5 姉と妹
里帰りした私は、無事にママンと再会することができた。
実に十数年ぶりだ。
『それで……突然どうしたんですか?
……シスは?』
『ああ、シスは最近出産したばかりで動けないんだよ。
今度、孫を連れてくるね』
なんだか親の前だと、自然と口調がいつもと違ってくるなぁ。
子供の頃に戻った感じ…??
というか、私の普段の口調ってママンっぽい。
最初にママンへ言葉の概念を教えた時、基本重視で私が丁寧な口調を使っていたから、ママンが私を真似たと言うのが正確なのかもしれないけれど。
一方、ママンは──、
『孫の顔は、見飽きていますね……』
と、少しうんざりしたような顔をした。
二桁はいそうだもんね、孫……。
『えー?
そもそも、なんでみんなここに留まっているの?
私達の時は、すぐに追い出したのに』
『それは……あの時アイが、何処かへ行きたそうにしていたからですよ。
それなのにあなたはモタモタしているから、もどかしくて……』
『ああ……』
あの頃は家族のことが気になって、なかなか旅立てなかったもんなぁ。
ママンはそれを察して、私を送り出してくれたのか。
『ありがとうね』
『昔のことなんて、どうでもいいですよ』
どうでも……って、細かいことを気にしない性質だなぁ……。
それとも照れ隠しか?
『で、結局あなたは、何をしにきたのですか?』
ああ、それな。
『ねえ、ここから他に出て行った子はいる?』
『……いませんね』
『じゃあ、やっぱり姉さんのどちらかか……』
犯人は絞られた!
『何かあったのですか?』
『う~ん、姉さんが悪いことに関わっているっぽくてね……。
これから懲らしめに行こうかと、思っていたところなんだ』
『……あまり無茶はしないようにね』
『は~い』
まあさすがに私も、姉さんの命まで奪うつもりは無い。
なんとか無力化して、王国の表舞台から消えてもらうだけだ。
あとは何かしらの罰は受けてもらうつもりではいるけど、極刑だけは避けられるように、当事者であるクラリスにはどうにかして許してもらえるように、私も誠心誠意この頭を下げるよ。
まあ、それも姉さんの態度次第だが……。
しかし姉さん達の性格を考えると、自ら望んで悪いことをしているとは思えないんだよなぁ……。
アーネ姉さんは天然系だけど鋭いところがあるから、迂闊に危険なことへは関わらないと思うけど、ネネ姉さんは脳筋気味だから、騙されている可能性はあるよなぁ……。
やっぱり最有力は、ネネ姉さんか。
『ありがとう。
じゃあ、知りたいことを知ることができたから、私は帰るよ』
『もう……ですか?』
『寂しい、ママン?』
『そんなことありません』
と、ママンはそっぽを向くけど、本当に素直じゃないんだから……。
『ちょっと今は忙しいので、落ち着いたらシス達を連れて、またくるよ』
『ええ……またね』
短い別れを済ませて、私は「転移魔法」を使おうとした。
その時──、
『待って、私も連れていってください!!』
私をここに案内してくれた妹が、同行を申し出た。
『え……なんで……?』
『あの……お姉様が、また……その……』
お姉様!?
それに、何かを期待している目……。
あ~……これは、毛繕いがキマリ過ぎた?
雌の顔をしやがって……。
『私は別に構わないけど、この子を連れて行っていいの、ママン?』
『あなたを自由にさせておいて、あの子だけ駄目という理由も無いでしょう』
そりゃ、そうか。
『じゃあ、私の言うことをちゃんと聞くのならばいいよ』
『はい!!』
そんな訳で、新たに妹を連れ出すことになったが……、
『そういえば、名前はなんというの?』
この子のことは、まだ全然知らないんだよなぁ。
『特に決めていませんよ。
そんなに困らないし、沢山いると面倒臭いので』
まあ、姉さんやシスの名前も私がつけたから、そうなってしまうか……。
『それなら、私が名前をつけましょうか。
……う~ん、リゼ……はアリゼがいるから、ココアでどうです?』
ウサギがご注文できそうな喫茶店で、働いているような名前だが。
『ココア……。
私は、ココア!!』
本人は気に入ってくれたようだ。
ということで、ココアが仲間になった!
母親の前でアイの口調が変わるのは、書いている方も自然に……って感じで↓。
なお、ちょっと用事があって執筆時間が取れなかったので、次はいつになるのか……。