表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

第8話 真実

 あれから少しして、美穂は記憶の整理を終え、ようやく平静さを取り戻した。

 まだ顔色は悪いようだが、それでも前よりかは随分マシだ。

 立ち上がって顔を上げた彼女の表情は、どこかスッキリしているように見える。


 その一方で、彩華は相変わらず平然としていた。

 死の淵から帰ってきた事も、初めて人を殺した事も、彼女を動揺させるほどの事ではなかったようだ。

 

「美穂さん、落ち着いた?」

「ええ。おかげさまで、ようやく全てを思い出したわ。この記憶が正しいか、今から確かめてみるつもりよ。……それよりも、あなたの傷は大丈夫なの?」


 彩華の胸の傷を見て、美穂は気遣わしげにそう話した。


 実際問題、銃で撃たれた彩華の服は穴だらけかつ血まみれで、かなり痛々しい外見をしている。

 本人がいくら平気そうでも、美穂が心配してしまうのは当然のことだった。


「私はもう大丈夫だよ。血を硬くして、身体に開いた穴を一時的に塞いでたんだけど、もう治ってるみたいだから」

「ええ? 嘘でしょう?」

「ほんとだって。ほら」


 彩華は着ている服をたくし上げて、その胸部を美穂に見せる。

 それで、美穂がそこをよく見てみると、確かに傷跡がなくなっていた。


「本当に治ってるわね。あの重症を、自然治癒だけで再生させたの? ……これも、鉄血の神の能力なのかしら」

「私のこの能力にも、何か心当たりがあるの?」

「ええ。でも、詳しい話は後にして、今は私についてきてもらえるかしら。そこに着いたら、私の知っている事を全て話すから」


 そう言って、美穂は支部の廊下を迷いなく歩き始める。

 そんな美穂に、彩華は慌ててついて行った。


 そうして二人がたどり着いたのは、資料室と書かれているプレートが設置された部屋の前だ。

 その中に、美穂は迷わず入って行く。

 続いて、部屋の中に入った彩華が見たのは、金属製の白い本棚がずらりと並んでいる光景だ。


「ここは?」

「鉄血の兄弟団の資料室よ。現在までに発行された機関誌だとか、血印の兄弟団の歴史に関する資料だとかが保管されているわ。私の記憶が正しければ、確かこのあたりにあの資料があったはず……」


 本棚の間を歩き、美穂は何かを探し始める。

 そして、すぐに目的の物を発見した。

 背表紙に"日本神仏信仰研究所 共同研究成果報告書"と書かれている一冊のファイルだ。


「見つけた。現在発生している異変は、神仏信仰研究所が行っているとある儀式が原因なの。その儀式の内容が、このファイルに記録されているわ。厳密に言えば、現在行われている儀式は神仏信仰研究所の方でさらに改良されたものだけれど、内容に大差はないはずよ。……どうやら、私の記憶は正しかったみたい」

「疑問は、全部解けた?」

「ええ。過去の私が、どうしてあなたを殺さなければならなかったのかも含めて、全部話すわ」


 そう前置きして、美穂は自身の過去を話し始めた。


 ++++++


 八年前、当時二十六歳だった美穂は、とある大学で研究員として働いていた。

 研究者になりたいという夢を叶えた彼女は、多忙ながら幸せに満ちた日々を過ごしていたと言えるだろう。


 ところが、この年の夏にとある事件が起きた。

 美穂の妹が、病に倒れたのだ。


 この二歳差の妹はお姉ちゃん子で、姉の美穂とは非常に仲が良い。

 社会人になって離れて暮らすようになってからも、ほぼ毎日連絡を取り合うほどだ。

 ゆえに、美穂はどんな犠牲を払ったとしても、妹を助けたいと考えていた。

 

 だが、妹の病状は美穂の犠牲ではどうにもならなかった。

 彼女が発症したのは、脳出血という重病だったのだ。


 これは、その名の通り脳内で出血したことを示す病気で、最悪の場合は死に至る。

 美穂の妹の場合、死亡こそまぬがれたものの、意識が戻らない植物状態になってしまった。

 こうなっては、現代の医療技術ではどうすることもできない。


 ところがある日、妹を回復させることができるかもしれないと言う壮年の男が、失意に沈む美穂の前に現れた。


「いかがでしょう。悪い話ではないと思いますが」

「そうね。でも、そんな胡散臭い話を私が信じるとでも思ってるのかしら」

「もちろん、簡単に信じて頂けるとは思っていません。ですが、どちらにせよこのままでは、あなたの妹さんが目覚めることはないでしょう。……決心がつきましたら、こちらの連絡先にご連絡を。今お話しした通り、高待遇でお待ちしております」


 そう言って、男は一枚の名刺を美穂に手渡す。

 そこには、電話番号に加えて日本神仏信仰研究所所長、黒川くろかわ時墨ときすみと書かれていた。

 この黒川という男は、鉄血の神の力があれば妹を助けられるかもしれないと言って、美穂を自身の研究所にスカウトしに来たのだ。


 数日悩んだ後に、美穂はこの神仏信仰研究所で働くことを決めた。


 元より優秀な研究者であった彼女は、神の力という未知の存在に対する研究でも、次々に成果を出していった。

 八年という短い期間だけで、儀式を完成させることができたのは、間違いなく美穂のおかげだ。

 妹を助けたいという思いが、彼女を限界まで突き動かしていた。


 血印の兄弟団はすっかり騙されているが、美穂が神仏信仰研究所で完成させたのは、実は鉄血の神を降臨させる儀式ではない。

 正確には、鉄血の神の力を得るための儀式だ。

 この儀式は、大きく分けて三つの段階に分かれる。


 第一段階で行われるのは、結界の出現と人間の変異だ。

 儀式が行われる範囲内から生物が逃げ出さないように、赤黒い結界が出現し。

 結界内の人間は、鉄血の使徒と呼ばれる化け物に変異する。

 彩華が鉄頭と呼んでいた化け物が、この鉄血の使徒だ。


 また、紅鉄の近くに居た人間は紅鉄を取り込み、鉄血の大使徒に変異する。

 鉄巨人と呼ばれていた化け物が、この鉄血の大使徒だ。

 これを出現させるため、神仏信仰研究所は事前に紅鉄を街中にばら撒いている。


 第二段階では、端的に言えば蟲毒のようなことが行われる。

 鉄巨人同士で、紅鉄の奪い合いをするのだ。


 実は、儀式で鉄頭になってしまった人間の魂は鉄血の神に捧げられていて、その代わりとして鉄巨人が持つ紅鉄に鉄血の神の力が籠められる。

 彼らが紅鉄の奪い合いをするのは、この神の力が目的だ。

 より多くの紅鉄を手に入れて、より強大な力を手にしようとしている。


 第三段階で行われるのは、この紅鉄の回収だ。

 鉄巨人を殺害して、その身に蓄えられた紅鉄を奪い、儀式の範囲内にある紅鉄を可能な限り集める。

 そして、計画では所長の黒川時墨に、紅鉄に籠められた神の力を流し込む予定だ。

 これで計画通りに事が進めば、彼は鉄血の神の力を自在に操れる人間になり、儀式の目的は達成される。


 以上が、現在行われている儀式の全容だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ