4 母ギツネとの再会
弟妹達が──あるいは甥と姪達が、一斉に私目掛けて襲いかかってきた。
みんなは私が同じような姿をしているからなのか、最も得意であるはずの火属性魔法は通用しない可能性があると判断したしたらしく、それは一切使わなかった。
うむ、さすが賢い。
で、みんなは私に、噛みつこうとしている訳だが……。
まあ、妹と姪には好きなようにさせるさ。
年下の子に噛みつかれるというのも、ちょっとした特殊プレイみたいで良し。
だが、弟と甥達よ。
てめーらは駄目だ!!
百合好きとしては、雄との絡みは絶対不許可!
不許可である!
「ギャン!!」
「ギャウンっ!?」
弟と甥達は私の9本の尻尾によって叩き落とされ、情けない悲鳴を上げた。
かなり手加減しているんだけどなぁ……。
思えば彼らの尻尾は2~3本──。
数が多い所為で獲得経験値が分散して、あまりレベルアップができなかった感じなのかな?
私と対等……は、無理でも、そこそこ戦えるようになるには、最低でも尻尾が5本は欲しい。
「ギャウゥ……」
一蹴される兄弟達を見て、妹と姪達は唖然として噛みついてた口を離した。
実際ノーダメージだから私は平然としているし、このまま噛みついていても意味が無いことに気付いたのだろう。
『な……なんなのよ、あんた……?』
『だからお姉ちゃんですよー。
あなた達よりも10年以上は長生きしているんだから、その分強いんですよー?
逆らっても無駄だと分かったら、ママンのところへ案内してください』
私は人型に戻りながら告げる。
自然界で生きていく為にはキツネの姿の方が合っているけど、普通に文化的な生活するのなら、人型の方が圧倒的に便利だし、前世の感覚が残っているからなのか、こちらの方が落ち着くのだ。
それに指があるから、毛繕いだって器用に行える。
私は妹の1匹を、ワシャワシャと撫で回した。
『ちょっ……何をする……!?
はわ……あ……なにこれぇ……?
心地良くって……なんだか幸せな感じになってぇ……』
即堕ちである。
彼女は恍惚と戸惑いの表情を浮かべつつも、私の手に身を任せている。
他の者達は、半分羨ましそうな……それでいて半分畏怖しているような目で、こちらを見ていた。
『あ……あの子がこんな簡単に……!?』
『あのお転婆が……!』
他の子達の反応を見るに、どうやらこの子は結構な問題児だったっぽいな……。
『ふむ……。
ご褒美は先払いしましたから、あなたがママンのところへ案内してください』
『え……?』
『ほらほら、私の言うことを聞かないと、もうしてあげませんよぉ~?』
『そ……それは……!
わ、分かったからぁ!!』
そんな訳で、モフって手懐けた子に、ママンのところへ案内された訳だが……。
案内された先にあったのは、洞窟──かつて私が見つけて、家族で寝床にしていた場所だった。
まだ使っていたのか。
スライム狩りしていた頃が懐かしいなぁ。
その洞窟の奥……ではなく、日陰になる程度の浅い入り口に、1匹のキツネが寝そべっていた。
その尻尾の数は、7本……。
完全体までは、もう一歩だな……。
『体調が悪いの?』
『いえ……母様は、昼寝をしているだけ』
だよねぇ……。
私達の種族が普通のキツネ程度の寿命であるはずが無いし、老衰ということも考えられないもの。
子供や孫達に守られているから、周囲を警戒する必要も無いのだろうけれど、だらけ過ぎじゃないかな?
それに心なしか、太った……?
まあ、モコモコ度が増して可愛いけど……。
『ママン、楽隠居を決め込むのはまだ早いよ?』
私はママンの身体を、手で揺する。
『……?』
ママンはゆっくりと目を開けて、暫しぼんやりとしていたが、
『ああ……アイですか』
すぐに私の存在に気付く。
『分かるの、この姿で!?』
『娘の匂いくらい分かりますよ』
なるほど。
キツネだし、臭覚には優れているもんね。
『ママン達も、もっと強くなったらこんな姿になれるよ。
我らが種族の特徴みたい。
あと、ご先祖様は魔王をやっていたそうだよ』
『……森の外で、色々な経験をしてきたみたいですね。
元気にしていましたか?』
『うん、楽しかったよ』
『そうですか』
そんな私の答えを受けて、ママンは少しだけ微笑んだように見えた。
キツネって、意外と表情が分かるものだなぁ……。
こうして久しぶりに、親子の再会となった訳だ。
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