「祥子さん、僕と付き合ってください!」

数回のデートの後、祥子は相手の方から告白された。

もちろん、そのデートは奇数回目のデートだった。

やはり花占いはまだ有効なのだろう。

その事を確信して、祥子は三田に答えた。

「私、占いが好きなの。特に花占いは、私の行動原理。

 奇数は幸運で、偶数は不幸を表す。

 私にとって三人目の三田君は、私を幸せにしてくれるよね?」

「もちろんだとも。」

三田は占いの類に疎い。

だから祥子が占いに凝っているというのがどれほどか、

その時はまだ理解できなかった。


 「今日は付き合い始めてから偶数日だから、デートは無し。」

「ええ~?せっかく、映画のチケットがあるのに?」

こんなやり取りはもう何度目だろうか。

花占いの結果を重視する祥子に対し、三田はそれが理解できない。

奇数は吉兆、偶数は凶兆。花占いの原則は絶対。

おかげでデートができた日も何かと偶数を見つけてはギクシャク。

お互いの関係は足踏みする一方だった。

そんな状態では男の方が耐えられるはずもなく、

まもなく三田の方から破局を伝えられてしまった。

「もう付き合ってられない。別れよう。」

一人、喫茶店に残された祥子は、コーヒーを一口飲んで呟いた。

「おっかしいなぁ。縁起の良い奇数人目の彼氏だったのに。」

祥子は性懲りもなく、まだ花占いの結果に没頭していた。


 それから祥子の四人目の恋人ができるまで、しばらくの間が必要だった。

祥子は既に今までの恋人たちの事は忘れ、

しかし花占いの不吉な偶数人目の恋人を作るのに躊躇していた。

すると、おかしな告白をしてきた男がいた。

「多田さん、俺、はしと言います。一日だけ付き合ってください!」

「い、一日だけ?どうして?」

「だって、多田さんは、花占いに従って行動してるんだろう?

 だったら、奇数日の一日だけ付き合うのは縁起が良いと思うんだ。」

「あなたはそれでいいの?一日限りの恋人だなんて。」

「もちろん!あ、変な意味で言ってるんじゃないからね?

 今日一日、商店街でも一緒に散歩してくれたらいいから。」

「そ、そう?」

一日だけの恋人関係。

それは花占いで縁起の悪い偶数人目の恋人を消化する上で、

四ツ橋という男だけでなく祥子にも利益があった。

そうして、四ツ橋と祥子の一日だけの恋人関係が始まった。


 四ツ橋は祥子を連れて、商店街をぶらぶらとしていた。

特に何を買うだけでもなく、見るだけのウィンドウショッピング。

まるで時間を潰すような行動に、祥子が上目遣いで様子をうかがった。

「私、歩き疲れちゃった。どこかに入らない?」

すると四ツ橋は、祥子の手を引いた。

「すまない。ちょっと行きたい場所があるんだ。

 お茶はその後にしてくれないか。」

「えっ?うん・・・。」

四ツ橋が祥子を連れて行ったのは、寂れた公園だった。

今はもう夕方。公園で遊んでいる子供たちの姿はない。

そこには一人、眼鏡の男が立っていた。

眼鏡の男は背があまり高くないが、祥子と同年代のようだ。

四ツ橋は祥子を公園まで案内すると、振り返って言った。

「俺の役目はここまで。

 これで、俺と祥子さんの恋人関係は終わりだ。

 代わりに、こいつの話を聞いてやってくれないか?」

「え?ええ?」

わけがわからない祥子に、眼鏡の男が顔を赤くして言った。

「多田祥子さんですよね?

 僕、五島ごとうって言います。

 上に二人兄がいて、三男なんです。

 兄の友人の四ツ橋さんに頼んで、祥子さんと引き合わせて貰いました。

 そして、祥子さんに告白する五人目の男ですよね。

 どうでしょう。これだけ奇数が揃ったら、

 花占いもバッチリじゃないですか?

 祥子さん、僕と付き合ってください!」

「そっ、それは・・・」

お膳立てされた状況に、祥子は戸惑った。

四ツ橋は最初から祥子を五島に引き合わせるためだけの役割だったのだ。

五島は、名前に奇数が付き、奇数人目の男で、奇数人目の兄弟。

まさに花占いにピッタリの男だ。これを断る理由はない。

是非もなく、祥子は目を輝かせて言った。

「五島さん、こちらからも、お付き合いさせてください。」

出会って僅か数分のスピード交際。

五島も祥子も今は幸せそうな顔をしているが、

この恋が実るかどうか、知っているのは花占いだけ。

どうかこれが花占いの一枚目の真の恋になりますように。

そう願っていたのだが、祥子はふと気が付いて呟いた。

「・・・あ、ラッキーセブンはまだだったな。」

「え?祥子さん、何か言った?」

「ううん、なんでもない。」

祥子の恋が成就するのは、まだ時間が掛かりそうだった。



終わり。


 子供の頃によくした花占いの話でした。


占いは根拠はともかく、行動の指標を与えてくれます。

あれこれ考えるだけで動かないよりは、その方が良いかも。

とは言え、占いは行動の結果まで保証してくれません。

花占いにも占いやジンクスはたくさんあるので、

いくつもの占いの結果が喧嘩してしまう可能性もあります。

利用は計画的にしたいものです。


お読み頂きありがとうございました。


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