14 暴 走
『あははははははは!』
暴走してしまったらしいシファは、オークを攻撃し続けた。
オークは既に絶命し、肉塊を通り越して挽き肉になるのも時間の問題だというのに──。
もうあの肉ではトンカツにするのは無理だから、ハンバーグかミートソースにするしかないかな……?
それにしても……やはりというか、一旦本気を出すと魔族は強い。
しかも笑いながら攻撃を続けるのは、かなり怖いのだが……。
ヤンデレ系のキャラかよ……。
これだけの強さを持ちながらシファが戦いを恐れていたのは、もしかして暴走が原因か……?
魔族としての本能を制御できないとか、そんな感じなのだろうか?
「な……なんなの、あの子……!?」
キエル達もシファの凶行にドン引きである。
『私と同じで、ちょっと訳ありなのです……』
その一言で、キエルはシファが人間ではないと察しただろう。
オーラが視えるというアリゼも、既に私達が人間ではないことに気付いていたようなので、納得しているっぽい。
ただ──、
「ちょっと……!
あれ大丈夫なの!?
止めた方がいいんじゃない!?」
シファの正体に気付いていないリリスが、至極真っ当な意見を宣った。
意外にも心配してくれているようだ。
いや、シファがまだ人間だと、思っているからこそなのだろうか……。
でも、リリスの言う通りだ。
オークが死んでいる以上、もうシファ自身に生命の危険は無いけど、あの暴れようでは自分自身で傷つけてしまう可能性はあるか……。
とはいえ、取り押さえる為にシファに近づけば、更に暴れるかもしれない。
それに私の正体はキツネだから、物理的に拘束するのは難しいんだよなぁ……。
尻尾を巻き付ければいけるけど、完全に私の正体がばれる。
キエルやアリゼになら問題が無いような気もするけど、まだ私達の正体を知らないリリスに、あえて教えるような真似をするのは早計だ。
それなら、魔法による制圧はどうだろうか。
……地属性魔法で岩を身体にまとわりつかせて拘束するのは、あの暴れようだと難しい……と思う。
じゃあ風属魔法で酸素を遮断して気絶させるのは……加減を間違えると死ぬかな……。
となると、あれか。
私の種族特性で得意な、「幻術」を活用しよう。
『あは?』
シファのすぐ傍に、ウサギが出現する。
勿論、私が生み出した「幻術」だ。
それに彼女は反応し、そして追いかけ始めた。
私の操るウサギは、そう簡単には捕まらないぞ。
捕まったとしても、消して再び出せば、「それは残像だ」ごっこができる。
そんな感じで、追いかけっこをさせておけば、いずれはシファの暴走状態も終わるだろう。
体力に限りがある以上、永遠に続く訳ではないはずだからね。
そのうち疲れて、元に戻るじゃないかな……?
……お、シファが止まった?
でもあれは、疲れた……という訳ではないよね。
ウサギが捕まらないことに激高して、何か大技を使おうとしているように見える。
ふむ……その攻撃がこちらに向かないように、ウサギを通路の奥の方へと移動させよう。
するとそのウサギに向けて、シファは目からビームを撃ちだした。
やだ……格好いい!!
しかもそのビームの速度はかなりのもので、私でも回避することは難しいだろうな……。
だけど幻のウサギには、当然通用しない。
ビームはウサギを貫通して床に直撃し、大爆発を引き起こすだけだ。
──って、あれは、ヤバイ!!
ぶっちゃけ今の私ならば、爆発で生じた炎や熱だけならば支配下における。
しかし衝撃波は無理……とは言わない。
風属性魔法を駆使すれば衝撃波も無かったことにできるけど、それだと炎の方が疎かになりかねないんだよ……。
ここは単純に地属性魔法で壁を作って、通路を塞いだ方がいいな。
え~と、シファも爆発に巻き込まないように、爆発の手前に設定して……、
秘技、防火シャッター!!(ここまでビーム発射からから0.3秒)
うわ、物凄い振動が伝わってきた。
ダンジョン自体が、揺れているんじゃないか!?
それでも即席の壁は、耐えきってくれたようだ。
さて、シファの方は……。
「はぁ……はぁ……」
お……今のビームで消耗したのか、肩で息している。
これで落ち着いてくれるかな……?
……ん?
なんかシファの身体が、縮んでいるような……。
あ、そういえばあの子、消耗したら若返る体質だっけ!?
それからシファは、見る見る間に10歳くらいの姿まで縮んでいく。
う~ん、頭に布を巻いているから角は隠せているし、長めのスカートを穿かせているので尻尾も露出していない。
でもこれでは、人間ではないという事実は最早隠せそうにないなぁ……。
キエル達には、どう説明しようか……。
そう考えていると、シファは、
『あ……わ、妾は……一体?』
どうやら正気を取り戻したようだ。
そんなシファの身体は、フラフラと揺れていた。
『妾……やってしまったかのぅ……。
どうすれば……』
『取りあえず、笑えばいいと思うよ』
『なんでじゃ!?
…………あう』
シファが喚いた瞬間、彼女はぐらりと身体を傾け、そのまま倒れてしまった。
消耗した身体がついに、限界を迎えてしまったようだ……。
明日は用事があるので、お休みします。




