02
結局、演劇は他にもチケットの取れた友人たちと一緒に観覧することにした。
むろんカナデアにとっては当初の予定とは打って変わったが、それは仕方ない。
むしろ結果的には同じくミーナにしてやられた傷心者同士、何の気兼ねなく劇を楽しむことができると思っていたからだ。
(あ……)
しかし現実は非情で、目と鼻の先には嫌でも目に入る二人組が。
「誘ってくれてェありがとうリューグスぅ、あたし今日まですっごい楽しみにしてたんだからぁ」
「いやーははは、ミーナがそんなにも喜んでくれて俺も嬉しいよ。さあ二人っきりのデートを思いっきり楽しもうか」
おそらくこちらには気づいていないのだろうが、目の前でわざとらしくイチャイチャしている二人組にめっきりとテンションが下がるカナデア。
考えてみればチケットを取ったのが同時期なのだから、こうして出くわす可能性もあったのだ。
「カナデア……大丈夫?」
友人の一人がそう気を遣ってくれたので、あえてカナデアも何でもないように振る舞おうとしたところで――急にこちらを振り向いたミーナ。
「あらぁ奇遇ねえ」
ちっ、と舌打ちをするリューグスとは対称的にぽわぽわと笑うミーナ。
その笑顔に隠された本性さえ知らなければうっかり見とれてしまいかねないほどだ。
「うふふっ、カナデア達もデートかしらぁ?」
からかいのつもりなのか、こちらに男の気配がないことを知ってる上でのミーナの発言にますます気を悪くするカナデア一行。
「なぁんてねぇ。貴方たちもぉ、お友達同士で劇を観に来たのでしょう? ――そうだぁ、一緒に行かなぁい? きっと楽しいわよぉ」
「はぁっ!? み、ミーナ、いやそれは。彼女たちも忙しいだろうし無理に誘っても! というより俺がその、だな……」
言外にその提案は却下だお前らも拒否しろ、と言わんばかりの勢いでリューグスは、ミーナから見えない角度で顔をぶんぶんと横に振っている。
「無理に誘わないでくれて結構よ。二人のデートの邪魔をするつもりもないし、私もみんなとお互いの友誼を深めるために静かに観劇したいもの」
代わりに空気を読んだカナデアが答えると、リューグスはようやくホッと一安心した様子で息を吐いた。
「あらそぉ? ざぁんねん、なら今度会ったら劇の感想を言い合いっこしましょうねー。じゃあリューグス、先に行きましょーよぅ」
「お、おおっ! そうだ、劇を見るときに庶民はポップコーンとかいう物を食べるそうだ。どうせならそれを買っていこうか」
「えー、なにそれ食べたい食べたぁい♪ ふふっ、楽しみぃ♪」
あえてカナデアに見せつけるかのように、かつての想い人であるリューグスの腕を取ってわざとらしく胸を当てながら、甘ったるい猫なで声のままそう言って去っていく二人。
特にミーナは最後まで嵐のような人間だった。
「……私たちも行きましょうか」
明らかに空気が微妙になっていたが、仕方なくカナデアがそう切り出して劇場に向かう。
しかしこれではせっかくのワクワクが台無しだ。
◆
「ああ、なんだか今一内容を楽しめませんでしたわ」
「ええ本当に! 誰かさんがいちいち悪目立ちするようなことをしていたせいでね」
「ねぇ見まして? その誰かさんを注意なさった殿方のあのご様子を」
「見た見た! なによ、ちょっと可愛く泣いてみせたくらいで簡単に鼻白んで情けない」
案の定である。
今は観劇を終えてランチの最中。
本来ならば劇の感想について楽しくあれこれ花を咲かせるところだったというのに。
それを例の誰かさん――つまりミーナのせいでただの愚痴大会となっていた。
(……はぁ、あの子のせいで楽しくない)
その場にいてもいなくても迷惑な存在、それがミーナ。
だがこの時はまだカナデアは知らない。
ミーナの更なるやらかしを。
そしてその結果、彼女がどのような末路を迎えるのかを。