9 キエルのパーティー
道は続くよ、どこまでも。
私達が歩いている道は、まったく終わりが見えなかった。
クラサンドの町まではゆっくり歩いて行くと2ヶ月はかかるそうだが、まだ半分も進んではいないだろう。
そんな訳で今晩も、適当な場所を土属性魔法で整地してから、そこにテントを立てて野営することになった。
キエル達を仲間に入れて、最初の夜である。
「これ、美味しいね……!」
で、レイチェルとシェリーが作った夕食は、キエル達にも好評だ。
私の「空間収納」は入れた物の時間を止めることができるので、食材を新鮮なまま保存できるし、更に石窯などの調理設備だって入っている為、野営とは思えないような本格的な調理をすることが可能である。
そこにレイチェルとシェリーの調理技術が加われば、高級レストラン顔負けの料理を味わうこともできるんだよね。
まあ、あまりの美味しさに服がはだけるような、オーバーなリアクションはさすがに無かったけれど、レイチェルを敵視しているリリスですらも黙って食べていた。
フードの下から見え隠れする口元は明らかに緩んでいるので、かなり美味しいと感じているのではなかろうか。
まったく、メシの顔をしやがって……。
そして食事が終わったら土属性魔法で壁を作り、その中に「空間収納」から出した湯船を設置する。
中に水属性魔法で出したお湯を張れば、お風呂も楽しめる訳だ。
下手な宿屋よりも、豪勢な野営だといえる。
「凄いね~、これ~」
いや、凄いのはあなた達の胸ですが!?
お湯の温度調節の為に、入浴中のキエルやアリゼの裸を見たけど、本当に凄かった。
二人の間に挟まれたい……。
ただ、リリスは……まあ、うん。
とにかくありがとう、長風呂。
それでお湯がぬるくなっていなければ、こんな役得は無かっただろう。
そして風呂が終わったら、明日に備えて早めに就寝だ。
ただし、獣や魔物の襲撃があるかもしれないので、交替で見張りを立てる。
まあ、私なら寝ながらでも気配は感知できるけど、いい機会だからキエルと見張り役をするついでに、この10年間のことを色々と聞いてみようと思う。
「やっぱり、あのアイちゃんなんだね……」
私が「幻術」を解いて本来の姿に戻ると、キエルは懐かしそうに目を細めた。
『夜は冷えますから、私の尻尾にくるまってください』
「相変わらずフワフワだ……。
でも、こんなところでアイちゃんに会うとは、思わなかったよ。
君達がこなかったら、うち達は盗賊に負けてどうなっていたか……。
改めてお礼を言うよ。
ありがとう」
『いえ、私は何もしていないので』
ぶっちゃけ、パワーがありすぎて手加減が面倒臭いので、雑魚とはあまり戦いたくないのだ。
だから戦闘は、ナユタやレイチェルに任せきりなことが多い。
その所為か、最近はあまりレベルが上がったという実感は無かった。
でもダンジョンに行けば、もうちょっと本気が出せる敵に出会えるかな?
『それにお礼を言うのは、私達の方ですよ。
私に同行しているナユタとレイチェルは、あの時奴隷商から助け出した子達です。
キエルさんの協力が無ければ、今ここにいなかった可能性もありますからね……』
「そう……なんだ……」
私の言葉を受けて、キエルは少し気まずそうな顔をしている。
「あの後、領主様が軍隊を引き連れて、アイちゃん達を追いかけていったみたいなんだけど、その領主様は死んじゃったみたいだし、その後を継いだ息子の方も家ごと燃えちゃって……。
正直言って、とんでもないことに関わっちゃった……って、怖くなってサンバートルにはいられなかったよ……」
ああ、だから現在はクラサンドで活動しているのか。
『それは……ご迷惑をおかけしました』
私は素直に頭を下げておく。
自分がやったことを間違っているとは思っていないけど、色んな人の運命は変えちゃったからねぇ……。
「ううん、うちもクラサンドに出て、結構充実した冒険者活動ができているからいいんだよ。
まあ、10年やって、ようやくBランクで、なかなか芽が出ないけどね」
それは意外だった。
……う~ん、キエルから感じる生物としての気配は、そんなに弱くはないんだけどな。
それでも冒険者として大成できないのは、師匠か仲間が悪いのかもしれない。
『あのお二人とは、パーティーを組んで長いのですか?』
「いや、あの二人とはそんなに……。
前にいたパーティーは色々とあって解散しちゃって、うちもそろそろ引退かなぁ……と思っていたところに、あの二人が王都から逃げてきて……」
『逃げて……?』
「ほら、2年くらい前に王様が変わったでしょ?」
『……そうですね』
あ……そんなに前だったんだ。
じゃあサンバートルに疎開してくる人が増えたのも、ここ1~2年のことなのか。
「どうやらリリスは、王都で何かあったらしくてね。
行くあても無くてどうしようもなくなっていたところを、同じく王都のスラムに住んでいたアリゼが拾って、一緒にクラサンドへ逃げてきたんだよ。
だから普段はなるべく顔を隠しているし、名前も偽名みたい……」
『そんなこと、私に話しちゃっていいんですか?』
その情報、もしかしたらお金になりそうなんだけど……。
「まあ、レイチェルちゃんのこともあるし、アイちゃんも知っておいた方がいいと思って……」
ああ、レイチェルとリリスは似ているもんなぁ。
やっぱり母親のセリスの実家って、王都の貴族なのかな?。
そしてリリスは、その家の関係者なのかも……。
その関係で、レイチェルが厄介事に巻き込まれる可能性もある訳か……。
「で、若い女の子ができる仕事って夜のお店以外だとそんなに無いから、二人は誰でもできる冒険者になろうとしたみたいだけど、リリスは年齢制限に引っかかっちゃってねぇ。
だけどベテランの高ランク冒険者が監督するなら、ダンジョンにも連れて行ってもいいって決まりがあるから、丁度フリーだったうちが受け持つ形になったの」
なるほど、キエルも色々とあったんだなぁ。
しかし王都でのことは、ちょっと気になる……。
セリスの実家も関係していそうだから、シファの件が済んだら、王都へ行くのもいいかもしれないね。
ブックマーク・☆での評価・いいね・感想をいただけるとモチベーションが上がります。