第8話
池永と会った日から1ヶ月が過ぎたが、有力な情報もないまま、阪間はスマホを弄っていた。
日本最大の情報サイトには、昨日に話題となった、自衛隊によるオーサカ湾防災訓練実地に関するニュースで賑わっていた。
実地を決意したオーサカ都知事の囲み取材の模様が、ショート動画として載せられいる。
「オーサカ湾内で、自衛隊による防災訓練に踏み切った理由を、お聞かせください」
囲み取材の場で、記者から強く詰められいるのは、オーサカ都知事の堺市史子だ。
「そんなの、政府からの要請に決まってるじゃない。だったら、やればいいのよ、やれば」
堺市は、毒舌や辛口のタレントして活躍していた時期があり、その歯に衣着せぬ物言いで人気を博した。
都知事に立候補した際は、多くの府民の支持へてライバルを蹴散らし、トップ当選を果たしている。
「防災訓練は、表向きだ。軍事訓練ではないか。という声もありますが、その辺はどうお考えですか?」
「どっちでもいいじゃない。結果、市民を守る訓練なんだから」
「都知事は、戦争の助長に加担されるということですか?」
意味がわからないといった表情で、呆れたように首を左右に振り言い放つ。
「あなたバカじゃないの。核兵器を持たない日本が戦争の助長? どんなに訓練しても一発撃たれりゃ終わりなのに、抑止も助長も意味がないでしょ」
その勢いのまま、囲み取材を終わらせた堺市は、スタスタをその場を後にした。
オーサカ湾関連のニュースを観終えた阪間は、遅めの昼食を摂る。
小さなテーブルの上に乗せたインスタントラーメンをつるつると口へ運びながら、ルーティンのように呟き系のSNSサイトを開く。
阪間は情報収集のために、日に何度か神白島と検索するようにしていた。
「マジかよ……」
阪間は思わず言葉を洩らした。
この日、この時間まで引っ掛かることのなかったキーワードに1件だけ候補に上がったからだ。
発信者は“ラシン”
確認すると『神白島の存在を隠す、政府による隠蔽操作だろ』そう呟いている。
フォローもフォロワーもおらず、明らかに相手にされていない。
偶然か?
まるで何かに導かれているような気がしたが、こんなにも目に触れられていない呟きを見つけることは2度とない。
阪間は丁寧な言葉を選び、ラシンと名乗る者にフォローを入れ、DMを送った。