第3話
文化センターは、中央区に走る、地下鉄中央線、城ノ駅から地上に上がると、直結している。
久慈原は休館日を避けるため、シフトを調整して休みを取っていた。
10月の中頃とはいえ、異常気象のせいか、日中の暑さは夏の名残を感じさせる。
入館料を支払い一歩踏み出すと、案内板を見るまでもなく、少し先には新聞のあゆみを追ったものが展示されていた。
展示されている新聞は、年代順に並べられている。
江戸時代の瓦版、幕末時代から新聞と言われ、さらには、1860年に最初の新聞。
1870年には日本初の日刊紙が創刊と、新聞の歴史が長々と説明されていた。
ああ、頭が痛くなってきた。
久慈原は読むのを途中で投げ出し、目的の1980年の新聞紙を探す。
――あった。けど、紙面はないのかぁ。
年表の下枠には、何も置かれていなかった。
説明欄には、創成新聞社創刊と共に消失と書いてある。
……どういうこと?
うつむき考えて込んでいると、横から声を掛けられた。
「こんにちは。新聞の歴史に興味をお持ちですか?」
少し掠れた声で話すのは、40代ぐらいの男だった。
驚いたリホは、僅かに硬直したが、左胸のスーツジャケットに付いているネームプレートを見た。
男はこの施設の館長であり、池永等という人物だった。
「こんにちは。すみません、ビックリしちゃって」
「いえいえ、珍しくてね。思わず声を掛けてしまったよ」
にこやかに微笑む池永を見て安心したのか、久慈原は創成新聞社について、質問をぶつけた。
「少し聞きたいんですけど、いいですか?」
「はい、どうぞ」
創成新聞の紙面をバックから取り出し、新聞を展示しているショーケースの上に置いた。
「祖父が残した物なんですけど、これって、この創成新聞のことですか?」
池永は軽く紙面を見た後、徐々に食い入るように眺め始めた。
しばらく読みふけると、意外な言葉を口にした。
「もしかして、祖父の名前は久慈原蓮司さんじゃないですか?」
「そうですが……なぜ、祖父を?」
「私の父親と関係がありましてね。よければ、少しお話をしませんか?」
少し戸惑った久慈原だったが、せっかく、ここまで来たし。と、頷いた。
安心したかのような表情を浮かべ、池永は久慈原蓮司との関係を伝えるため、事務室へと誘った。