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15 ダンジョンキャンプ

 シファが子供の姿になって倒れた。

 が、彼女は疲弊しているだけで、命に別状は無いだろう。


 問題があるとすれば──、


「なんなのよ、そいつ……」


 リリスが懐疑的な視線を、シファへと送っていた。

 シファの正体が普通の人間ではないことは、もう隠しようがないと思う。

 そしてその事実を広められると、今後冒険者としては活動できないかもしれない。


 それならばせめて魔族ということだけを隠して、適当に誤魔化そう。

 魔族は人類の仇敵扱いされているので、これだけは知られる訳にはいかない。


『彼女は特殊な種族なのです。

 ですが、このことは秘密にしておいてください。

 そちらのリリスさんも、隠し事があるようですし、お互い様でしょう?』


「なっ……!?

 ……くっ」


 リリスが一瞬だけ気色ばむけど、そのまま反論の言葉は抑え込んでくれた。

 大事(おおごと)になればお互いに損だ。

 それが分からないほど彼女も馬鹿ではないようだし、そもそも私の実力は既に見せているので、私を敵に回した時のリスクは理解しているだろう。

 事前に分からせておいて正解だったか。


『ご協力、ありがとうございます』


「……で、その子を放っておいていいのかしら?」


 と、リリスは倒れているシファを指さす。


 おお、この子、所々で常識的な反応をするな。

 根は悪い子じゃないのだろうね……。


『そうですね……。

 ここで暫く休憩しましょうか』


 私は「空間収納」の中から、事前に組み立てていた石造りの小屋を出した。

 長方形のプレハブ小屋みたいな形状だが、縦横10mほどの広さがあるこのダンジョンの通路ならば、問題無く設置できる。

 ここをキャンプ地とする!


『この中ならば、魔物の襲撃も気にせずにゆっくり休めますよ』


「ホント……なんなのよ、あなた……」


 リリスが(ひる)んだ様子を見せたが、それよりも気になるのは、キエルが難しい顔をしていることだ。


『なにか……?』


「う~ん、このダンジョン、生き物の死体だけじゃなく、その装備とかも吸収されちゃうんだ。

 もしかしたらこの小屋も、長時間床に置いておくと吸収されるかも……。

 いや、中に人がいたら、分かんないけど……」


 なんと、無機物も吸収するのか、このダンジョンは……!?


『それなら……』


 私は小屋を一旦収納し、地属性魔法で石製のテーブルを生み出す。

 上に小屋を載せても大丈夫なように、天板は厚く、脚は太い頑強な造りにして……と。

 

 そして天板の底には、細長いトゲのような突起を何本かつけておこう。

 ダンジョンに吸収される時は、床に接触しているテーブルの脚の方からのはずだから、沈み込めば底面の突起が床に接触して、折れる音や振動が上の方に伝わるはずだ。


『この上に小屋を載せておけば、小屋が吸収される前に察知できるはずです』


「アイちゃん、なんでもできるね……」


『なんでもではありません。

 できることだけですよ。

 

 さあ、小屋に入りましょう。

 レイチェルとシェリー、食事の用意を。

 シファは個室に寝かせます』


 小屋には3つの部屋があり、調理設備も用意してある。

 さすがに家具は無いけど、その気になればここで生活できるクオリティだ。


 私は部屋の1つに、シファを運び込んだ。

 再び暴走することはないと思うけど、1人の方が落ち着くかもしれない。


 で、暫し待つと──、


「ジャイアントラットのガーリックソース炒めと、オークのハンバーグです」


 料理が完成した。

 これを食いしん坊のシファの横に置いておけば、(じき)に目覚めて食べ始めるだろう。

 今は何よりも、エネルギーを必要としているだろうしね。


『さあ、私達も食べましょうか』


「くっ……悔しいけど、美味しそう……」


 キエルやリリスは、毒があると信じている大ネズミを食べることには抵抗感があったようだけど、実際に完成した料理の美味しそうな匂いには(あらが)いがたいものを感じているようだ。

 そして私達が食べ始めると、元々ネズミ食の経験があるらしいアリゼもネズミ肉に手を伸ばす。


「美味しい~!

 昔、お腹が減りすぎて、捕まえたネズミを食べたことがあるけど、こんなに美味しくなかったよ~」


 アリゼさん、そのネズミ、調理しました?

 生を丸かじりじゃあ、不味くて当たり前かと……。


「リリスさんも食べるといいですよ~」


「あ、アリゼがそう言うなら……。

 ん……確かに美味しいかも……」


 お? リリスはアリゼの言うことには、素直に従うのか。

 確か王都でリリスが大変な目に遭っている時に、アリゼが保護してクラサンドへ連れてきたという話だから、それを恩義に感じて信頼しているのかな?

 これはいい百合の予感!


「じゃあ、うちも……」


 そして1人だけ食べないという訳にもいかなくなったキエルが、ネズミ肉を口にする。


「あ、本当に美味しい……!」


 まあ、レイチェルとシェリーの料理の腕もあるのだろうけれど、大ネズミの肉質も悪くなかったということだ。

 そして心配されていた毒も、やはり無さそうである。

 毒だと思われていた菌やウィルスは、火を通すか浄化魔法で消せる。


 あとオークも、以前ナユタが倒した連中の肉を食べたことがあるから知っていたけど、相変わらずあの淫獣とは思えないほど上質な豚肉だ……。

 カツ丼、食べたいなぁ……。

 しかし米が手に入りにくい……。


 ともかく肉料理を平らげて、お茶を飲みながらゆっくりしていると──、


『お、おかわりをお願いするのじゃ……』


 と、シファから「念話」が送られてきた。

 どうやら目を覚ましたようだね。

 いつも応援ありがとうございます。

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