07
幸いなことにミーナにはまだ一つ手があった。
将来の社交界の練習も兼ねて学園で定期的に開催される自由参加型のパーティー。
縦と横の付き合いを広げる意味合いもあり、学年も入り混じっての出会いにはうってつけの場だ。
ここならばまだミーナにチャンスがあるだろう。
ただ一年生ならばまだしも二年生、三年生ともなれば大概の令息は婚約が決まっていることもザラで、上級学年と必要以上のトラブルを避けるためにもミーナはこれまで参加することはなかった。
だが今更しのごも言っていられない。
自分は絶対玉の輿に乗るんだ! というギラギラとした熱意を胸にとうとう今宵開かれるパーティーに出席したのだった。
しかしエスコートの相手はおろか、会話に興じるための友人すら連れ立っていないミーナは片隅で路傍の石が如く小さく固まるのみ。
それもそのはず、ミーナは他人をきっかけにして話題を作り出す方法でしか相手を落とす術を持たないので、まずどうやって年上の令息に声をかければいいか分からなかったのである。
無情にも時間だけが過ぎ、ただひたすら四方八方に視線をうろうろさせること約十分、不意にミーナはある人物を見つけた。
(あれは……)
それはこの国の第三王子であるルーウェンその人だ。
彼もまた学生をやっていることは知っていたが、さすがに本命候補とはいえキープ相手に選ぶには分が悪いと諦めていた。
だがこうなっては引くに引けない。とりあえず唾をかけるだけかけることにしようと、止せばいいのにそのような覚悟をミーナは決める。
そんなルーウェンだが、なにやらどこぞの令嬢と話し込んでいる。
しかし傍目からすればそこまで仲の良さげな雰囲気には見えない。
(これは……イケるっ!)
相談女としての本能がそう知らせる。
あの女をダシにしてなんとかルーウェンとの会話に持ち込み、これまで幾多の男を落としてきたそなテクニックで見事籠絡してやるのだ。
そうと決まれば、だ。
早速行動開始だ。
「ねぇルーウェン様ぁ~」
狩人は先んじて罠を仕掛けるもの。
いつも通りの猫なで声を意識してミーナは標的に声をかける。
キープたちによるこれまでの傾向から、殿方好みの声色は知っていた。
「ん、君は……? 見ない顔だが」
そこでようやくこちらに気づいたルーウェンに、更なるアプローチを仕掛けることにする。
こういうのは最初の印象が肝心なので、畳みかけるべしとばかりに!
「初めましてぇルーウェン様ぁ、あたしぃミーナと申しますぅ~。お会いできて光栄ですぅ」
わざとらしくしなを作りながらそれとなくルーウェンと、彼と話していた女性の間に上手いこと割り込む。
どころか、抜かりなく女性を背中でに絶妙に隠すベストポジションまで取る有り様だ。
もちろん後々ダシにするつもりではあるが、今は邪魔なので後ろの彼女は一旦無視することにした。
「これは失礼したミーナ嬢、レディに先に名乗らせるなど。遅らばせながら僕はルーウェン・アルトバルト、若輩者ではあるがこの国の第三王子を名乗らせていただいている者だ。以後よろしく頼めるだろうか」
ルーウェンは突然の来訪者に一瞬鼻白んだ様子だったが、このパーティーの元々の目的を考えた結果、すぐに折り目正しく自己紹介をしてくれた。
だが態度は固く、若干融通は効かなそうものの、こういった手合いは一度落ちるととことんまで弱いことをミーナは知っていた。
「やぁんルーウェン様ったらぁ、ミーナで構いませんよぉ。これからよろしくなのはこちらもなんですけどぉ、他人行儀なのって好きじゃないんですぅ」
~嬢呼びは令嬢に対する敬称ではあるが、もちろん関係性にも距離がある。
なので呼び捨てにしてもらった方が親しみ感が上がるというもの。
「いや、そういうわけにはいかないよ。……それでミーナ嬢、僕に何か用だろうか?」
言外に用がないのであれば、もしくはただの挨拶が済んだのならあとは遠慮してくれと訴えられていたが、あえてそれに気づかない振りをしてミーナは続ける。




