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第10話 日本神仏信仰研究所

 血印の兄弟団の支部から出発した彩華は、美穂の先導に従って小走りで街を進む。

 そうしてたどり着いたのは、仙台市内のとある大学の門前だ。


「こんなところに、神仏信仰研究所の本部があるの?」

「ええ。この大学はいわゆる隠れ蓑で、儀式の範囲外になる地下深くに研究所の本部があるわ。この辺りは研究所関係者の出入りが多いはずだから、鉄頭もほとんど殺されてるんじゃないかしら」

「ほんとだ。草むらに隠れてるけど、向こうに鉄頭の死体が捨てられてる」


 目ざとく鉄頭の死体を見つけて、彩華はそのように呟く。

 それから、二人は大学の敷地内に入って再び進み始めた。

 次の目的地は、大学内のとあるエレベーターだ。


 エレベーターの前に着いたところで、美穂は彩華に向かって口を開く。


「研究所の本部には、大学内の一部のエレベーターを使うことで入れるの。そして、これがそのエレベーターの内の一つよ。これまで以上に困難な戦いを強いられると思うけれど、研究所に乗り込む準備はいい?」

「もちろん! いつも通り、敵を倒して前に進むだけだよ。この異変を解決するために」

「そうね。あなたならそうしてくれると信じてるわ。それじゃあ、行きましょうか」


 会話を終えた二人は、扉が開くのを待ってエレベーターに乗り込む。

 それから、美穂は財布の中から神仏信仰研究所の身分証明書を取り出して、それをエレベーターの操作盤にかざした。

 すると、エレベーターが地下へ向かって動き始める。

 身分証明書が、研究所の本部に入るための鍵になっていたのだ。


 その後、移動するエレベーターの中で、美穂は彩華にあるものを手渡した。


「今更と言えば今更なのだけれど、今の内にこれを渡しておくわ。私が持っていても、宝の持ち腐れだから」

「これは……さっき回収した紅鉄?」

「ええ。鉄巨人から回収した分も含めると、紅鉄の板が全部で六枚あるわ。今のあなたなら、その紅鉄に籠められた神の力を自分の物にできるはずよ」


 そう言われた彩華は、試しに渡された紅鉄を思いっきり握り締めてみる。

 するとその時、一瞬だけ紅鉄が強く輝いた。

 それと同時に、彩華は自分の中に何かが流れ込んでくるのを感じる。


「実感は湧かないけど、これで神の力を手に入れられたのかな?」

「恐らくはね。能力が強化されたはずだから、戦闘になったら試してみるといいわ。……そうこうしている内に、着いたみたいね」


 目的地に着いたことを知らせるチーンという音が鳴り、エレベーターの扉が開く。

 そうして、二人の前に姿を現したのは、無機質な研究所の廊下だ。

 白い壁に、LEDの照明と鉄製の扉が並んでいる。


「人に見つからない内に、研究所の中心部を目指してできるだけ進みましょうか」

「もし見つかったら?」

「誤魔化すか戦うしかないわ。見ての通り、隠れる場所なんてどこにもないもの。向かってくる人は殺してもいいけれど、無抵抗の人はできるだけ殺さないであげて」

「ふ~ん、優しいんだね」

「そんなことないわ。ただの自己満足よ」


 そんな話をした後に、彩華と美穂は走って廊下を進む。

 ところが程なくして、二人は通りすがりの研究員に姿を見られてしまった。


「あれ、美穂さんですか?」

「そうよ、久しぶりね。外で色々トラブルがあって、帰るのが遅れたわ」

「それはいいんですが……そちらの方は何者です? 例えあなたでも、部外者をこの研究所に立ち入らせることは禁止のはずですが」


 研究員の男は、彩華の方を見て疑わし気にそう話す。

 それを聞いた美穂は、ため息をついてから再び口を開いた。


「やっぱり、誤魔化すには少し無理があるわよね。彩華ちゃん、拘束してくれる?」

「ん、りょ~かい」

「なっ!?」


 彩華は能力を発動させ、近くにあった鉄製の扉を変形させる。

 そして、これまで以上の速度と精度で、鉄製の手枷、足枷、口枷を作ると、それらを研究者の男に無理やり装着させた。

 追加で神の力を手に入れたおかげで、彩華の能力がパワーアップしたのは間違いないようだ。


 手足と口を完全に拘束された男は、うめき声を上げて哀れな姿で地面に転がる。

 その一方で、二人は研究所の中心部に向かって再び走り始めた。


 本当に良い手際だったのだが……実はこの時、彩華と美穂にとって不幸なことが起きていた。

 二人が通り過ぎた部屋から出てきた別の研究員が、この一連の出来事を目撃していたのだ。


 その結果、彩華と美穂は侵入者と裏切り者として通報され、非常事態を知らせるサイレンが研究所内に鳴り響き始めた。


「嘘でしょう? 気づかれるには少し早すぎないかしら」

『緊急放送です。研究所南口に侵入者が現れました。山吹美穂研究員が協力したものと考えられます。各戦闘員は至急鎮圧に向かってください。現場付近の研究員は、部屋から出ずに待機してください。繰り返します。緊急放送です――』

「あちゃ~、本当に気付かれちゃったみたい」


 サイレンと共に流れ始めた緊急放送を聞いて、彩華は美穂にそう話す。


 それから少しして、走り続ける二人の下に複数名の足音が近づいてきた。

 緊急放送を聞いた戦闘員たちが集まってきたのだ。

 

「美穂さんは下がってて。私が全員片付けるから」

「ええ、任せるわ」


 彩華の指示に従って、美穂は彼女の後ろに隠れる。

 すると間もなく、十名ほどの戦闘員が彩華の前に姿を現した。


「お前が例の侵入者か?」

「うん。黙ってそこを通してくれるなら見逃してあげるけど、どうする?」

「俺たちに侵入者を見逃せって言うのか? 冗談きついぜ、嬢ちゃん。降伏するのはそっちの方だろ?」


 彩華にアサルトライフルの銃口を向けながら、戦闘員の男は薄ら笑いを浮かべてそう話した。

 実に生意気な態度だったが、そんな彼の余裕の笑みはすぐに掻き消えることになる。

 彩華が、能力を使ってアサルトライフルの銃口を捻じ曲げたからだ。


「は? まさか、お前がやったのか?」

「悪いけど急いでるの。私と戦うつもりなら、さっさと死んで?」


 そう言いながら、彩華は戦闘員たちが持っているアサルトライフルを、ウニのような形に変形させる。

 そしてすぐに、この鉄製のウニの針を全方位に伸ばした。

 その結果、戦闘員たちは手元の鉄製のウニから伸びてきた針に全身を貫かれ、あっけなく絶命する。


 こうして戦闘が終わったところで、彩華は美穂を自分の傍に呼び戻した。

 そこで、眼前に広がる無惨な光景を目撃した美穂は、何気なく口を開く。


「相変わらず容赦ないわね」

「不満?」

「まさか、圧倒的で安心してるわ。そんなことより先を急ぎましょう。また戦闘員に襲われる前に、できるだけ進まないと」


 そんな会話をしてから、彩華と美穂は研究所の中心部を目指して三度走り始める。


 この後も、二人は三回ほど戦闘員たちの襲撃を受けたが、その度に彩華が難なく返り討ちにした。

 鉄製の銃火器を使っている時点で、彩華に勝つのはどうあがいても不可能なのだ。


 その後、二人は長い行程を終えて、研究所の中心部へと繋がる扉の前までたどり着いたのだが……美穂は嫌な予感を覚えていた。


(ここまで来れたのはいいけれど、戦闘員の数が予想よりも多すぎたのよね。紅鉄を回収するために人員を地上に派遣していて、あれだけの数の戦闘員が研究所に残るのかしら。まさかとは思うけれど……真相は、扉を開けて確かめるしかないわね)


 一抹の不安を抱えながらも、美穂は目の前の扉を開き、研究所の中心部へと入っていった。

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