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17 ダンジョンの怪談

 食べる物を食べて休憩したら、縮んでいたシファの身体(からだ)は、ある程度回復した。

 今は13歳くらいか。

 これなら彼女の特訓は、このまま続けても良いだろう。


 ただキエル達に付き合わせるのも悪いから、彼女達だけ町に引き返してもらおうかな……と、思っていたんだけど──、


「いや、折角だし、うちらも最後まで付き合うよ」

 

 と、言う。

 案内役を買って出たキエルとしては、きちんと責任を果たしたいのだろう。

 しかしこれで、シファの魔族バレのリスクは、まだまだ続く訳だ。


 まあ、キエル達には、


「シファは狂戦士バーサーカーという特別な一族で、精神的に追い込まれると理性を失って暴れ出し、消耗すると身体(からだ)が小さくなるので、それを克服する為の特訓中です」


 そう誤魔化しておく。

 一見嘘っぽい話だが、実際にシファが暴走しているところを目撃した彼女達ならば、納得してくれるだろう。


 そんな訳で、ダンジョンの攻略は続く。

 あれから更に下の階層へ行き、現在は5階層だ。


 そして魔物が現れれば、前衛のキエル・ナユタ・シェリーが戦い、レイチェルとリリスが魔法で支援をする。

 それで魔物が最後の1匹まで減ったら、シファに任せる。

 おそらくシファの実力なら敵が何十匹いたとしても、一度暴走すれば殲滅することが可能だろうけれど、それでは他の者が活躍出来ないからね。


 だから最後だけシファに任せるのだ。

 で、彼女が暴走したら私が止めて、その後はまた小屋を出して休憩──という作業を繰り替えす。

 ただ、いちいち休憩を挟むのは効率が悪いし、時間もかかる。


 だから当初の予定から変更して、今晩はダンジョン内に泊まることになった。

 まあ、昼も夜も分からない地下では、今が夜なのかどうかも把握できない為、深夜だから睡眠をとるということにはならないと思うが。

 体内時計でなんとなく分かるけど、今度時計をドワーフ達に作らせるかな……。


 とにかく昼夜は関係なく、シファが縮んだら小屋で休んでいたのだが、今回は小屋の外から入り口の扉を叩く音が聞こえるという、異変が起きた。

 この周辺にいる魔物に破壊できるような強度ではないので、生き物が近づいてきても放置していたのだが、小屋に接触してきたのは初めてだ。


「魔物なのです?」


『いや、これは……人みたいですね』


 扉の叩き方が、「コンコン」とノックっぽいので、少なくとも動物型の魔物の仕業だとは思えない。

 これは……他の冒険者かな……?

 仮にそうだとしても、他の冒険者とはあまり関わるつもりはないので、無視することにする。

 扉には鍵がかけてあるから、入ってはこられないはずだ。


 で、小屋の外に耳を澄ませてみると、


「中に人がいるのか……?」


「しかし誰がこんな物を……?」


 と、話し合う男の声が聞こえた。

 やはり冒険者らしいが、私達は正体を隠している者が多いので、会うつもりはない。

 ダンジョン内にこんな小屋を設置したのが私達だとばれたら、町で噂になってしまうだろうしね。

 はやく帰ってくれないかな……。


 しかし──、


「扉、壊してみるか?」


 おっと、それ以上いけない!!

 私は火傷しない程度の熱風を、小屋の周囲に循環させた。


「うわっ!?

 熱っ!!」


「なんだ!?

 罠か!?」


 冒険者達は慌てて小屋から離れたが、それでも遠巻きにこちらの様子を窺っている。

 う~ん……こうなったら──。


「ん?

 今、一瞬変な感じがしたけど、アイちゃん何かした?」


『ええ、キエルさん。

 ちょっと「転移」で小屋ごと移動しました』


 冒険者達が立ち去らないのならば、こちらから動くまでだ。


 


 ……結果的に、ダンジョン内に現れて消えた謎の小屋の噂話が、冒険者の間でバズることになったが……。


「ダンジョンの新しい罠だとか、新種の魔物だとか、色々と憶測を呼んでいるようです」


 その日もシファの特訓後、小屋で休憩していると、シェリーが市場で買い出しの際に聞いたという話を教えてくれた。 

 真相にかすりもしていないので、私達の正体さえばれなきゃどうでもいいか……。

 でも都市伝説って、こうやって生まれるんだな……。


「中には冒険者を見守る為に、神が(つか)わした聖櫃(アーク)なのではないか……という説もありました」


『……なんでそんなことに、なっているのです?』


 まあ、私は女神と直接面識があるし、その女神から能力をもらっているので、その私が作ったという意味ではちょっと真実にかすっているかもしれないが……。


「魔物に襲われて壊滅しかけていたパーティーが、偶然見つけた小屋に助けを求めたところ、どういう訳か怪我がすべて回復し、どこからともなく食料も現れて、助けられたからだ……と」


 ああ、そんなこともあったな。

 助けを求められれば、助けない理由は無い。

 なお、女の子中心のパーティーだったので、食料はサービスで出した。


『だから最近、小屋へ近づいてくる冒険者が増えたのですね』


 そして今もまた、何者かが近づいてきて、そして去って行った。

 今のは助けを求めにきた訳じゃないようだし、何をしにきたのだろう……?


 ドアを開けて確認してみると、そこには食料と数枚の銀貨が置かれていた。

 え……これはもしかして……。


『なんだかお供えみたいじゃのう……?』


『あ、やっぱりシファもそう思いますか?』


 まあ、この前助けたパーティーがお礼にきたという可能性もあるけど、どのみち意味合い的には神への奉納だろう。

 あれ? この小屋、神社的なものだと思われている!?

 

 ……宗教って、こうやって生まれるのか……。


 今度、賽銭箱でも設置してみましょうかなぁ……?

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[一言] 怪談と伝説は一割の真実と7割の願望と妄想2割の作成者の思惑で出来ている
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