第6話
民俗学を専攻する大学生、阪間幸雄は、1978年に海流の影響により沈んだ島、神白島について研究をしている。
オーサカ湾の淡路島と泉佐野を直線状に結んだ場所に、神白島は存在していた。
島民は約160人弱。
集落と呼ばれるほどの人口だった。
海流の影響は、オーサカ活断層帯に起きたスロースリップ現象が原因であり、島民は本土へ避難することになる。
本土へ移った島民の話を聞くと、事実とは異なる情報を、阪間は知ることができた。
当時、島民の移動には、政府高官と自衛隊員が参加しており、島民全員を本土へ避難させた。と、発表している。
しかし、実際に避難できたのは約30名足らずであり、 他130人は行方不明として扱われ、島と共に沈んだという。
しかし真実は違う。
神白島が独自に信仰していた神、羅真様に命を捧げたからだ。
羅真は、人間の欲をかき集めたような神であり、 島の伝承では生贄を捧げることにより、願いが成就すると伝えられてた。
そのような神に、島民たちは何を願ったのか。
得た情報を整理していると、阪間の携帯電話が鳴る。
くたびれたジーンズのバックポケットから携帯電話を取り出した。
「はい、阪間です。どうも、池永さん。どうしたんですか?」
<幸雄くん、いまどこにいるんだい?>
「東オーサカですね」
<いつ戻る?こちらも良い情報を仕入れてね>
「へぇ、情報元は何ですか?」
<創成新聞社の紙面だよ。神白島に関する記事が残っていたんだ>
「亡くなったお父さんの記事ですよね? 本物なんですか?」
<かなり本物に近い。幸雄くん、そっちの調査が終われば、一度すり合わせをしよう>
「わかりました。では、後日に」
通話を終えて顔を上げると、道路の対面にグラウンドと併設された公園を見つけた。
四方を囲む鉄の柵は錆び、砂場も含め、全体に雑草が生い茂っている。
古びた木製のベンチが二つあり、一つは眼鏡をかけたサラリーマンがうなだれていた。
もう一つのベンチに腰を下ろすと、ジーンズのポケットから煙草を取り出し、ジッポライターで火を点ける。
阪間はオーサカ都内にある歴史博物館に勤めていた。
池永等が訪れたのは一年前。
「神白島について資料はないか」と聞かれ、対応したのが阪間だった。
ちょうど、神白島について調べていた阪間は、調査費も出すと言われ、話に乗った。
独自に調べあげた結果、やっと手がかりになりそうな人物と接触した所だった。