2 いきなり遭遇
シス達が連れ去られたと思われる鉱山は、ドワーフの里から南西方向にあるらしい。
距離にすると、徒歩で5日程度。
……が、一刻も早く救出したいので、そんなに時間をかけてはいられない。
かといって、行ったことが無い場所には、「転移」できないんだよね……。
……仕方がない。
少々乱暴だけど、空を飛んでいくか……。
「おおおおぉーっ、すげえぇぇぇー!!」
「…………っっ!!」
ナユタははしゃいでいるけど、他の者達はそれどころじゃない。
空を飛ぶとは言っても、やっていることといえば風属性魔法でみんなを持ち上げ、そして目的地に向かって全力でぶん投げているだけなんだもの。
私1人だけなら他にやりようもあるんだけど、全員を安全な方法で飛ばそうとすると速度が出ないので、無茶な手段を取らせてもらった。
常人だと身体にかかる重力加速度で命に関わるかもしれないが、冒険者としてレベルが上がった者達の耐久力ならば、耐えられるだろう。
そもそも、防御魔法も使っているから負荷は緩和されているはずだし、問題は無い(気絶しているシファから目を逸らしながら)。
……うん、遊園地の絶叫マシーンで気絶する人もいるから、怖い物はどうしようもないね……。
それから暫くすると、目的の鉱山があると思われる山が見えてきた。
かつてはミスリルの鉱山だったらしいけど、採掘量が減った上にコボルトという魔物が住み着いた為、廃棄されたそうだ。
さて、そろそろ減速するか……と思っていたところ、早速索敵に反応があった。
……って、うわっ!?
なんだか物凄い数の、反応がある!?
私は慌てて全員を停止させ、取りあえずそのまま滞空状態を維持する。
「黒い霧なのです!?」
私達の眼前には、黒い霧のような物が蠢きながら押し寄せてきていた。
しかし実際には、霧などではない。
「あれは……コウモリの群れだよ!」
「大きいですねー」
数え切れないほどの──しかも翼長が2mほどもありそうな大コウモリが飛んでくる。
こいつらは魔族に使役されて、鉱山の防衛を担っているのだろうか?
それならば──、
『みなさんは先に地上へ!』
まず他の者達を、地上へと「転移」させる。
それから大コウモリの群れに対して攻撃だ。
『ニ●ラム!!』
私を取り囲もうとしていた大コウモリの群れに向けて、光属性魔法を照射する。
すると大コウモリは、紙が燃えるかのように、あっさりと消え去った。
ふむ……光属性魔法がこれだけ効くということは、やっぱり死に損ない系の魔物か……。
そしてこういう連中を使役していると言えば──、
「おやおや、吾が輩の僕をこうも容易く……。
なかなかやるではないか、お嬢さん……」
すべて消滅したかに思えたコウモリの中に、1つだけ黒い塊が残る。
それは身長が2mはあろうかという、黒いマントで身体を覆った存在だった。
髪が白くて口ひげを貯えている初老の男で、その口には牙が覗いている。
なんだか普通に空中にも浮いてるので、明らかに人間ではないようだ。
これは吸血鬼というやつか。
吸血鬼と言えば、よく最上位の魔物として数えられる。
しかもこいつは吸血鬼なのに、昼間の空に現れた。
本来は弱点であるはずの太陽光を克服しているということは、おそらく吸血鬼としても最上位の存在だ。
そんな男が、ただの一魔族ということはないだろう。
おそらく幹部クラス!
『あなたは……何者ですか?』
「我が輩は魔王軍四天王が1人、闇のグリーグスだよ、お嬢さん」
四天王……!
そういうのもあるのか。
となると、今までシファの口から名前も出た、クジュラウスとカシファーンも四天王かな?
しかし四天王か……。
私は強くなりすぎて、ここ数年は本気を出したことが無いから、自分自身の実力を把握していない。
だから勝てるのかどうかは、ちょっと分からないんだよなぁ……。
まあ、グリーグスを見ていると、そんなに強そうには感じないので、なんとなくいけそうな気はするけれど……。
ただ戦う前に、ハッキリさせなければならないことがある。
『あなたですか……キツネを倒して、連れ去ったのは……?』
「キツネ……ああ、貴女らはあの珍獣を取り戻しにきたのか。
確かに吾が輩が連れて帰った。
実験用に強い魔物が欲しいと、言われておったのでな」
『実験……!?』
シスを実験動物にしようって言うのか!!
ぶち殺すぞ、ヒューマン!
……いや、まだ聞かなければならないことがある。
『メイドは……?』
「メイド……あの美しいお嬢さんですか。
追跡してきたので捕らえたが、か弱き女性が無茶をするものだ」
だが男だ。
それにダリーには「美しいお嬢さん」呼びなのに、私にはただの「お嬢さん」呼びだったのはどういうことだ!?
いやまあ、「幻術」で作った今の姿は、前世の姿をベースにしているけれど、それが地味系だったことは認めるけどさぁ……。
「あのお嬢さんの血なら、美味しくいただいたが……。
今や彼女は我が眷属だ」
えっ、ダリーを吸血鬼にしちゃったの!?
名前だけでも某宇宙細菌だったのに、能力まで似ちゃうじゃん!
明日は用事があるので、更新は休みます。