エピローグ 一時帰郷
新展開に入るので、章を区切ります。
シェリーを連れて家に帰ると、キエル達は先に戻っていた。
『ただいま帰りました~』
「ご心配をおかけしました」
「あっ……!」
クラリスはシェリーの顔を見るなり、
「ごめんなさい、私の所為で指が……!!」
と、謝り始める。
「大丈夫ですよ、ご主人様に治してもらいましたので」
「うっ……ううぅ……」
シェリーは指が揃っている右手を、ひらひらと振って見せる。
それを見てクラリスは安心したのか、泣き出した。
相当気に病んでいたのだろうね。
「よしよしなのです」
「良かったのですねぇー」
「こ、子供扱いしないでよぉ~」
レイチェルとアリゼが、クラリスの頭を撫でて宥めていた。
微笑ましい光景だが、今は話を先に進めよう。
『キエルさん、ハゴータはどうでした?』
「酒場で酔って騒いでいたねぇ……。
あれは関係ないと思う」
『はい、男達の証言とも合致していますね。
ハゴータは彼らの新人指導をしていただけらしく、犯行には関与していないようです。
それに背後に組織などの、関与もありませんでした。
彼らは元々、王都で下級騎士をしていたそうで、だからクラリスの顔を知っていたそうです』
「それでたまたま王女様に似ているレイチェルちゃんの顔を見て、犯行を思いついた……と?」
『そうですね。
攫って現国王に売れば、金になると思ったそうです。
自分達も元騎士で、追われる立場だとは考えなかったのだから、アホですが……』
彼らは王都での動乱から命惜しさに騎士の任務を投げ出して、このクラサンドまで逃げてきたらしい。
つまり元々は現国王派にとっての敵だし、旧国王派にとっては裏切り者のようなもので、本来ならばどちらの勢力からも追われる存在だ。
だからこそ身分を隠したままなることができる、冒険者としての生活を選んだのだろう。
クラリスとはある意味、同じような立場だったと言える。
そんな訳で、組織的な犯行じゃなかったのは良かった。
嫌だよ、犯罪組織と全面戦争とか。
しかもああいう組織って、潰しても潰しても湧いてくるし、イタチごっこに陥るだろう。
考えただけでも、無益だ……。
まあ、今後は組織から目を付けられないように、気をつけなければいけないけれど……。
レイチェルには申し訳無いが、今後の外出時には顔を隠してもらおうか……。
……というか、レイチェルの血統について、ハッキリさせておいた方がいいかな。
『みなさん、クラリスが落ち着いたら、ちょっと付き合ってください。
レイチェルの母親に、話を聞きに行きましょう』
「え……?」
レイチェルの母セリスなら、もしかしたらクラリスの両親のことも知っているんじゃないかな?
それに彼女の実家が健在なら、協力を得ることだってできるだろうし。
『「転移」の魔法で一瞬ですよ』
そんな訳で、2ヵ月ぶりくらいに里帰りすることになった。
ゴブリン村には、「転移」で一気に跳べる。
まあ、短時間で往復することや、もっと離れた土地への「転移」は魔力が足りなくて無理だけど、徒歩では1~2ヵ月かかるような距離もあっという間だ。
で、村に到着すると──、
「静かなところだね」
キエルはそう言うが、静かすぎる。
人影は見当たらないし、いつもならすぐに出迎えてくれるはずのシスやダリーが出てこない。
索敵をかけても、村内に人の気配は皆無だ。
『おかしい、誰もいません!!』
「え……お母さんは……!?」
私達は慌てて村の中を探し回ったけど、誰も見つけることはできなかった。
ただ、村の外では戦闘の跡があったし、村内の家も大なり小なり荒らされた形跡もある。
襲撃を受けた!?
シスやゴングがいたのに、なんでこんなことに!?
明日は定休日です。




