1 みんなの行方
『まさか……シスが負けるなんて……』
いや……相手は魔族だし、多勢に無勢だったら……。
負けることは有り得る……が……。
「シス様は、体調が悪いように見えました……。
普段のシス様ならば、負けなかったと思います」
病気……?
そんなこともあるのか。
私は転生してから、病気らしい病気をした記憶は無いから、そういう可能性は考えていなかった……。
たまたま生理のタイミングだった……ということも有り得るけど、キツネの生理なんて年に1~2回な上に、回復魔法で痛みを緩和できるし、可能性は低いよね……。
『それじゃあシスは、どうなったというのですか!?』
「ハッキリとは分かりませんが……連れ去られたようにように見えました。
10日ほど前のことです」
じゃあ、まだ生きている可能性もあるんだな……!
「それと……ダリー様が、止めるのも聞かずに追跡を試み、そのまま戻っておりません」
「そんな……。
なんて無茶なことを……!」
シェリーは弟の暴挙に呻く。
相手は魔族だ。
捕まればどうなるか分からない。
……まあ、魔族は労働力を欲していたようだし、無闇に殺しはしないだろう。
それにシファを見ていると、そんなに凶悪な種族ではないと思えるので、大丈夫なのではないか……という想いもあるが……。
いや……種族は関係ないな。
先日もシェリーが同族の人間に攫われて、危険な目に遭ったばかりだ。
楽観視はいけない。
「あの……お母さんの姿が見えないんだけど、まさか……?」
レイチェルは恐る恐るといった感じで、ゴングに問う。
そうか、彼女の母親であるセリスも、攫われてしまった可能性があるんだ……。
「いえ……セリス様は、この事態をサンバートルへ伝えに行っております」
「それじゃあ……無事なのです……!?」
「はい」
よかった……セリスは無事か。
しかしサンバートルの領主は、どう動くのやら……。
魔族が出たとなれば、さすがに無視できないとは思うけど、彼にゴブリン村やドワーフの里を守る義務は無い。
優先するのは、自分の領地だ。
『では、レイチェルはサンバートルへ行って、セリスさんと合流しましょうか?
送りますよ?』
「ううん、今はシスちゃんとダリーちゃんを、助けるのが先なのです!」
「師匠、どうか里のみんなを助けるのに、協力してくれ!!」
『……ええ、勿論です。
しかし魔族が何処へ行ったのか、特定するのは難しいですね……。
シファ、何か知りませんか……?』
『え……?
そうじゃのぅ……。
前にクジュラウスの奴が、鉱山で大変な発見をしたと聞いたことならあるが……。
発掘に大量の人員と予算が必要だと言うから、そんな余裕は無いと却下したのじゃが……』
『あなた……それで根に持たれて、命を狙われたのでは……?』
『え゛っ!?
まさか……そんなことで……?』
シファは愕然とするけれど、物に対する価値って人によって違うから、誰かにとってはゴミでも、他の誰かにとっては宝物だということもある。
そういう価値観の違いは、致命的なすれ違いを生みかねない。
『でも鉱山……それでドワーフですか。
ここのドワーフ達も、その発掘の為に駆り出された……と?
シファ、魔族の鉱山の場所って分かりますか?』
『いや……魔族は、鉱山を持っていなかったはずじゃ。
金属が必要なら、魔法で生み出せるしのぅ……」
魔力が人間よりも高いらしい魔族なら、そうだろうなぁ……。
私だってできる。
まあ、ミスリルとか見たことが無いようなファンタジー金属は、成分が分からないのでまだ無理だが……。
『となると……人間が所有している鉱山……は、魔族に占拠されたとなると、既に大騒ぎになっているだろうから……廃坑?
それもこの周辺から人員を集めたとなると、意外と近い場所……』
「残ったドワーフ達に聞いてみるのです」
里には発掘作業には向かない小さな子供や、その母親、そして高齢者のドワーフが残されていた。
人質にしなかったあたり、意外と魔族も人道的だな……。
もしくは彼女達の自由と引き換えに、男達は連れて行かれたのかも知れないが……。
とにかくその人達に聞くと、近隣で廃坑になった鉱山の場所はすぐに分かった。
『それじゃあ、早速その鉱山に乗り込むとしましょう!!』
「うち達も、行くよ!!」
『キエルさん……!』
いや……危険じゃないか……?
これから魔族と事を構えることになる。
よく事情も知らないであろう彼女達を、巻き込んでも良いものなのだろうか……。
それにキエルはまだしも、アリゼとクラリスは実力に不安がある。
ただ、シスとダリー、そしてドワーフ達……これら全員を救出する為には、正直言って私だけじゃ手が足りないかもしれない。
それにクラリスが、キエルの服を不安そうに掴んでいた。
たぶんキエルの申し出は、彼女の希望でもあるのだろう。
自分と間違えられた所為でレイチェルが狙われ、シェリーが攫われたことの罪滅ぼしをしたいということか。
……その意気や良し!
『分かりました。
一緒に行きましょう』
そんな訳で、思わぬ形で魔族と激突することになった。
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