5 急成長
ここから完全新作です。
どうやら私の転生特典は、取得経験値の大幅な増加っぽい。
それが分かってから私は、積極的に狩りに参加するようになった。
とはいえ、経験値目的で動物を虐殺するのは心が痛むので、一応殺したらちゃんと食べるという縛りは設けて、無闇な乱獲は控えている。
やっぱり生肉を食べるのは、人間の感覚が残っている私にとっては、未だに慣れない苦行だ。
それでも以前と比べれば食べる肉の量が増えたおかげで、私の身体は兄妹達の中でも1番大きくなりつつある。
もしかしたら私が得たスキルは、経験値の増加だけではなく、身体の成長も促進しているのかもしれない。
それともレベルが上がると、某タヌキ娘みたいに身体の成長も早まるのかな?
ただ、まだ身体能力はママンと同程度なので、野生の世界で生き抜く為には、ちょっと心許ない強さだ。
狩る相手もネズミではなく、もっと大物を倒せるようにならないと、レベルアップの効率も悪いしな……。
その為には、他にも戦闘スキルが欲しいところだね。
たとえば魔法とか……。
魔法……というか、魔法少女には憧れるよねぇ……。
魔法少女ものと言えば百合要素も多いし、是非ともその路線に進みたい。
だがキツネだ!
少女というか、雌なのですが!
キツネが魔法を使ったって、ただの魔物にしか見えないよ!
しかし魔法を極めれば、人間に変身することも可能になるかもしれないし、なんとか魔法を習得したい。
でも、どうやって?
うむ、分からん!
ただ、魔法は魔力という謎エネルギーを使って発動させるというのは、異世界での常識だ。
まずは魔力を感じ取れるようにならなければ、話にならないだろう。
う~ん、まずは瞑想をして精神を研ぎ澄まし、体内の力の動きを感じ取れるか試してみよう。
「………………………………」
「きゅ~んっ!」
「きゅっ!?」
わぷっ!?
背中に何かが乗りかかってきた!?
……って、妹ちゃんか。
え、遊んでほしいの?
今忙しいんだけど……。
「きゅ~ん?」
くっ……そんなチワワみたいなつぶらな瞳で見つめられたら、抵抗できんやろがい!
仕方がないにゃあ……。
私は妹ちゃんと遊んであげることにした。
でも実際のところ、妹ちゃんの接近に気付けなかったのはまずいな。
もしもあれが敵だったら、私は死んでいた。
これからは周囲の気配を警戒しつつ、瞑想ができるようにしないと……。
雨は……嫌いだ。
外は激しく雨が降っているので、今日は巣の外には出られそうにない。
丁度いいので、瞑想の練習をしよう。
まあ、暇を持て余した妹ちゃんがまとわりついてくるけど、この際それを無視して瞑想を維持する訓練とする。
え~と、魔力ってどうすれば感知したり、操ったりすることができるんだろうね?
昔テレビのオカルト番組で見た、「気」の練り方ならなんとなく憶えているけど……。
確か大気からエネルギーを取り込むようなイメージでゆっくりと呼吸して、そして取り込んだエネルギーを身体の中心に集めて球形にし、それを膨らませるような感じで……。
その球が安定したら、体中に移動させて、任意の場所で解放させるとか、そんなやり方だったように思う。
もう何十年も前の話だから、たぶん色々と記憶が間違っていると思うし、そもそもこの方法が正しいのかも分からないけれど、とにかくやってみよう。
……でも結局この日は、気も魔力も感じ取ることはできなかった。
ところが数日後、急に魔力らしき物を感じ取れるようになった。
何故そうなったのか最初は分からなかったけれど、たぶん獲物を狩ってレベルアップした結果、体内に内包する魔力量が増えたからなのだと思う。
ただ、魔力を感じとれるようにはなったけれど、それを操るのはまだ無理だし、魔法として発動させるのは夢のまた夢だ。
そもそもこれが「気」である可能性もあるので、本当に魔法が使えるようになるのかどうか……。
レベルアップ作業と並行して、まだまだ訓練が必要だなぁ……。
更に10日ほどが経過した頃、魔力なのか気なのかよく分からない力を、なんとか体内に循環させることができるようになった。
これをすると、ちょっと身体能力が上がるような気がしたので、手や足などの特定の部位に集中してみたら、やっぱり強化されているっぽい。
これが魔法と言えるのかどうかは微妙だけど、界●拳っぽいことができるようになったのは確実だと思う。
ただ、かめ●め波はまだ撃てない。
どうやらこの力は、体外に出すとすぐ霧散してしまうらしく、形を維持するのが難しい。
ん~……、すぐ霧散してしまうなら、別の何かに変換すればいいのだろうか?
それこそがまさに魔法だと思うんだけど、火や水を発生させるイメージで魔力を操ってみよう。
魔力によって、化学反応を再現するような感じで~~、
「きゅぅー!」
あかん、妹ちゃんがじゃれついてきた。
今日の特訓は中断だな。
強くなるのも大事だけれど、妹ちゃんとの触れ合いが今のところこの異世界で唯一の癒やしなので、疎かにできないんだよね……。
しかし、そうも言っていられない事態が、迫りつつあることを、私は思い知る。
更に数日が経過した。
魔法の発動には、まだ成功していない。
でもまたレベルアップして、身体能力の強化は順調だ。
修行パートはだるいけど、厳しい異世界の自然の中で生き残る為には、手を抜けないから今日も1日頑張るぞい。
ところがこの日は、事件が起きた。
私達親子が餌を探しながら移動していた時、そいつは来た。
お兄ちゃんの件から、周囲は警戒していたつもりだったのに……。
「ぎゅっ!?」
「きゅ────っっ!?」
突然の襲撃者に、もう1匹のお兄ちゃんが攫われてしまった。
それは一瞬のことだったけど、今度はその姿を私はハッキリと見た。
空から襲いかかってきたそいつは、タカやワシなどではない。
グリフォン──。
ワシの上半身と翼に、ライオンの胴体と後ろ足を持つ魔獣だ。
異世界ファンタジーの作品では、結構強敵の部類に入る存在として登場するけど、その一方では騎馬のように乗り物として扱われることもある。
ただし私が見た個体はまだ子供なのか、人が乗るには微妙なサイズをしていた。
精々ポニーくらいの大きさだろうか。
だが、動きが小動物のように素早い。
おそらく今の私では、太刀打ちできないだろう
そして元々6兄妹だった私達は、残り4姉妹になってしまった。
これが全滅することだけは、なんとしても避けなければならなかったけど、その為には私はもっともっと強くならなければならない。
……まあその前に、安全な場所へ、また引っ越しだけどね……。
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