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5 不自然な交通量

 それから私達は、クラサンドに向かって徒歩で進む。

 ただしその速度はゆっくりと……だ。

 距離的には数百kmはあるらしいので、急いでも途中で体力が尽きてしまうだろう。


 私とナユタは問題無いけど、レイチェルとシェリーの体力は人並みだからなぁ。

 長距離の移動は、ちょっと(つら)そうだ。


『ひぃ、ひぃ……!

 そろそろ休まぬか……!?』


 シファ、お前もか。

 ねえ、魔族って凄いと思っていたんだけど、君は何ならできるんだい……?

 遭難の末にとは言え、魔物にも負けていたようだから、戦闘力も低そうだし……。


 うん、魔族の中でシファの立場が弱いというのも、理解できるような気がする。

 結局は血統よりも、何かを成し遂げる為の力の方が、重要だったという訳だ。


 とはいえ、シファは人間との共存も視野に入れている穏健派なので、私としては是非とも彼女が魔族のトップに立ってほしい。

 もしくは同じく穏健派の、魔王の復活か……。


『ダンジョンの最下層では、お母上の復活が(こころ)みられているのですよね?』


 私は道端に腰を下ろし、水魔法で出した水を飲んでいるシファに聞いた。


『そう聞いておる。

 母上が人間界で勇者に討たれた時、(わらわ)は遠く離れた魔王城にいた為、詳しくは知らぬが……。

 側近のカシファーンが、母上のお身体を持って逃げ込んだ先に構築したのがダンジョンだ……と。

 そこで母上の復活を試みているそうだが、既に200年以上経過した今では……』


 ふむ……試みは(かんば)しくない……か。

 となると、私が全面的にシファをバックアップした方がいいのかな?

 あるいは彼女を傀儡(かいらい)にして、私が魔族の実権を握る……とか。


 でもそれにしたって、シファにも最低限の実力は身につけてもらわなければ……。

 旅の道中で私が魔法を教えるのは当然として、実戦経験を積ませて、レベルアップをさせたいな……。


『ダンジョンに到着したら、すぐにお仲間と連絡はとれるのですか?』


『えっ、それは……直接会うことができれば……』


 つまりそれって、魔族がいるダンジョンの深層まで潜らなきゃ駄目ってことだよね?

 しかし数多くの冒険者が挑戦しても、200年経過した現在でも攻略できていないというから、すぐに魔族と接触することはできないな……。


 だけどそれならば、ダンジョンでシファを鍛える時間は充分にありそうだ。


 ……あ、馬車がきた。


『シファ、もっと脇に()けて』


『う、うむ』


 ……変だなぁ?

 こんな山の中の街道なら、交通量なんかたかが知れているから、道の真ん中で寝ていても問題無いというのが普通のはずだ。

 しかしこの旅では、すれ違う人は多いし、馬車もよく見かける。

 私はその(たび)に、「幻術」で姿を誤魔化すことになった。

 実に面倒臭い……。

 

「なにやら馬車が……いいえ、人通りが多いように思うのです」


 レイチェルが言う通り、この街道の交通量は多いように感じる。

 しかも皆、辺境であるはずのサンバートル方面へ向かっていた。

 不便な田舎って、過疎化していくのが普通じゃないの……?

 いや、最近はうちの村の影響で発展しているみたいだけど、それにしたってあの町に人が大量に押し寄せるような何かがあったっけ……?


 そこで私達は、通りかかった人に話を聞いて見ることにした。

 いや、直接聞くのはシェリーに頼むけどね。

 私は一応「幻術」で人間の姿をしているけど、相変わらず声は「念話」頼みだし、不審に思われるもの。


 ちなみに「幻術」での私の姿は、ダンジョンに潜る為に冒険者の資格を取ろうと思うので、前世の姿を冒険者風にカスタマイズしたものだ。

 慣れ親しんだ姿だから、「幻術」でも維持しやすいからね。

 で、その姿はレイチェル達から見てもおかしなところは無いらしいので、かつての自分の姿がこの世界でも通用すると分かって、なんとなく嬉しい。

 そこそこ整った顔だったという自負はあるよ。

 スタイルはそうでもないけど……。


「え?

 何があった……って、王都で政変があったんだよ。

 王族が追い落とされて、新しい王様が即位したって言うけど、なんでも獣人で同族の自由を認めているんだってさ。

 で、それに抵抗している勢力もいて、戦禍が拡大するかもしれないってことで、王都や周辺の土地からは、みんな逃げ出しているのさ。

 

 クラサンド?

 あそこは王都から離れているし、重要なものはあまりないから、大丈夫じゃないかい?

 ただ、最近はあちこちで新王派の獣人が、調子に乗って暴れているって話も聞くから、気をつけるんだよ」


「……ということのようです」


 もう終わりだネコの国……。

 

 シェリーが通りがかったおじさんから聞いてきた話によると、結構とんでもないことがこの国で起こっているようだ。

 ああ……サンバートルの人口が増えていたのは、疎開してきた人が流入したからなんだ……。


 まあ……私達にはあまり影響は無い……かな?

 いざという時は、「転移」で村に帰ればいいだけだし。

 国に属していない我が村は、一応自給自足が可能なので、一切国と関わらないでもやっていけるからね。

 

 それに新王の獣人の自由を認めるという方針も、賛同できる。

 今まで彼らは、奴隷として(しいた)げられていたようだからね……。

 それについては、邪魔するつもりはない。


 しかしだからと言って、これまで抑圧されていた獣人達が暴れることを、放置しているっぽいのはいただけない。

 もしも戦渦に巻き込まれている一般人を目の前にした時、私達は助ける為に動くべきだろう……けど、厄介事には巻き込まれたくないなぁ……。


 しかし治安の悪化、交通量の増加したした街道、運ばれる物資、何も起きないはずがなく……。

 数日後、それは起こった。


「師匠、前方で馬車が襲われているぞ!!」


 ヒャッハ~!!

 盗賊狩りの時間だ~!!

 明日は定休日です。

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[一言] ネコの国アレルギーじゃなけりゃ天国かな
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