05
ちょっとした傷心旅行だったはずがいつの間にか少し早めの修学旅行のようになり、もう半年が過ぎた。
カナデアたちの最初の予定ではひとまず半月程度のバカンスのつもりだったが、予定が延びに延び、気がつけばこの有り様だ。
しかも名目もいつしか留学へと変わっており、なんと中には本国から正式に転校してしまった者もいる。
異国情緒あふれる隣国の雰囲気と、前の学園での出来事に嫌気が差してしまった結果だろう。
一応カナデアたちはまだ本国の学園に籍を置いているが、帰る予定は今のところはない。
なにせ皆それぞれ、こちらの令息との新たな出会いがあったからだ。
「――カナデア、隣いいかい?」
「アンドリュー。ええどうぞ」
ベンチの上で海を眺めていたカナデアの隣におずおずとアンドリューが拳一つ分の距離で座る。
キリリと引き締まった体躯に、わざわざカナデアが汚れないようにとハンカチを用意する紳士っぷりはかつてのリューグスとは大違い。
そのまま二人、何をするでもなく気ままに潮風に揺られる。
「本当に綺麗な海。ずっと眺めていても飽きないくらい」
「まるで君と一緒だねカナデア、僕も君を見ていて飽きることはないよ。むしろその海のように青い瞳に吸い込まれ、もっと夢中になるほどだ」
「お上手ね」
「飾ることのない本心さ」
そう歯の浮くような台詞を面と向かって言われ、大胆にも手を握ってきた。
ひそかに想いを育んでいたとはいえ、これまでは清い交際だったからつい驚いてしまう。
そんなカナデアの目には大胆な行動とは裏腹に、真面目な表情をしたアンドリューが映る。
「実は今日君をここに呼んだのは他でもない。……ねえカナデア、運命に導かれるようにして僕たちが出会ってからもう半年だ。もし君さえ良ければ僕と真剣に将来も考えてほしい」
突然のプロポーズ。
隣国の男性は情熱的だと聞いたことがあるが、まさか本当だとは。
「ありがとうアンドリュー、貴方からのその気持ちは嬉しいわ。私も貴方となら上手くやっていけそうな気がするわ。でもその前にまずは私の父と会ってくれる?」
「ああもちろんだ、僕たちの関係を認めて貰えるように努力するよ」
もちろんプロポーズされたからといっても家同士のこともあるし、気軽に応じるわけにはいかない。
それでもミーナという存在に邪魔されることなく、カナデアは今度こそ自分の将来について真剣に考えることができた。
なにより、いつまでもこうして隣国でブラブラしている訳にはいかない。
良い機会だし、アンドリューを連れ立って本国の実家に帰ることにしようと決断したカナデア。
――それと時を同じくしてミーナ断罪の一報が彼女の耳に届くこととなる。