12 ダンジョンへ
キエル達と合流した私達は、ダンジョンの入り口があるという、町外れへと向かった。
そこに見えてきたのは壁だ。
どうやらダンジョンから魔物が出てきた際、町へ入り込むのを防ぐ為に、入り口の周りを囲っているらしい。
高さは精々10mくらいか。
しかも上の方は屋根で塞がれているので、壁の向こうから超大型巨人が顔を出すなんてことは無いだろう。
まあ、垂直の壁を登ることができる生物なんていくらでもいるから、こうやって完全に密閉しておかないと危ないのだろうな。
ただ、転移魔法を使われたり、壁に穴を開けられたりしたらどうしようもない。
それでも壁が無いよりは、マシということなのだろう。
で、昼間はダンジョンへ入る冒険者の為に、入り口が開放されている。
私達はその門のところで、冒険者の資格を証明するカードを係員に提示して中へと入る。
ナユタは相変わらず子供と間違えられるので、係員からカードと姿を交互に繰り返し見られていた。
「もうすぐ50歳になるレディを捕まえて、失礼だなぁ」
いや、ナユタは人間換算で25歳くらいのはずだけど、ドワーフの基準でも幼く見えると思うぞ……。
やっぱりレベルが上がると、寿命も延びてるな、こりゃ……。
しかしそのレベルを、確認する手段が無いんだよなぁ……。
冒険者カードへ向かって「ステータスオープン」とか唱えてみても、自分の能力値やスキルは確認できなかった。
そういうのを確認して成長を楽しむのも、異世界の醍醐味なのに……。
鑑定のスキルでも習得しないと無理か……。
さて、いよいよダンジョンに突入する訳だが、その入り口は自然にできた洞窟のように見えた。
ただ、中に入ると冒険者達が設置したのか、所々に照明があるのでそんなに暗くはない。
「1階層はもう探索し尽されていて、何も無いよ。
魔物もほぼ駆逐されていて、戦闘になるのは3階層くらいからだから、一気に下へ行くね」
そんな訳で、キエル達の案内によって第2階層へ進むことになった。
第1階層はそんなに広くはないらしく、すぐに2階層への入り口へと辿り着く。
階段──今までほぼ自然の洞窟だったダンジョンの中に、突然人工物が現れた。
多分1階層は本当にただの洞窟で、この階段から下が魔族の構築したダンジョン──つまり本番ということなのだろう。
階段を下りると、第1階層とは違い、壁や床は平らにならされていて、まさに人口の通路だった。
しかも、それらがほんのりと光を放っている。
魔法の材質か何かか?
その通路は幅が10m、高さが10mくらいで、なかなか広い。
それが延々と続いていて、しかも何十階層もあるというのだから、広大な迷宮だわ。
『ちなみに、何階層までの攻略が進んでいるのですか?』
私がキエルに尋ねると、
「55階とちょっとだったかな?
行って帰ってくるだけでも、何日もかかっちゃうだろうねぇ。
まあ、アイちゃん達は攻略の初日だから、今日は日帰りで行けるところまでだね」
そんな答えが返ってきた。
200年以上もかけてその程度しか攻略できないというのは、広さ云々よりも出現する魔物が強すぎるってことなんだろうな……。
その後、何事も無く3階層へ到達する。
ここから魔物との遭遇率が上がるらしい。
「それじゃあ、アリゼさんお願い」
「は~い」
索敵はアリゼが担当しているようだ。
回復役の彼女が索敵というのもちょっと意外な気がするけれど、たぶん例のオーラを視る能力の活用かな?
そして暫く進むと──、
「来ました、来てますー!」
アリゼが反応した。
敵が接近してきているようだ。
いや、私は勿論、弟子達も察知していると思うけど、口出しするのは無粋かな。
やがて通路の奥から、そいつらが現れた。
あれは……1mほどもある、巨大なネズミ……!?
豚のように丸々と太っている。
「ジャイアントラットだね。
毒を持っているよ!」
いや、毒と言うよりは、細菌やウィルスじゃないかなぁ……。
雑菌だらけの獣の牙や爪で傷つけられると、腫れるだけならまだいい方で、最悪命に関わるような状態になるから、それが毒だとこの世界の人間には認識されているのだろう。
狂犬病とか、発症するとほぼ確実に死亡するし、最悪だよね。
まあ、細菌のことを説明しても、その概念を知らない者にはすぐには理解されないと思うから、訂正はしないけれど。
それに毒として認識されているということは、おそらく毒消し薬や解毒の魔法が効くということなので、同じ物と考えても特に問題は無いのだろう。
それはともかく──、
『ネズミはもも肉が1番美味しいですよね』
「えっ!?」
リリスがドン引きしたような反応を示した。
どうやら元貴族だったらしい彼女には、ネズミを食べるなんて発想はなかったらしい。
でも、私が子ギツネの頃は、ほぼ主食だったんですけど?
だからなるべく美味しく食べられるように、工夫はしたんだよ。
ただ、この大ネズミは毒があると思われているらしいから、食用だとは認識されていなかったのだろうな……。
それでも──、
「あ、そうか!」
私の正体を知っているキエルは、納得した顔になる。
まあ、キツネがネズミを食べるというイメージは正しい。
だけど私が常にネズミを食べているというイメージがあるのなら、それは間違いだからね!?
それとアリゼは、うんうんと頷いている。
彼女は王都のはスラム育ちだっけ?
たぶん空腹に耐えかねて、ネズミを食べたことがあるんだな……。
こんなことで理解かり合えそうだということが、なんだか悲しい。
ともかく大ネズミが4匹──。
ここは戦闘経験が少ない、シェリーに任せてみようか。
『シェリー、やれますか?』
「はい、お任せください、ご主人様」
と、シェリーは包丁を構えた。
そしてその格好は、メイド服だ。
戦うメイドさんは浪漫だねぇ……。
まあ、キエル達は、「なんで?」って顔をしていたが……。
ただ、シェリーにしてみれば、着慣れた服と道具が1番なんだって。
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