第9話
オーサカ都ミナミにあるネットカフェの前に、阪間は立っていた。
ラシンと名乗る者との待ち合わせのためだ。
歳はおろか、文字のやりとりだけでは男とも女とも取れない。
「こんばんは」
そう声を掛けられ振り向くと、そこには、160cmほどの小柄な男が立っていた。
どうやら、ネットカフェの中から出てきたようだ。
「阪間さん……ですよね?」
「はい。貴方が?」
「ラシンです」
こんな奴、大学にも居たな。
いわゆる陰キャだ。
ラシンの体格は細く、髪は黒光りしている。
表情では誤魔化しているが、心で阪間は少し見下していた。
「部屋はとってあります。行きましょうか」
「部屋って、ネカフェです?」
「はい」
「わかりました」
阪間はラシンの後を歩く。
店内の受付には話を通しているようだ。
小さく会釈をすると、導かれるままに部屋へと入った。
「何かに飲みますか? フリードリンクなんで」
「あぁ、お願いします」
ラシンを見送ると、辺りを見渡す。
PCの設置してあるテーブルのスペースには、赤い宝石の付いたネックレスが置いてあった。
池永が持っていた物と同じだった。
本当に島民か、島民の関係者だけが持っている物なのか。と、阪間の鼓動が波を打った。
デモの起こし方?
ネックレスからPCの画面が視界に入り覗いて観ると、デモについての情報を探しているような形跡がある。
「すみません。ドアを開けてもらえますか? 両手が塞がっていて」
色々と気になることはあるが、まずは話を聞かないと進まない。
阪間がドアを開くと、両手にドリンクの入ったプラスチックのコップを持ったラシンが、申し訳なさそうに立っていた。
ラシンを部屋に入れると、ドリンクの入ったコップをテーブルの空いたスペースに置き、2人はソファーベッドに腰を下ろす。
僅かな隙間を隔てて、並んでいる姿に違和感を拭えない。
しかし、これも池永から報酬を貰っている依頼。
我慢するしかない。
そう心に言い聞かせる。
「いやぁ、まさか神白島を調べている人がいるなんて」
苦笑いを浮かべながら、ラシンはコップに口を付けた。