1 会議は踊る
「どうぞ、粗茶ですが」
会議室──。
そこの席に着いた者達へシェリーがお茶を出し、ようやく落ち着いた空気になる。
まあ実際には、私のことを警戒している者達もいるようだが……。
「それでは、話し合いましょうか」
私は服を着る為に、少し遅れて入室した。
さあ、パワハラ会議の開始ですよ。
議長・私!
その他の参加者は、クラリス、レイチェル、セリス、ハイラント公爵とその護衛だ。
キエルとアリゼは、さすがに公爵がいる場所には「畏れ多い」と辞退。
あと、ナユタにはあまり興味の無い話になりそうだし、魔族であるシファは公爵達からの反発が凄くなりそうなので、私の判断で不参加にした。
「さて……公爵様には、ご足労いただきありがとうございました。
しかし魔族の件は私が片付けたので、当面は問題ありません」
「だが、魔族はまだ存在する!
殲滅するまでは安心できぬぞ!!」
「そうだ!!」
そんな声が上がるけれど、それは私に対する宣戦布告かな?
「私も魔族だということを、よく考えて発言してくださいね。
ちなみに我が一族は、数代前に魔王を出しているそうです。
私は人間との共存を望んでいますし、現魔族の王女も私の方針に賛同していますが、降りかかる火の粉は振り払います。
実質的に、魔族と人間の命運を決める場ですよ、これ?
決裂は全面戦争を意味しますが、それでもよろしいので?」
「なっ……!?」
私が思っていたよりも大物だと知った公爵達は、動揺している。
そして更に──、
「……お祖父様、この人に逆らってはいけません。
絶対に勝てないので……。
でも、話は分かる人よ。
私も戦い方を教えてもらうなど、お世話になっています」
「クラリス……」
クラリスの取りなしで、私への反発心はかなり抑えられたようだ。
勿論、内心は分からないけれど、話し合えないほどの敵愾心は感じない。
「私はクラリスさえ望むのならば、王権の奪取に協力してもいいと思っています。
彼女は魔族の王女とも親交がありますので、将来的には国交を結べるようになれば……と」
「なんと……!」
公爵達がザワつくけど、まず「魔族の存在を受け入れるかどうか」というところから、問題があるのだろうな。
ただ、現状では彼らも贅沢を言っていられるような状況ではないようで、私の協力は欲しい……というところなのだろう。
ただ、実際には姉さんのどちらかが現王政に関わっている可能性が高いので、彼らが希望しなくても、私は誰の意向も関係なく動くつもりではあるが。
でもここは、恩を売る形にしておいた方がいいだろうから、その本音は隠しておく。
「……クラリスは、どう考えているのだ……?」
判断に迷ったのか、公爵は当事者であるクラリスに意見を求めた。
「……私は、お父様とお母様の無念を晴らせれば……と。
国のこととかは、正直よく分からないわ……」
「そうか……。
我々も臣下として支える。
細かいことは我々に任せて、今は仇討ちだけに集中するがよい」
「はい、お祖父様……」
クラリスは、殊勝な態度で頷く。
祖父と合流できたことで、少なくともおかしな連中に命を狙われる状況からは抜け出せたから、その安心感から荒んでいた頃の態度は見られなくなっていた。
最初に会った頃には、あんなにツンが強かったのにね……。
しかしこれからはもっと修羅場になるかもしれないので、これは一時的な平安に過ぎないのかもしれないが。
今、クラリスが進もうとしているのは、王になる道だ。
現国王を打倒するということは、本人が望まぬとも結果的にはそうなってしまう。
王だけを倒して、その後の国のことは知らぬ存ぜぬというのは、無責任極まりないからだ。
少なくとも彼女には、これからの国が辿る道筋を整える義務が生じる。
それは茨の道だ。
国内貴族による権力闘争や他国の思惑など、諸々が絡んでくるのだから、険しくない訳が無い。
本人はそれを自覚して……は、いないだろうな。
今はまだ、公爵に利用されそうになっているだけのように見える。
「……で、具体的にはどうするつもりなんですか?
現国王軍と戦えるだけの戦力って、あなた達にはありませんよね?
このような辺境に、落ち延びているくらいですから」
「この……!」
公爵達は怒りで顔を歪めるが、図星だからなのか、それ以上の反論は無かった。
まあ、地方領の貴族達はまだ戦力を温存しているかもしれないが、彼らがクラリスの側につくとは限らない。
現王に服従を誓っている可能性だって高い。
どのみち──。
「軍隊同士の戦いでは人が沢山死ぬので、私はやめてほしいと思っています」
「だが、正統な王座を取り戻す為には、必要な犠牲だ!
平民を徴兵してでもやらねばならぬ」
公爵は冷淡に言う。
彼らにとって、民は数字でしかないのだろう。
だけど私もかつて一介の庶民だったから、そうは思わない。
「正統な王座なんて、あなた達にとってしか価値はありませんよ。
民衆は生活さえ守ってくれるのなら、王なんて誰でもいいのですから。
彼らにとっては、王の為に民が死ぬのは本末転倒です。
そこをあなた達は勘違いしている」
「な、なんだと……!?」
「言わせておけば……っ!!」
公爵達は今にも剣を抜かんばかりに憤るが、現状では既に彼らは国と仕えるべき王を失い、その貴族という地位は最早誰も担保してくれないものだ。
それを元通りにしようとする気持ちは分かるが、何を根拠にその権力を振るうのだ?
巻き込まれる方はたまったものではない。
「反発するのなら、それも結構。
ですが私の意向を無視するのならば、あなた達には亡命政権の樹立すら難しい──それは覚悟できてのことですよね?」
こいつらが民衆を巻き込んで戦争を始めようというのなら、現王政よりも先に私が潰すから!
少しずつペースを戻していきたいとは思いますが、まだまだ不定期なので、突然休むこともあります。