4 旅立ち
私達は魔族が隠れ住んでいるダンジョンがあるという、クラサンドの町へと旅立つことになった。
メンバーは私と魔族の王女シファ、冒険者としてダンジョンに挑戦したいナユタとレイチェル、そしてお世話役のシェリーだ。
「うう……私も行きたかったのに……」
残されるダリーは残念そうだ。
だが、女子ばかりの旅に男子を同行させるのもどうかと思うし、残留するシスの世話をしてくれる者も必要だからね。
一方シスは、さすがに姉離れが進み、昔ほど私にベッタリとくっつかなくなった。
野生の状態なら、とっくに子育てをしていてもおかしくない年齢だしねぇ。
それに人間の町はあまり好きではないらしいので、あっさりと残留を承諾した。
ちょっと寂しい気もするけれど、彼女は村の守りの要なので助かるよ。
また、残留すると言えば、レイチェルの母親であるセリスもだ。
クラサンドには数ヶ月以上滞在するかもしれないので、なんならそのまま家を手に入れて、永住させてもいいんだけど、彼女は田舎の生活の方が性に合っているらしく、同行するとは言い出さなかった。
ただ、娘のことが心配ではあるようで、あれこれと口うるさく注意している。
「それではレイチェル……アイ様の言うことを聞いて、しっかりやるのですよ」
「分かっているのです、お母さん。
もう子供じゃないのですよ」
……その口調では説得力が無いような気もするけど、突っ込まないでおこう。
そもそも母親のセリスから見れば、子供は何歳になっても子供だ。
しかもこれから最低でも数ヶ月は会えなくなるし、冒険者という危険な仕事をする以上は、その数ヶ月の間に命を失う可能性だってある。
もしかしたらこれが今生の別れになるかもしれないのだから、心配で仕方がないというセリスの気持ちも分かる。
そういう意味では、私もちゃんとお別れを済ませないと。
そう思っても、いざ別れの時になると、なんて言っていいのか分からないな……。
オーバーにすれば、それはそれでなにかのフラグになりそうな気がするし。
結果、当たり障りの無い言葉しか出てこない。
『それじゃあシスとゴング、村のことは頼むね』
『うん、お土産よろしくね、お姉ちゃん』
「お任せください、アイ様」
最近のゴブリン達は、普通に人間の言葉を喋る。
彼らの学習能力の高さには驚かされるけど、もしかして人間って、大したことないのか?
数は多いし、大規模な勢力圏を構築しているけど、生物としてのスペックはそんなに高くない印象だなぁ……。
いや、極一部の人間は、かなり強くなれるようだ。
私の前世の基準と比べたら、超人としか言いようのない能力を持つ者はいる。
前世の人間の戦闘力が5だとしたら、以前戦った黒ずくめの男は416くらいかな。
それに魔法もあるしね。
それでも平均的な人間のスペックは、高くない。
そんな人間が、我が物顔で世界を闊歩しているのは、他の種族からしたらちょっと面白くないのかもねぇ……。
そんなことを思いつつ、シファの方を見る。
かつて人間と戦争をした魔族の彼女としては、人間に対して色々と思うところはあるのかもしれないけれど、そういうところを彼女はおくびにも出さない。
……魔族って、もっと凶暴で邪悪な存在のイメージだったけど、なんだか全然違うな……。
シファが特別なのかは分からないいけど、これが魔族の全体的な性質ならば、貧しいという彼らの生活を助けてあげたくはなるなぁ……。
『それではアイ殿、出発しようか』
『ええ、行きましょう』
直後、私達はその場から消え失せた。
『おおっ!?』
目の前にサンバートルの町がある。
「転移」の魔法で、一気に移動したのだ。
さすがに10年もあれば、これくらいの術は習得できる。
あなたのハートにテレポートですよ。
そして町も、10年もあれば発展する。
以前と比べればサンバートルの町も、かなり大きくなった。
それは我が村との交易から得られる利益とは、無関係ではないはずだ。
ただ、それにしても──。
その時、シファが声をかけてきた。
『おぬし、転移魔法が使えるのか!?
高位の術者しか使えぬらしいが……』
そういうあんたは、むしろの魔族の王女なのに使えないのか……。
『行ったことがある場所にしか跳べないので、ここからは歩きですけどね。
空を飛んで行くのもいいですけど、他の飛べない者まで飛ばせるとなると、そんなに長距離は飛べませんよ』
『いや、妾も飛ぶのは疲れるから、歩きで良いのじゃ』
『そういうことなら、このまま行きましょうか』
と、私達は歩き出す。
『む?
町には寄らぬのか?』
町を迂回して進む私達を、シファは不思議そうに見た。
「いやあ、町に入る手続きに時間がかかるし、オレ達はちょっと訳ありなので、トラブルになりかねないから……」
「それにシファ……様?』
『呼び捨てで良いぞ、レイチェル殿。
美味しい物を食べさせてくれた、恩人じゃからな』
「それじゃあ……シファさん。
あなたも人間に見つかると、マズイと思うので……」
『一応誤魔化す手段はあるけど、色々と面倒臭いですから……。
クラサンドまでは、なるべく人里には入らない方向で行こうと思います』
『おお……そうじゃのぅ』
シファは納得しつつも、ちょっと残念そうな顔をしていた。
さては人間の町を、観光したかったんだな……?
しかしこの町、不自然に人口が増えてない?
いくら町が発展したとは言え、それに不釣り合いなほどの人の気配を感じる。
しかも弱い気配なので、兵士という訳では無さそうだ。
つまり戦争の準備をしているとかの心配はしなくてもよさそうだけど、一体何があったんだろう……?
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