18 冒険者として
あれから何度もダンジョンに潜り、現在10階層まで到達している。
魔物は下の階層へ行くほど強くなっていくが、私は勿論、ナユタやレイチェルの敵ではない。
問題は暴走癖のあるシファだが、彼女の特訓は問題無く続いていた。
実際、何度も戦闘を繰り返すことで、彼女が暴走する頻度は下がってきている。
特に彼女が疲れている時だと、戦いが怖いと考える余裕も無いのか、いい感じに力が抜けた状態で戦えるようだ。
ある意味、無の境地に近いというか……。
『つ、疲れたのじゃ……。
吐きそうなのじゃ……』
『それでは、今日の訓練はここまでにしましょうか』
ゲロインは阻止するよ。
で、この訓練はシファを常に疲弊した状態に追い込んでから戦わせているので、消耗が大きくて最近の彼女は10歳くらいの姿を維持していた。
なのでダンジョンを出入りする際の本人確認は、「幻術」で誤魔化している。
ちなみにダンジョンから出たことが確認されない者は、1ヶ月ほどで死亡したと見なされるそうだ。
そう、帰ってこない者がいたとしても、冒険者ギルドで救助を送るという話にはならない。
勿論、遭難者の関係者が自主的に捜索することは問題無いけど、遺体が床に吸収されてしまうダンジョンでは遺品すら見つからないので、何の成果も得られないことの方が多いそうだ。
だから基本的に未帰還者は、放置される。
出入りの確認はあくまでも、死亡者がいつまでも冒険者ギルドに所属していたら情報の管理が面倒臭いので、一定期間の経過で処分する為の物らしい。
まあ、私は冒険者の身分にはこだわらないので、いざという時はダンジョンに潜ったまま「転移」で村に帰って身を隠すのもありだが……。
でも、冒険者として大成したいという夢を持つナユタの為にも、できるだけそんな事態にならない方がいいよね……。
折角冒険者ランクも上がってきたし。
私達にとって浅い階層の魔物は敵じゃないので大量に狩れるし、狩った魔物は私の「空間収納」で全部持ち帰ることができる。
冒険者ギルドでは魔物から採取した素材の買取もしていて、納品した素材の価値によっても、貢献ポイントが貰えるようになっていた。
で、このポイントが貯まれば、ランクが上がる。
塵も積もれば山となるということで、価値が低い素材でも大量に持ち込めばポイントは貯まるものだ。
「あらあら、また大量の納品ありがとうございます。
でも、そろそろオーク肉などは余って値崩れしそうなので……。
今後は買取額も下がるかと……」
冒険者ギルドで受付をしているお姉さんに、やんわりと警告を受けた。
需要と供給というものがあるので、やりすぎは良くないなということだね。
かれこれ金貨100枚くらいは稼いだし、潮時だろう。
「それならば、もっと下層へ行って、別の魔物を狩るのです」
「それがよろしいかと。
今回の納品でランクも上がると思いますので、実力的にも問題無いと思います」
「おお、また上がるぞ!」
ナユタがはしゃぐ。
私達のパーティーは、最低のFランクから10日ほどでD……いや、また上がるからCランクになる。
順調だな。
このランクは、冒険者としての実力を示す目安となる。
これが高いほど実力があるとされ、そして社会的な信頼も得やすいそうだ。
AやSランクともなれば、貴族や権力者が名指しで依頼してくる場合もあるらしい。
「馬鹿な……後から来たのに……!」
リリスが呻く。
ランクが抜かれちゃったから、悔しいのだろうね……。
なお、キエルがBランクで、アリゼとリリスはDランクだから、キエル以外は私達に追い抜かれてしまったことになる。
「なんでよ!?」
「なんでといわれても困るのです……」
相変わらずレイチェルとリリスの仲は、良くないな……。
いや、ライバル同士──リリスが一方的に思っているだけだが、それならばこれが正しい在り方か?
『あなた達も上がっているのですから、焦る必要はないですよ』
「だよね~。
アイちゃんのおかげで、捗っているよ」
キエルが言う通り、アリゼとリリスだってEランクから上がっている。
彼女達のパーティーとは、一緒に何度もダンジョンの探索をしているし、その際に戦い方もある程度は教えているので、なんだかんだで結果に繋がっている訳だ。
キエルもこの調子なら、いずれはAランクになれるんじゃないかな?
『それじゃあ、ランクアップのお祝いに、今晩は御馳走ですね。
キエルさん達もご一緒にどうですか?』
「え~、いつも御馳走では~?」
「そうだね、レイチェルちゃんとシェリーちゃんの料理は美味しいよねぇ……」
アリゼとキエルの意見に異議無し!
2人の料理はレベルが高いから、外食する気にはなれないもんね。
まさにミス味っ娘。
『それでは家に帰りましょうか』
と、私達がギルドから出ようとしたら、入れ替わりに10人くらいの男達が入ってきた。
そして──、
「……よお、キエルじゃねーか」
男の1人が、キエルに対して声をかけてくる。
……ああん?
百合に挟まる男は死ぬぞ?
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