夢から覚めて
目が覚めて、ベッドから起き上がる。まだ少しぼんやりしている。何か夢を見ていた気がするが、どんな夢だったか思い出せない。思い出せないのに、まだ夢の設定の中からまだ抜け出せていない感覚。
部屋を見渡すと、病院の入院部屋のように生活感のない部屋だと気づく。
窓の外を見る。校庭のような、なんとなく何らかの施設の敷地の玄関広場のようにも感じた。直感的に、テレビドラマの知識から警察学校や刑務所のような印象も受けたが、比較的新築の大学寮にいるようにも思た。自分がいるのは、建物の2階か3階くらいだろうか。
部屋の外の廊下から、人がお喋りしながら歩く音が聞こえる。楽しそうにカラカラ笑っている。
部屋を出てみると、自分が大学生であること、大学の学生寮に住んでいることをじわじわ思い出してきた。自然に同じフロアに住む子たちに挨拶をする。
この寮には女子学生のみの居住となっていて、学生以外にも設備管理のための女性スタッフが出入りしている。
今日こんなにも寝覚めが良くないのは、就活が上手くいっていないことや、交際中の彼氏とそろそろ別れたいが切り出し方が分からないことを悩んでいるからだ。
ぐずぐず悩みながら歩いて、気がつくと先ほど部屋から見えたエントランス前広場に出てきた。そのまま外に出ようとしたが、なぜか「敷地の外に出てはいけない」気がしたした。
近くにいた2人組の女の子たちも「外に出たらダメって言われた気がする」とひそひそ話している。ほかのグループの子たちも、開きっぱなしの門のところまで行って立ち止まり、やはり引き返して建物の中に戻っていく。
けれどもなぜか、自分は敷地の外にも出たことがあるような気がしてきた。なぜなら?なぜなら私は就活したり、彼氏と出掛けたりしたことがあるから、敷地の外に出たことがあるに違いない。
ぼんやりと周りを観察していると、スタッフと思われる女性が慌てている。また別のスタッフらしき女性に報告している会話内容から、とある学生が見つからないことが伺えた。
周りにいた学生も様子を察して、みんな手分けして探し始めた。私も一緒になって探してみるが、誰がいなくなったのかぴんとこない。
ふと「その子は外に出てしまったのでは」という考えが過ぎる。そばにいた2,3人も同じことを思い浮かべたのか、門の外へ走り出す。続けて私も走り出す。
目が覚めて、ベッドの上で体を起こす。まだ少しぼんやりしている。何か夢を見ていた気がする。
そう、ここはとある医療研究施設。事故等で身体の一部を失った人や生まれつき身体の一部が欠損している人を対象とした研究を行っている。今回は、被験者に欠損している部分の補助具を着装した状態で催眠をかけ、施設の中で生活してもらう臨床試験を実施していた。この研究の目的は、事故のトラウマや欠損によるいじめ等の記憶を限りなく縮減しつつ、身体の欠損を感じることなく生活できるようにすることである。
「私は身体のどの部分を失ったんだっけ?」思い出せずに焦りが込み上げてくる。
「ほらチーフ、いつまで寝ているんですか?早く起きて試験結果をまとめてください。」
白衣を着た女性がややドライな感じで私に話し掛けてくる。そこで私はやっと催眠から完全に覚醒した。
私は研究者。今回の臨床試験で、私自身も被験者となることにより、催眠手法の課題を見つけるのが私の役割であった。
「家族も待っていることだし、試験結果はそこそこにして、今日は早く帰ろう。」