10
「……誰が不細工ですって?」
「あれ? あれあれぇ? ……もしかして気づいてなかったんですかぁ?」
口元をわなわなと震わせ、どうにかそれだけを口にする女性にミーナはこう告げる。
それこそ心底面白そうに。
「決まっているでしょぉ? 不細工なのってあたしこ目の前に一人しかいないじゃないですかぁ」
「もしかして、私のことを言っているのかしら?」
なんとか平静を保とうとする女性に対し、ミーナは更に攻撃する。
「あなたぁ、家に姿見とかないんですかぁ? そんな見た目ソバカスでぇアデノイドでぇ、前髪スカスカのデブスなのにぃ、気づかないなんてことありますぅ?」
嘲りながら、周囲で耳をそばだてていた人間にも聞こえるような声量でミーナは言う。
果たしてそっちは見目麗しいルーウェンと釣り合う容姿なのかと。
対して自分なら相応に美貌が伴っているとも。
多少誇張している部分はあるものの、確かにミーナの言うとおり目の前の女性はさほど整った容姿ではない。
だが――。
「……っ! ふふふ、不愉快だわっ!」
好き勝手に言われた女性はそう叫んだ。
公衆の前で面罵されたからかその大きな顔を羞恥で赤く染め、反対に肩は怒りのせいかプルプルと震わせる。
けれど客観的にみて容姿がこちらに大きく勝っているミーナにはなにも反論できずに、キッと一度睨みつけてから踵を返す。
「こうも面と向かって侮辱を受けるとは、どうやらこの国の人間は礼儀を欠いているようね! ようく分かったわ!」
なんとか内心の動揺を悟られまいと女性は冷静さを取り戻すべく大声を上げた。
しかし彼女が日頃感じていたコンプレックスをああも皆の前で悪し様に突かれ、結局は声が上擦り涙声になってしまう。
我慢しようとするも鼻をすするたびにそのたびに豚の鼻息のようになってしまい、そのことを更にミーナが嘲弄する始末。
とうとう耐えきれなくなり、
「こっ、このことはお父様にも報告させていただきますわっ! ルーウェン様、覚悟しておいて下さいまし!」
とだけ言い残し、足早に会場を後にしてしまう。
「――ああ待ってください! そんな、どうかお考え直しを! 僕は貴方のことをそのように思ったことはないのですから!」
ルーウェンの声量は無意味だった。
「ああっ……! もう、終わりだ……」
絶望そのものといったルーウェンのつぶやきが虚しく響く。
「もーうルーウェン様ったらぁ、元気出してくださぁい。あんなブスじゃなくてぇあたしがお相手しますからぁ」
そんな中、空気を読まないミーナの一言にとうとくルーウェンは――。
「……貴様、なんということをしてくれたのだ?」




