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6 盗賊達の処遇

 私達の数百mほど前方で、数台の馬車が──隊商らしき者達が襲われていた。

 ただ、護衛が優秀なのか、群がる数十人もの盗賊──その多くは獣人らしいが、その攻撃に対して持ちこたえてはいる。


「師匠、加勢してくる!」


 ナユタが駆け出す。


『……レイチェルはどうします?

 獣人……とはいえ、人間が相手ですが……』


「私は……」


 レイチェルは戸惑っていた。

 彼女は魔物ならばともかく、人間相手に命のやりとりをした経験が無いからだ。

 村には獣人もいるし、優しい彼女としては、顔見知りの彼らの顔が頭にちらついて、戦いにくいのだろう……と、思う。

 ただ──


『ナユタがいれば、追い払うことはできるでしょうから、レイチェルが戦わなくてもこの場は収まります。

 しかしあの盗賊達を見逃せば、いずれ別の誰かが犠牲になります。

 そんな未来の犠牲を無くす為には、今非情になる必要がありますよ……』


「…………」


 私としては、どんな事情があるにせよ、犯罪者に容赦する理由は無い。

 しかしそれは、義務でもなんでもないのも事実だ。


『でも、何処の誰とも知らない者の為に、私達が嫌な想いをしてまで戦う必要も無いと思うのです。

 このような街道を通れば、盗賊はつきもの。

 対策していない方が、悪いとも言えます』


 加害者が一番悪いのは当然だとしても、何の対策もせずに被害に遭うのは愚かだ。

 そんな赤の他人のものまで、私達が責任を持たなければならない理由はない。

 あくまで罪悪感が湧くかどうかという、気分の問題だ。


 だが──、


「私、行ってくるのです!」


 結果として何もしない方が、レイチェルにとって後悔になるというのなら、行動すればいい。

 私? 私は手加減しても、高確率で殺しちゃうから嫌。

 他の生物が、弱すぎるのがいけないんだ……。


『シファは、どうしますか?』


『わ……(わらわ)は、あまり目立ってはいけないのじゃろ?』


 と、尻込みしている。

 ……う~ん、このへっぽこ姫……。

 戦う力が無いと言うよりは、気が弱いのかな……?


 まあ、レイチェルも加勢したのなら、すぐに盗賊の制圧されるはずだ。

 これ以上の戦力は必要は無いだろう。

 戦闘が終わったら、私が回復魔法を使って怪我人を治療するくらいかな。


『シェリー、お茶を用意してください』


「かしこまりました」


 運動後の水分補給は大事だし、襲われた人達も緊張で喉が渇いているだろうからね。




 で、程なくして、盗賊達は制圧された。

 レイチェルが頑張って手加減(・・・)したのか、生きたまま捕縛されている者が多い。

 そんな彼らは、通常なら官憲に突き出され、犯罪奴隷に落とされることになると思うが……。


 しかしこんな人里離れた街道から、町まで盗賊達を運ぶのは大変な労力だ。

 食料や水だって、大量に消費する。

 それならばここで、殺処分してしまおう……という案も出てくる。


 隊商の者達は、そんなことを話しているようだ。

 折角レイチェルが生け捕りにしたのに、それでは目覚めが悪いな……。


「そういうことなら、私達が彼らを奴隷として引き取りましょう」


 と、シェリーを通して伝えられた私の提案は、あっさりと受け入れられた。

 隊商の者達だって犯罪者が相手でも、好んで虐殺したい訳じゃないだろうからね。

 それにナユタやレイチェルの加勢で助かっている事実もあるので、その謝礼という面もあるのだろう。

 奴隷もなんだかんだで財産だし。


『あなた達は私の奴隷として、我が村で働いてもらいます。

 争いや犯罪行為は禁じますが、それ以外はあなた達の自由意志に任せますので、そんなに悪い扱いにはならないはずです』


 私が盗賊達にそう告げると、盗賊達は不満そうな顔をしていた。

 命が助かったことに対する喜びは、そんなに無いようだ。


「ちっ……また奴隷か」


「自由とか、もうどうでもいい……」


 そんな声が上がったので、話を聞いてみると、彼らは元々奴隷だったらしい。

 しかし獣人の自由を尊重するという新王の方針によって、彼らは解放された。

 ただしそれは、仕事や住居などの生活基盤は何も用意されない状態で放逐されることを意味しており、いきなり彼らは困窮したという。

 元の主人達も、彼らの自由や人権を尊重した訳ではなく、新王やそれを支持する勢力に目を付けられるのを恐れて、厄介払いとして奴隷達を捨てたのだ。


 結果的に元奴隷達は食うにも困り、盗賊に落ちて略奪するしか生きていく(すべ)がなかったということらしい。

 そんな人々の気まぐれと身勝手に振り回された彼らにとっては、奴隷であるのか否かというようなことは、もうどうでもいいようだ。

 彼らにあるのは、人生に対する(あきら)めだった。


 そんな彼らの身の上には同情できる部分はあるし、今後も同じような元奴隷達に出会うことが増えるかもしれない。

 はあ……これは村での受け入れ体制を、強化しないと駄目だな……。

 そして受け入れた彼らが、自立していけるようなプログラムを組まないと……。

 私は今忙しいから、セリスさんに考えてもらおうかな?


 というか、機会があったら新王の方にも、やり方を変えるように働きかけた方がいいかも。

 奴隷解放は構わないけど、何の準備もしないで拙速にことを運んでも、混乱を生むだけだからね……。


 取りあえず今は、村に盗賊達を送り届けて、受け入れについてはゴング達に任せよう。

 そして「転移」で村との間を往復すると──、


「あ、あなたは転移魔法が使えるのですか?」


 と、隊商の者に声をかけられた。

 そりゃ、数十人もの盗賊がいきなり消えたら分かるか。


 そして隊商の馬車は、盗賊の襲撃によって一部が破壊されたり、馬が殺されたりして走行不能の状態になっているものもあるようだ。

 これでは荷物を捨てて歩かないと、町までは辿り着けそうにないな……。


『ええ、なんでしたらサンバートルまでなら、送り届けることができますよ?』


 アイちゃん運送ですよ。


「ありがたい!

 お礼はします」


 そんな訳で、隊商をサンバートルまで送り届け、みんなのところへ戻ろうとしたその時──、


「そんな……これじゃあ、足りないわよ!」


 誰かが隊商の者に抗議している。

 どうやら護衛をしていた冒険者達のようだが……。

 その中に、なんか見覚えのある顔がいるな……。


 ……あれ、キエルじゃね?

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[一言] 真顔で誰だっけ?ってなったので読み返そう
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