7 小さな命
この「キュー、キュー」という鳴き声は、聞き覚えがあるぞ……。
かつては私自身も出していた声だ。
蹲るシスの腹部を見ると、その下にもぞもぞと蠢いている小さな何かがいる。
「赤ちゃんなのです!」
「うわ~可愛い~」
うん、私達が誕生したばかりの頃と、そっくりな赤ん坊だ。
こんなに小さかったんだなぁ……。
「シス様は、いつの間にか妊娠しておりまして……。
つい先日、ここで出産を……」
ダリーがちょっと悔しそうに言う。
彼はシスに懐いていたから、寝取られ気分を味わっているのかもしれないね。
だけど私達の種族は単体でも妊娠出産は可能だから、父親はいないと思うよ……。
でもそうか……シスは妊娠していたから、グリーグスとの戦いで全力を出せずに負けたんだ……。
その上、グリーグスの闇のオーラによって、生命力を奪われた状態で出産をした……。
お腹の子だって衰弱していただろうし、その子達に自分の生命力を分け与えたとしたら……。
その結果が、今のシスの状態か。
彼女は疲労困憊の状態で、グッタリと臥せっている。
こういう状態の時には、回復魔法は効かないどころか、むしろ更に消耗させる結果になりかねない。
ダメージを受けているところを癒やそうとして、余計にエネルギーを使ってしまうからだ。
う~ん、まずはシスを閉じ込めている牢の格子を解除して……、
『ダリー、子供達をこちらに』
「ははっ、お任せを」
「手伝うのです」
取りあえず赤ちゃんの保護だ。
ダリー達が抱えあげた子供は、もぞもぞと動き、必死に「キュー、キュー、」と鳴いている。
母親から引き離されてしまうのを、嫌がっているのだろうか。
少しの間、我慢してくれ。
「全部で4匹だね」
「師匠も昔はこんなのだったんだ……」
「ほら、クラリスさん、可愛いですよ」
「……そう……ね」
あれほどシスに敵意を向けていたクラリスも、赤ちゃんの可愛さには勝てないようで、どこか不貞腐れたかのような、それでいて目だけは優しいという複雑な表情をしていた。
子供はいいだろ?
「アイちゃん、どうするの?」
『こう、するのですよ……!』
「なっ!?」
次の瞬間、シスの全身が炎に包まれる。
私が火属性魔法を放ったのだ。
「ええぇーっ!?
アイちゃん、何やっているのーっ!?」
キエル達は驚愕するが、別にこれは攻撃ではない。
『私達の種族に、炎は効きませんよ。
むしろエネルギーになります。
赤ん坊がそうなのかは分からないので、一応引き離しましたが……』
「え、炎が効かないの?」
『はい、この通り』
私は炎の中に顔を突っ込んでみる。
温度自体は感じるけど、熱いという感覚は無いんだよね。
『なるほどのぅ。
だが、妾も炎は平気じゃぞ!』
シファはどや顔で炎に手を伸ばしたが──、
『服は燃えますよ?』
『おう!?』
私の指摘を受けて、慌てて手を引っ込めた。
魔族の特殊な服なら耐火性能もあるのかもしれないが、今彼女が纏っているのは、冒険者用の普通のものだ。
特に彼女の場合、角や尻尾を隠す為に、ヒラヒラとした布の量が多いから、引火しやすいと思う。
ホント、この子は抜けているなぁ……。
でも、魔族の身体自体には、やはり炎への耐性があるのか……。
この先、魔族と戦う可能性もあるから、心に留めておこう。
さて、そろそろシスの方には……まだ変化は無いな。
炎だけでは足りない?
じゃあ、私の生命力を注入する感じで、送ってみるか。
お、耳がピクピク動いている。
効果がありそうだ。
「クァ~……」
やがてシスは、大きな欠伸をした。
目が覚めたかな?
『シス、シス、大丈夫ですか?』
『んあ?
お姉ちゃん、おはよー』
まだ寝ぼけているのか?
状況を理解していないかのような、呑気さだ。
『シス、これまでのことを、覚えていますか?
私達はあなたを助けに来たんですよ』
『ああ……そうだ、あたし……。
…………赤ちゃんは!?』
頭がハッキリとした結果、今までのことを思い出したのか、彼女は慌てた。
もしかした朦朧とした意識の中で出産した所為で覚えていないのかとも思ったけど、一応産んだ自覚はあったようだね。
『こっちにいますよ。
ほら……』
『良かった~
ちゃんと産まれてた……!』
ダリー達に抱かれた赤ちゃんを目にすると、途端に母親の顔になるんだから母性って凄いな……。
とにかくシスの救出という、最優先目標は達成した。
さて……後はドワーフの救出だな。
ここからが大変かもしれないな……。
腰痛が悪化して執筆が進まないので、更新ペースが落ちるかもしれません。明後日は元々用事があって休む予定でしたが、明日もあやしいかも……。
あと、来週も一昨年と同じ理由(詳しくは当時の活動報告参照)で3日ほど入院する予定なので、あまり更新はできないと思います。