プロローグ 何があったのか
新章開始です。
村に帰ると、誰もいなかった。
何者かによって襲撃を受けたことは間違い無いけれど、その結果住人は逃げたのか、それとも攫われたのかはよく分からない。
村の建物の被害が少ないことを考えると、強引に攫われる前に、避難した可能性の方が高そうだけど……。
しかしシスがいながら何故……!?
今のシスなら、竜にだって単独で勝てるはずだ……。
そんなに強い何かが、村を襲ったのか……?
それにしては、大規模な戦闘が行われた形跡が、ほとんど無いのだが……。
『こ……これは妾の所為かのぅ……?』
と、シファが呻くが、それはそう。
魔王の娘である彼女を追って、魔族が村を襲った可能性は高いと思う。
『妾も……クラリス殿のように、責任を感じて泣いた方がいい……?』
『あなたにそういうキャラは求めてないので、結構です……』
現状では何があったのかはまだハッキリしていないし、責任ならシファを村に受け入れた私達にもあるからね……。
それに泣くのなら、家族が行方不明になっている私やレイチェルの方が泣きたいと思う。
シファは責任を感じているというよりは、その責任を背負うことで生じるプレッシャーに押し潰されそうになって焦っているだけだ。
この件が片付いたら、また彼女への精神修養に力を入れよう。
『とにかく、みんなが何処へ行ったのか、手分けして探しましょう』
その後、村から出て行く複数の足跡を見つけた。
やはり逃げている者はいるようだ。
そして逃げ込む先だけど、ここからだとサンバートルの町よりもドワーフの里の方が近いかな……?
それからすぐにドワーフの里へと「転移」するが……おっ、人の気配がある!
こっちは無事だった!?
しかし里に入ると、出てきたのはゴブリン村の住人達だった。
いや、見慣れないメイド服の獣人達もいるが……。
ああ、この前連れてきた元盗賊か。
ダリーにメイド教育でも受けたのかな?
しかし肝心のダリーの姿が見当たらない。
いるのは一般の村人だけだ。
「おお……アイ様」
「駆けつけてくださった……!」
縋るように村人が集まってくる。
良かった……こちらの方に避難していたんだ。
だけどダリーだけではなく、シスやセリスの姿も見当たらない。
「お母さんは……?」
レイチェルが不安そうに周囲を見渡すが、やっぱりセリスの姿は無かった。
それと──、
「師匠、おかしい。
ドワーフのみんながいない!」
ナユタの言う通り、ドワーフ達の姿も殆ど見当たらなかった。
皆無では無いけど、女子供や老人しかいないようだ。
こちらでも何かあったの!?
……訳が分からないよ。
「アイ様!
よくぞここが分かりましたね……!」
『ゴング!』
ゴブリンの長であるゴングが、姿を現した。
『一体何があったのです……?』
「それが……魔族を名乗る者達が現れまして……」
「ヒュッ!?」
シファが変な風に息を呑んだ。
彼女の追っ手が現れたという、その可能性が高まったからねぇ……。
『そいつはシファを狙って……?』
「いえ……奴らは労働力を寄越せ……と』
『労働……力?
シファは関係ないのですか?』
「どうやら、そのようで……。
彼らは重労働ができる者を、欲していたらしく……」
つまり奴隷狩り的な?
え、もしかて──、
『じゃあ、ドワーフ達がほとんどいないのも!?』
「ええ、こちらにも来て、働けそうな者は全員連れて行ったらしいですな……。
我々が辿り着いた時にはもう……」
ドワーフ達は攫われていた!
ん? でも同じような状況だったゴブリン村の住人が攫われていないということは……。
『シスが抵抗したから、みんなが逃げる余裕があった……?』
「はい、シス様が魔族に立ち向かって時間を稼いでくれたからこそ、我々は助かりました。
しかし……」
『シスが負けたっ言うの!?』
「…………」
ゴングは無言で頷く。
軽い目眩が私を襲った。
モブメイドの中に、ケシィーがいるとかいないとか。
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