第5話
「どういうことですか?」
「この記事では、残った住人は本土へ渡ったとあり、存在していたはずです」
「海流で沈んだとしても、元神白島とか神白島跡とか、表記のしようがありますよね?」
「はい。これが記事にある秘密厳守だとすれば、政府は島の存在を消したことになります」
「何だか怖いですね」
「ただ、知り合いに民俗学を専攻する若者がいましてね。神白島について調査を続けて頂いてます」
「そうなんですね」
「しかし、久慈原さんのおかげで、僅かですが前進しました」
「いえ。でも、どうしてそこまで調査を?」
「この記事を書いたのは、私の父親でして。当時は貧しく、その日を暮らすのも困難でした」
何十年も貧しい生活が続いた池永の父は、突然、大金が入る目星がついたと創成新聞社を立ち上げた。
しかし、創刊号が世に出ることはなかった。
「関連性があるにしても、無いにしても、それが気になりましてね」
リホはペットボトルに手を伸ばし、キャップを開けると一口飲み込んだ。
苦味のある緑茶だ。
それが売りなのだろう。
「確かに、気になりますね」
「久慈原さん。もし良ければですが、この紙面をお借りしたいのですが」
「もちろんです。正直、私もこんなものを残されても。と思っていたので」
「ありがとうございます。ちなみに、他に何か残してないですか?」
「あるといえば、この赤い宝石ですね……」
ネックレスにして、首にかけていた赤い宝石を池永に見せた。
なにか言いたげな表情を見せた池永だったが、すぐに表情を戻す。
「そうですか。では、何かあれば、ご報告致します」
スーツの内ポケットから名刺を取り出し、両手で支えながら目の前に差し出しすと、久慈原は丁寧に名刺を受け取った。
正面玄関口まで見送られたリホは、文化センターを後にする。
電車に乗り込み、家路をたどると中、ふっとあることに気づいた。
どうして祖父は、あの紙面を持っていたのだろう。
多分、池永さんのお父さんから貰ったと思うけど。
少し気になったが、いまから戻るのも億劫だと感じた久慈原は、そのまま帰路へと着いた。