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3 逃亡王女

『えっと……つまりあなたは、魔族の王女様なんですよね……?』


 私は魔族っ()のシファに問う。


『う……うむ』


『でも今は、配下に裏切られて、国を追われていると……?』


『ふっ、ふぐうぅぅ……!』


 あっ、シファが泣き出した。

 ちょっと、男子~!(冤罪)

 

 でも泣くのも仕方がないか……。

 ナユタがシファを発見しなければ──そして私が高位の回復魔法を使えなければ、今頃彼女は命を落としていただろう。

 王女として生きてきたであろう彼女が、そこまで追い込まれたのだ。

 そこに至るまでの屈辱と苦難は、私には想像することしかできない。


 よーしよし、(つら)かったですねぇー。

 私は尻尾で、マフラーのようにシファを包んであげた。

 我が尻尾は「肌触りが至高で、癒やし効果が天元突破している(シェリー&ダリー談)」らしいぞ。


『うう……暖かいのじゃ……』


 シファもお気に召したようだ。


 そして程なくして落ち着いた彼女の話によると、過去に人間との戦争に負けた魔族は、バラバラになって各地に潜伏しているらしい。

 中でも魔族の本拠地と言える魔王城は最重要拠点であり、そこで王女であるシファも暮らしていた。

 そんな魔王城は私達の故郷である遠い北の地よりも、更に北に存在しているそうだ。

 そこは寒く過酷な土地で、魔族は貧しい生活を送っていたが、それは甘んじて受け入れていたという。

 

 それは何故かというと、より季候が良く豊かな土地を求めて南下していけば、再び人間と接触し、争いになると考えていたからだ。

 元々魔王であるシファの母は、人間と戦う意思は無かったそうだが、人間の国々による侵略から民を守る為に、仕方がなく戦いを始めたというのが事実であるらしい。


(わらわ)は母上の意思を尊重して、人間と争うつもりは無い……。

 だが、いつの間にかクジュラウスという男の派閥が勢力を伸ばし、妾の言うことを聞かぬようになってしまったのじゃ。

 終いには暗殺者を差し向けられるようになり、妾は魔王城での居場所を失った……』


 それで命からがら逃げてきた訳か。

 でも、仕方がない面もあるなぁ……。

 いつまでも貧しい生活のままでは、民衆の間に不満が鬱積していくのも当然だ。


 私の故郷でさえ冬はそこそこ過酷だったし、それよりも北にある魔王城では、想像を絶するほどの過酷な環境だったのだと思う。

 それではどんなに頑張っても、環境を改善していくことは難しい。

 それならばたとえ争いになったとしても、人間の世界へ進出した方が手っ取り早い──と、考える者達が台頭してくるのは、なんら不思議な話ではなかった。


 結局、民衆の生活を良くすることができなかったという意味では、シファは魔族を率いるリーダーとして力不足だったと言える。

 争いを望まない姿勢は私も共感するけど、力なき理想は力によって蹂躙されるのが世の(つね)だ。

 どんなに立派な理想でも、現実的な問題解決をして実現していかなければ、民衆には見向きもされなくなるんだよね……。


 それは私自身も、肝に銘じておかなければならないことだなぁ……。

 となると、シファを村に受け入れる為に、色々と対策を立てなければならないねぇ……。


『あの……追っ手がくる可能性は、ありますか?』


『分からぬ……。

 城を出て暫くの間は追われていたと思うが、魔族もそんなに人材は多くない。

 遠いこの土地まで追跡してきているとは、あまり考えられぬ……。

 いたとしても極少数じゃろうし、もしかしたらもう、妾は死んだものとして放置されている可能性もある』


 ふむ……なるほどなぁ……。

 過度な警戒は必要ないのかな?


『それで……この村には、どの程度滞在するつもりで?

 普通に生活するだけならば、いつまでいても構いませんが……』


『うむ、妾は亡命政権を樹立して、魔族の頂点に返り咲くのを狙うつもりじゃ』


『……帰ってください』


 そんなものをここに作るな。

 さすがに魔族の内輪揉めに、村が巻き込まれるのは迷惑だ。


『ち、違うのじゃ。

 クラサンドのダンジョンに、母上の忠臣だったカシファーンという者がおってな。

 今も母上を復活させようとしておるはずなのじゃ。

 そやつと合流して力を借りられれば……と、思っておる。

 そこへ行く為の準備ができれば、妾は出てゆく』


 そういえば、何処かにダンジョンがあって、ナユタやレイチェルもいつか行きたいって言っていたな。

 だけどそこには、普通に歩いて行ったら、数ヶ月はかかる……って聞いたような……。


 ふむ……どう考えても、これから人間の目が増える土地を、魔族のシファ1人で旅をするのは無理じゃないかな?


『そういうことでしたら、私があなたをそのダンジョンまで送り届けましょうか?』


『まことか!?

 いや……しかし、何故(なにゆえ)見ず知らずの妾に、そこまでしてくれるのじゃ……?』


 シファは、あまりにも都合がいい話に、少し不信感を持ったようだ。

 まあ、普通ならば裏があると思われても、仕方がない。

 私の申し出は、利益のある話ではないからね……。


 ただ、私もそんなに深く考えての判断ではない。

 たまたま暇をしていたのと──、


『私も人間とはあまり争いたくはない──。

 その(こころざし)を同じくするあなたとなら、利害が一致するのではないか──そう考えただけですよ』 


 短期的に見れば利益は少ないかもしれないが、長期的に見ればシファを助けることは大きな利益に繋がるという予感がしている。

 それに旅行みたいなものだと思えば、別に損にはならない。


『そうか、ありがたい……。

 どうかよろしく、頼むのじゃ……!』


 と、シファは頭を下げた。

 うん、立場を(わきま)えた娘で良かった。

 もしも最初から高圧的な態度で、何かを要求してくるような奴なら、今頃は村から叩き出していたところだよ。


 その時──、


「もう話はいいです?」


 料理を持って、レイチェルが部屋に入ってきた。


『ああ、ありがとう。

 さあシファ、おかわりがきましたよ』


『おお、ありがたい!

 ご馳走になる』


 そして再び、食事が始まる。

 その匂いに誘われたのか、シスも姿を現した。


『あたしも食べる~』


「ぬ、アイ殿が増えた!?』


『私の妹ですよ~。

 尻尾の数で見分けます』


 私が8本で、シスが6本だ。 


 ともかくシスもきたとなれば、料理が足りないな。


『レイチェル、追加をお願いできますか?

 シェリーとダリーにも手伝わせてもいいですから』


「分かったのです」


 しかしその後、ナユタもきてしまい、なんだか宴会のようになってしました。

 結局料理は、また足りなくなってしまったよ……。


 なお、大量に食べたおかげか、縮んでいたシファの身体(からだ)は元に戻ったようだ。

 明日は用事があるので、更新は休みます。

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