10 力の誇示
クラサンドへの旅は続く。
順調と言えば順調だけど、何も問題が無いという訳ではない。
敵襲は何度もあった。
「師匠、魔物が接近中!
オオカミ型の!」
『じゃあ、任せます』
戦闘は相変わらず人任せである。
『そうじゃぞ、頑張るのじゃぞ!』
シファ、お前も頑張った方がいいと思うよ?
ただでさえ、レベルが低いっぽいんだから。
「あ、うちらも行くよ」
シファの代わりにキエル達も戦うようだ。
いや──、
「ちょっと、あなたも戦いなさいよ!
あなた『転移魔法』が使えるくらい実力があるのに、全然戦わないじゃない!」
リリスが噛みついてきた
私が働いていなのが、気に入らないらしい。
確かにお風呂の用意以外は、人に任せていることが多いのは事実だな……。
でも、「幻術」で人間の姿を維持しながら、戦闘をするのは面倒臭いんだよ。
『私は師匠ポジションなので、いいのです』
「なんなのよ、それーっ!!」
しかしリリスは、それでは納得してくれなかった。
仕方がないにゃぁ……。
1度実力を見せれば、納得するだろう。
『みんな下がってください、今回はやっぱり私がやります!』
「ちょっ、師匠が!?
全力で退避ー!!」
「えっ?
えっ?」
「なんなのー?」
「私が防御結界を構築するので、その後ろに隠れるのです!」
困惑するキエル達に対して、テキパキと対処する弟子達。
よし、思いっきりやっても大丈夫そうだな。
「な、何をする気なのよ」
『あなたのお望み通り、戦ってあげますよ。
ほいっ、と』
そんな私の軽い掛け声とは裏腹に、生じた結果は一般人から見れば常軌を逸したものだっただろう。
接近してきた魔物は、ちょっと私達に近づきすぎたので、「転移」で距離を離す。
このまま攻撃したら、自分達もそれに巻き込まれてしまうからね。
強制転移された魔物達は空中に投げ出され、そのままでも墜落死する……が、私の実力を見せつける為に、更なる攻撃を仕掛けた。
「な──っ!?」
落下する魔物達を飲み込むように、地面から高さ100mほどの火柱が立ち上る。
まあ、一応範囲は絞ってあるし、炎は上空に向かっていったので、森に延焼するとかいうことはないと思う。
ただ、火柱から生じた熱風が、こちらに押し寄せてくる。
直接触れれば軽く火傷くらいはすると思うけど、レイチェルの防御魔法で遮断してあるから問題は無いはずだ。
「な……な……!」
リリスは口をあんぐりと開けて、顎を外しそうなほどに驚いている。
キエルやアリゼ、シファも似たような反応をしていた。
あれ?
シファの前で戦ったことは、まだ無かったっけ?
『見ての通り、私がやると全部燃え尽きてしまい、素材が取れなくなるんですよ。
勿論、手加減もできますが、それでも即死級の威力がありますので、乱戦だと味方に当たりそうで怖いですし……。
それに他の人達が活躍する機会が、無くなってしまいますので……』
「くっ……」
私の言葉でリリスは、押し黙った。
こうして実力を見せつけておけば、いくらリリスが狂犬でも、噛みついてはこないだろう。
『あなたも、人にどうこう言う前に、実力が上の者から学ぶように、態度を改めたらどうです?
今のままだと、あなたは足手纏いですよ?』
「な……なによ、偉そうに……!!」
『力が正義とするのならば、実際に偉いですよ。
あなたが何を目的にして冒険者をしているのか分かりませんが、力が無ければ目的を達成することはできないんじゃないですか?
見たところあなたは、無詠唱の魔法を使えませんよね?
私の弟子はレイチェルは勿論、魔法職ではないナユタでも使えますよ。
だけどあなたの態度では、教えようという気にはならないでしょうね』
私は人間の言葉を発声することはできないので、無詠唱の魔法は当たり前のように使っているし、弟子達にもその使い方を教えているけど、一般的な人間の術者は、詠唱をしないと使えないという先入観があるっぽい。
でもいちいち詠唱していては、攻撃に時間がかかって不利だということは、厳然とした事実だ。
強くなる為には無詠唱を学んだ方がいいと思うけど、リリスには教えを請うような態度が無い。
それで本当にいいのか──と、私は問うている。
「……っ!
ふん!」
リリスは不貞腐れたような顔で、背中を向けた。
……長い年月で培われた性格は、そんなに簡単には変わらないか。
『あなたもですよ、シファ』
『ファッ!?』
『あなたも目的があるのでしょ?
それならば、もう少し戦闘に参加して、自身を鍛えた方が良いのでは?』
『そ……そうじゃな……』
そう答えるが、シファからは覇気を感じない。
このままで大丈夫かなぁ……?
その後、リリスの態度はかなりマシになって、私には絶対に逆らわないようになった。
まあ、相変わらずレイチェルには当たりがキツイが……。
どうにも我が強すぎる……。
本当にレイチェルと血縁なのだろうか……?
レイチェルは本当に素直な子で、リリスとは性格がまったく似つかないし……。
一方シファは、あまり変わらない。
あの性格のまま数百年も生きているらしいから、もう軌道修正は難しいのかも……。
これは何か切っ掛けが無いと、変われないのかもなぁ……。
そんな不安要素もあるけれど、1ヶ月ちょっとでクラサンドへは無事に到着した。
さあ、これから冒険者としてダンジョン攻略だ!
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