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第9話 答え合わせ

 儀式当日、美穂はある仕事を任せられていた。

 鉄血の加護を受けた人間の処分だ。


 先ほど説明したように、紅鉄を持っている人間は通常なら鉄巨人になる。

 しかし、血印の兄弟団によって作られた紅鉄のお守りを持っていた場合、所持者は鉄血の神の加護を受けるため、人間から変異しない。

 これが、神仏信仰研究所の計画にとって問題になった。


 今回、研究所は神の力を独占するため、協力関係にあった血印の兄弟団を裏切って儀式を行っている。

 そのため、お守りによって血印の兄弟団の関係者が生き残ってしまうのは不都合だったのだ。

 それに、神の力が籠められることに変わりはないため、紅鉄製のお守りも回収する必要がある。


 以上のような理由から、鉄血の加護を受けた人間は処分されることになった。


 儀式を始めた時に、一つの街の人間をほぼ皆殺しにしたのだ。

 今更、「非人道的だ!」などという声を上げる人間は、研究所にはどこにもいなかった。


 神仏信仰研究所は、鉄頭などの化け物と戦闘になることを見越して、裏社会と取引を行い銃火器を確保している。

 美穂は、その中から一丁のリボルバーを借り、四名の戦闘員を引き連れて、儀式が行われている最中の街へ出た。

 命令通り、鉄血の加護を受けた人間を処分するためだ。


 美穂たちは標的を探すため、銃で鉄頭を撃退しながら街を探索していく。

 それで、途中までは順調に探索を進められていたのだが……とある曲がり角の先に進んだとき、彼らはとんでもない不幸に見舞われた。

 鉄巨人と至近距離で鉢合わせてしまったのだ。


 鉄巨人は、全身を鉄の結晶で覆われた強大な化け物だ。

 リボルバーやアサルトライフル程度で倒すことはできない。

 美穂が率いていた四名の戦闘員たちは、抵抗虚しく鉄巨人に蹂躙されて、あっけなく死んでしまった。

 だが、美穂はその隙に、鉄巨人が入れない裏路地へギリギリで逃げ込むことができた。


 敵を逃がした鉄巨人は、悪あがきで裏路地の入口辺りを殴りつける。

 その結果、裏路地を構成する建物の一部が崩壊し、瓦礫が美穂の頭に降り注いだ。

 瓦礫を頭に打ち付けてしまった美穂は、運よく生き延びたものの、しばしの間気絶して記憶を失うことになる。

 

 これが、美穂が失った記憶の全て。

 彼女が彩華に出会うまでの前日譚だ。


 ++++++


「私の話はこれで以上よ。何か質問はある?」

「え~っと、聞きたいことはあるんだけど、ちょっと待って。美穂さんの人生、情報量が多すぎるかも」


 話を終えた美穂にそう返事をしてから、彩華は情報の整理を始める。

 今の話から得られた情報によって、多くの疑問が解決しようとしていた。


 街のみんなが鉄頭になってしまった理由も、鉄巨人同士が争っていた理由も、美穂が彩華を殺さなければならなかった理由も、全て明らかになったと言っていい。

 だが、まだ分からない事が一つあった。


「結局、私が能力を手に入れた原因は何なの? 鉄血の加護とやらのおかげ?」

「半分正解で、半分不正解ね。鉄血の加護を受けたからといって、普通の人は鉄や血を操れるようになったりしないわ。けれど、あなたには適性があった」

「適性?」

「そう。以前実験して検証したのだけれど、普通の人間は鉄血の神の力を流し込まれても、それを五パーセントぐらいしか自分の物にできないの。でも、あなたは違う。私の推測が正しければ、あなたは流し込まれた神の力を九十パーセント以上自分の物にしている」


 やや興奮気味な様子で、美穂は彩華にそう説明する。

 記憶を取り戻した彼女は、以前よりも気力に満ちているように見えた。


「つまり、私はお守りに流れ込んできた神の力をほぼ自分の物にできたから、鉄とか血を操れるようになったってこと?」

「その通りよ。あなたぐらい適性があると、能力以外にも変化があるみたいね。性格が変わったこと、自分でも気づいてるんじゃないかしら」

「それは――」

「恐らくだけれど、あなたの思考は神に近づいてるわ。人に対する共感性が薄くなって、そのせいか罪悪感も薄くなってる。能力も思考も、神に近い。今のあなたを一言で表すなら、鉄血の神もどきね」


 美穂にそう言われて、彩華は少なからず動揺する。

 確かに、自分の性格が変化している自覚はあったが、神に近づいているとは思わなかったのだ。

 

「でも、別に問題ないと思うわ。見た目は人間のままだし、ちょっと変わった子ぐらいで済むわよ」

「まぁ、そうかもしれないけど……自分が人間辞めてるって思うと、ちょっと衝撃」

「でしょうね」


 動揺はしても、精神的ショックはそれほどでもなさそうな彩華の言葉に、美穂はそう返事をする。

 それから一拍置いて、美穂は彩華に提案をした。


「ねぇ彩華ちゃん。ここで一つ、私と取引をしない?」

「取引って、どんな?」

「この異変が解決したら、鉄血の神の能力で私の妹を助けて欲しいの。その代わり、私は神仏信仰研究所を裏切って、あなたに協力することを約束する。そういう取引よ」

「私はいいけど……美穂さんは研究所を裏切っても大丈夫なの?」

「ええ。これまで、研究所のために非人道的なこともしてきたけれど、妹さえ助かるならもうあんなことはしたくないの。それに、はっきり言って黒川所長は信用ならないから」

「ん~、分かった。そういうことなら、取引しよっか」

「交渉成立ね。これが、妹の病院の場所と、病室の場所のメモよ。もし私が死んでも、妹だけは助けてくれると嬉しいわ」


 そう言って、美穂は彩華に一枚のメモ書きを手渡す。

 そこには、彼女が言った通り病院の住所と病室の番号が書かれていた。


「それじゃあ改めて、異変を解決するために動きましょうか」

「うん。私もそのつもりだけど、どうすれば儀式を止められるの?」

「蟲毒の勝者が決まった時。つまりは、誰かが神の力の大半を集めた時に、儀式は終了するようになっているわ。今頃、研究所の戦闘員たちが鉄巨人を殺して回って、紅鉄を集めてるんじゃないかしら。私たちは返り討ちにされたけれど、鉄巨人用に対物ライフルも準備してあるのよね」


 美穂がそう言った瞬間、辺りにズドンという衝撃音が響き渡る。

 それに続いて、二人は僅かに地面が揺れるのを感じた。


「ちょうど今聞こえたのが、対物ライフルの銃撃音ね」

「それじゃあ、今地面が揺れたのは――」

「鉄巨人が倒れた時の衝撃が原因じゃないかしら。少し急がないと不味いかもしれないわ。取り敢えず、あの戦闘員たちから戦利品を回収しましょうか」


 そう言って、美穂は彩華と共に資料室を出ると、死臭が漂っている廊下へと戻る。

 そして、殺した戦闘員たちの死体を漁り、隊長の死体から紅鉄のお守りを五つ回収した。

 お守りの個数から推測するに、この戦闘員たちは鉄血の加護を受けた人間を五人殺したのだろう。


 死体漁りを終えたところで、彩華は美穂に話しかけた。


「紅鉄の回収は済んだけど、次はどうするの?」

「……神仏信仰研究所の本部に向かいましょう。紅鉄が黒川所長の手に渡る前に、研究所の中心部を制圧するの。それで、あなたが研究所に集められた紅鉄を総取りすれば、万事解決でしょう? あなたの戦闘能力を頼りにして悪いのだけれど、やってくれる?」


 そんな美穂の言葉に、彩華は黙って頷いた。

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