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第11話 勝者

 研究所の中心部は、テニスコートほどの広さの大部屋だ。

 そこら中に実験用の謎の機械が置かれており、数台のパソコンとモニターも設置されている。


 そんな部屋の中央には、台座の上に山積みにされた紅鉄と、白衣を着た壮年の男の姿があった。


「ここまで無事にやって来るとはね。正直予想外だよ、山吹美穂研究員」

「黒川所長……。嫌な予感はしていましたが、私も予想外です。まさか、所長が既に紅鉄を集め終わっていたなんて」


 積み上がった紅鉄の山を見て、美穂は悔し気にそう話す。

 研究所にいる戦闘員がやたら多かったのは、地上に派遣されていた人員が、紅鉄を集め終えて研究所に戻ってきたからだったのだ。


 本来、二人はもっと早くに研究所の中心部を制圧して、そこに運ばれてくる紅鉄を奪い取る予定だった。

 しかし現在、既にほとんどの紅鉄が黒川の手の内にある。

 これではダメだ。

 こうなってしまうと、二人が紅鉄を奪う前に、黒川が鉄血の神の力を手に入れてしまう。


「美穂君、君は自分が何をしているのか分かっているのかね? 私を裏切るということは、これまで共に働いてきた仲間も裏切るという事だ。鉄血の神の力を必要としているのは、何も君の妹だけではない。君は、そんなことも分からない愚者ではないだろう」

「ええ、もちろん理解しています。ですが所長、はっきり言ってあなたは信用なりません。裏社会と取引して、儀式のために大勢の人々を犠牲にする人間が、無条件で私たちのことを助けてくれるんですか? 道徳心に従って、妹のことを助けてくれるんですか!?」


 感情のこもった美穂の言葉に、黒川は頷かない。

 ただただ、無表情で話を聞いている。


「妹を助けるために、私は別の道を選びました。私の隣にいる彩華ちゃんは、鉄血の神の力に適性があります。あなたよりも遥かに、神の力に相応しい人間です。本当に神の力を善い方に使うつもりなら、彼女にその紅鉄を渡して頂けませんか?」

「馬鹿な事を。鉄血の神の力を手に入れるために、私がどれだけ準備してきたと思っているんだ、この恩知らずが! 神の力が相応しいのは私の方だ!」


 そう言いながら、黒川は紅鉄の山に手をかざす。

 すると、一瞬だけ紅鉄の山が強く輝いた。

 大量の紅鉄に籠められた鉄血の神の力が、全て黒川に流れ込んだのだ。


 これによって、黒川は鉄血の神の力を得た。


(……裏切って申し訳ないとは思ってるわ。でも、私の気持ちは変わらない。妹を助けるためなら、どんなことだってすると決めたから)


 黒川との会話を終えて、内心で美穂はそのように決意を固める。

 そんな彼女に、彩華はのんきに話しかけた。


「それで、こうなったら私はどうしたらいいの?」

「所長を殺して神の力を奪えばいいわ。そうすれば、この儀式の勝者はあなたになる。この異変も解決するはずよ」

「わお、シンプルだね」

「今の所長は、恐らくあなた以上に強大な神の力を持ってる。これまでと同じように、簡単に殺せると思っちゃだめよ?」

「分かった。そういうことなら、美穂さんは部屋の外に出てて。庇いながら戦ってられないから」

「そうね。大人しくそうさせてもらうわ」


 そう言って、美穂は大部屋の外に出ていく。

 そんな彼女のことを、黒川は忌々し気に睨んでいた。


「全てが順調に進んでいたというのに、こんなところで腹心の部下に裏切られ、ぽっと出のガキに邪魔されることになるとはな」

「気分はどう?」

「言うまでもなく最悪だよ。だが、もう少しで私の目的が達成されることに変わりはない。お前さえ殺せば、全ての神の力は私のものだ!」


 そう叫んで、黒川は能力を発動させる。

 彩華と同じ鉄を操る能力だ。

 これによって、彼は部屋の中にあった機械の鉄を変形させ、鉄製の剣を五本作る。

 そして、それらを彩華の方に飛ばした。


 対する彩華も、能力を使って機械の鉄を分厚い鉄板に変形させ、それを盾にして飛来する剣を防ぐ。

 それから、今度は鉄製の槍を七本作ると、それらを黒川に飛ばして反撃した。

 反撃された黒川は、二本の槍を自力で避けて、五本の槍を変形させた鉄で防ぐ。


 鉄血の神の能力者同士の対決は、このような攻防を繰り返す泥沼の戦いになった。

 能力を使って何度も戦っていた分、彩華の方が戦闘の練度は高いのだが、大量の神の力を取り込んだ黒川の方が、能力の出力は大きい。

 そのため、結果として互角の戦いが繰り広げられたのだ。

 

 鉄製の剣と槍が飛び交い、鉄塊が剣と槍を防ぎ、一人の少女と男が部屋を駆け回る。

 そんな戦いが十分ほど続いたころには、大部屋の中はもう滅茶苦茶になっていた。


 実験用の機械も、パソコンとモニターも、何もかもがぐちゃぐちゃだ。

 そんな中で、鉄だけが浮かび上がって変形し、宙を駆け巡っていた。


「そろそろ、おじさんはキツいんじゃない?」

「多少年をとったところで、ガキに負けるほど衰えちゃいない……!」


 息を切らして煽り合いながらも、二人の戦いは続く。


 時間が経つにつれて、黒川の戦闘の練度が上がり、次第に彩華は劣勢になっていった。

 攻撃の数が減り、黒川が飛ばした剣を受ける回数が増えていく。


 そうして、戦いが始まってからニ十分が経過したところで、ついに戦況が動いた。

 彩華が体勢を崩したのだ。

 片膝立ちになってしまった彩華に、黒川は猛攻を仕掛けようとする。


 しかし、それと同時に大部屋の中に入ってくる者がいた。

 美穂だ。

 

 彼女は、部屋に入ると同時にリボルバーを構え、黒川に向かって六発の銃弾を放つ。

 完全に不意を突かれた黒川は、慌てて銃弾を止めようとするが、それは失敗に終わった。

 鉄を含んでいなかったため、鉛製の銃弾を能力で止めることができなかったのだ。


 二発は外れたものの、結局黒川は胴体に四発の銃撃を食らい、痛みに耐えかねて地面に転がる。

 その隙に、彩華が黒川の頭に鉄製の槍を突き刺して、完全にとどめを刺した。

 

「これで終わりね」

「ありがとう美穂さん。すごい良いタイミングだったけど、どうやったの?」

「あなたたちは戦いに夢中で気がついてなかったけれど、少しだけ扉を開けて様子を伺ってたのよ。危険だったけれど、何とかなってよかったわ。後は、あなたが鉄血の神の力を手に入れるだけね」


 そう言って、美穂は黒川の死体を指さす。

 それで、彩華が黒川の死体に手をかざしてみると、死体が一瞬だけ赤く輝いた。

 それと同時に、彼女は自分の中に何かが流れ込んでくるのを感じる。


「紅鉄を握った時と同じ感覚があったから、多分神の力を手に入れられたと思う」

「それなら、これで儀式は終了したはずよ。地上に出て、結界がどうなったのか確かめてみましょうか」


 滅茶苦茶になった大部屋を出て、彩華と美穂は来た道を戻っていく。

 行きの時とは違って、研究所の廊下は異様に静かだった。

 緊急放送で指示されたこともあってか、研究員は誰一人部屋から出てこない。


「そういえば、拘束したあの研究員さんはどこに行ったんだろ」

「誰かが部屋の中に入れてあげたんじゃないかしら。儀式が終わったら、ここにも助けが来るだろうから大丈夫よ」


 のんびりそんな話をしながら、二人は歩いてエレベーターの前までたどり着く。

 そして、エレベーターに乗って地上に戻ってみると、あの赤黒い壁は跡形もなく消えていた。

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