6 紅蓮の獣
シスが大変……って、どういうこと!?
「ダリー……シスはどうなったのです?
まさか酷いことをされて……!?」
確かグリーグスも、シスを実験動物にする為に連れ帰った……と、言っていた。
まさか解剖とかされちゃったとか……!?
「いえ、シス様は閉じ込められているだけです……。
なんでも珍しい種族なので、保護して増やそう……と、クジュラウスなる魔族が言っておりました」
そうか、それなら良かった……。
実験に使うのなら、養殖して増やしてから……って感じなのかも。
というか、やっぱり珍しい種族だったんだ、私達……。
それよりもクジュラウスって──、
『クジュラウスがここにおるのか!?
四天王が2人もいるとか、それほどの物がここに……!?』
シファが動揺する。
彼女の命を狙った黒幕は、そのクジュラウスという魔族らしいし、冷静ではいられないのだろうな……。
それに彼女の言う通り、魔王軍の幹部が2人もいるとか、余程重要な何かがここにあるはずだ。
鉱山……発掘……地獄の帝王エス●ークか!?
その辺の詳細は分からないけど、だからこそまずはシスのことが先だ。
できることから片付ける。
「それではシスの一体何が、大変だと……?」
「それは……実際に見ていただければ……と。
只今案内いたします」
で、ダリーに案内されたその場所は、坑道の袋小路に地属性魔法で格子を作って嵌めただけの、即席の牢屋だった。
その中にシスは閉じ込められているようだが、シスならこんな檻から簡単に抜け出せるような……。
ダリーが人質に取られていたから、動けなかった?
それとも奴隷契約で、自由を奪われた……?
とにかくシスは、その牢屋の中で蹲っている。
「シス──「あなたはっ!!」……は?」
私が声をかけようとすると、何者かの声が被った。
そしてその声がした方を見ると、クラリスがシスに向けて攻撃魔法を放とうとしているのが目に入る。
「ちょーいっ!!
何しているのです!?」
私は慌てて間に割って入る。
それにキエルも、クラリスを背後から羽交い締めにした。
「なに、なに、どうしたの!?」
「はっ、離しなさいよっ!」
しかしクラリスは暴れる。
どうにも尋常な様子ではなかった。
そんな彼女の顔は、怒りに歪んでいる。
「一体どうしたというのですか……!?」
「そのキツネが、ラッジーンと城に攻め込んできたのよ!!
そいつの所為で騎士団は壊滅して、護衛がいなくなったお父様とお母様は……!!」
んんっ!?
クラスの言葉が事実なら、現国王と一緒に赤いキツネが城攻めをして、クラリスの父である旧国王を討ち取った……ということになる。
だが、シスは王都には行ったことが無いはずだ。
ずーっと一緒にいた私も、行ったことが無いし。
「あの……それはキツネ違いだと思います」
「馬鹿言わないでよ!!
そんな赤くて尻尾が何本もある珍しいキツネが、何匹もいる訳ないでしょ!!
私は確かに見たわ。
赤く燃えるキツネの化け物が、城を襲うのを……!!」
いや……いるんじゃないかな……。
ここにも。
私はキツネの姿に戻る。
「あなた……!?」
『見ての通り、あの子と私は姉妹です。
あなたは私達を、見分けることができないでしょう?
だから人……いや、キツネ違いなんですよ。
実際、私もあの子も、王都には行ったことはありません。
おそらく……同族があなたの国を襲ったことは間違い無いと思いますが、まさかその罰を私達に受けろとでも言うつもりですか?』
たぶんやったのはアーネ姉さんとネネ姉さんのどちらかか、あるいはママンと新しく生まれた弟妹の誰かじゃないかなぁ……。
いや、彼女達にどんな理由があったのか、それは分からないけど……。
私も領主をぶち殺しているし、何かしら国を襲うような事情があったのだということは察することができるが……。
でも、あまり人間同士の争いには関わってほしくないな……。
「クラリスさん、アイさんのオーラは嘘を吐いてはいませんよ」
「ぐ……!」
クラリスは信頼しているらしいアリゼの言葉を受けて、ようやく抵抗をやめて脱力した。
少なくとも攻撃をする気は、もう無くなったようだ。
『クラリスさん、同族があなたに迷惑をかけたようなので、その同族には後日私がお仕置きします』
それが同族としての責任だろう。
そして私が積極的に動かなければ、きっとクラリスはその仇を許してはくれないと思う。
私はその仇を徹底的に叩きのめした上で、命だけは助けてもらえるように誠心誠意頼み込むつもりだ。
『ですから今は私達のことを、信じてくれると嬉しいです』
「……分かったわよ」
クラリスは不承不承で頷いた。
ふぅ……これでシスを解放できる。
ん……?
なんか音が聞こえるな……。
あまり聞かないような……それでいて懐かしいような……。
「キュー」
こ、これはもしや──!?
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