1 オークが出た
ナユタが連れ帰った怪我人は、どう見ても人間ではなかった。
長い白髪をしているのはともかく、額からは一対の角が生えているからね……。
それにトカゲのような尻尾もあるな……。
しかし怪物だという印象は無い。
むしろ美少女だ。
あと、黒を基調とした、肌の露出が多い服を着ている。
可愛い顔をして、エッッッッ!!
このサキュバス……というか、悪魔的な姿は、もしかして魔族なのか……?
ただ、悪魔だからといって、邪悪な存在だとは限らない。
勿論、邪悪な存在である可能性もあるが、今はまず助けるのが先か。
そんな彼女の腹部は、大きく引き裂かれていた。
腹を露出させているから、防御力が低いんだよ……。
まあ、彼女達の種族は体温が高いから、廃熱する必要がある……という事情があるのかもしれないけど。
あとは、背中から翼を出し入れするのに、普通の服では邪魔だとか……?
とにかくその腹部からの出血が酷いので、回復魔法で傷を塞いでしまおう。
で、治療をしつつ、事情を聞くことにする。
『ナユタ、何があったのです……?』
「獲物を求めて森を歩いていたら、この娘がオークの群れに追われていたんだ。
オレが見つけた時にはもう怪我をしていて、すぐに倒れてしまった。
だからオレがオークを倒して、ここまで連れてきた」
オーク!!
異世界でお馴染みのあいつか!!
そんな……お約束の「くっ殺」展開を見逃すなんて、不覚……!!
まあ、冗談はさておき、ナユタもオークの群れを相手に、よくぞ無事で……。
この10年間、鍛えに鍛えておいて良かったよ……。
ただ、村の近くにオークがいたという事実は、看過できないな……。
『シスー!
周囲の森に、オークとか変なのがいないか、見回ってきてー!
ついでにナユタが倒したオークの死体も、回収お願い』
オークも素材として、何かしらの役には立つだろう。
それに死体を放置していたら、血の臭いに引き付けられて、別の魔物が現れるかもしれないし、その予防という意味もある。
『分かったー!』
シスが私の要請を受けて、出掛ける準備を始めた。
すると──、
「それでは、私も行くのです」
と、レイチェルが言い出した。
彼女には私が直接魔法を教えているので、かなり強いと思う。
役には立つだろう。
だがしかし!!
『レイチェルは駄目ーっ!!』
「ええ……なんでなのです?」
『オークは人間の女の人を乱暴して、繁殖すると聞きます。
そんなオークがいるかもしれないところに、レイチェルみたいな可愛い子を行かせるなんて、腹を空かせたオオカミの前に、肉を置くようなものです!!』
うちの娘が陵辱されるかも──そう考えたら、胃に穴が空きそうだよ!
「でも私だって、この村の為に何かしたいのです!
アイちゃんはなんだかんだ言って、私に危ないことはさせない。
そういうのは、もう嫌なのです!
お願いだからやらせてくださいっ!!」
『う……』
レイチェルに、真剣な目で頼まれると弱い。
それに過保護すぎる私が、彼女の成長を妨げることになりかねないことも自覚している。
彼女だって、1人の大人として自立したいのだ。
……でもなぁ。
オークはちょっと……。
「アイちゃん……!」
しかしレイチェルに懇願の瞳で見つめられると──、
『……シスと決して離れないようにするのなら、許します……』
結局私は、折れるしかなかった。
シスはこの村では私の次に強いから、彼女と一緒なら安心だ。
「分かったのです!」
幸いなことに、あれからオークの群れは見つからなかった。
ナユタが倒したので、全部だったということなのだろう。
レイチェルは暴れることができなくて、ちょっと不満そうな顔をしていたけど、平和が一番だよ?
まあ、まだ警戒を緩める訳にはいかないけど、当面の間は村への襲撃は無いとみてもいい。
一方、魔族の少女は眠り続け、3日経っても目覚めなかった。
傷は治っているはずだが、失われた体力が戻っていないのかな?
しかし普通なら、飲まず食わずで眠り続ければ命に関わるのに、身体が冬眠のような状態になっているのか、彼女は水や食べ物を受け付けないし、排泄もしなかった。
極限まで生命活動を停止させて、無駄なエネルギーの消費を防いでいるのだと思う。
その所為か、最初よりも見た目が幼くなっているような……。
当初は17歳くらいだったと思うけど、今は13歳くらいだ。
どっちが本当の姿なのかは分からないけれど、消耗したエネルギーの節約の為に身体が小さくなっているらしい。
ただそれも、永遠に続く訳ではないはずだ。
彼女は周囲から魔力は吸収しているようなので、それによって体力が回復すれば、いずれは目覚めることだろう。
それまでは、私が付きっきりで看病しなければならない。
「アイちゃん、3日も看病を続けて……。
私が交替するので、少し休むのです」
『ありがとう、レイチェル。
でも、もしもこの娘が目覚めた時、暴れ出したら止められるのが私だけの可能性もあるから、目は離せないよ』
村にいる人間達から聞いたけど、魔族って昔は人類と戦争をしていて、甚大な被害を与えたそうだ。
ここ数百年は出没していないらしいけど、それでも竜に匹敵する脅威として現在も恐れられているらしい。
それが事実だとすれば、私じゃないと倒せないかもしれない。
まあ、オークにやられそうになっていたという事実を考えると、この娘はそこまで強くないのかもしれないけれど、何らかの理由で衰弱していたところを、たまたまオークに襲われただけという可能性だってある。
その弱体化が今は回復しているなんてことも有り得るので、油断はしない方がいい。
「それではせめて、美味しいご飯を作ってくるのです」
と、レイチェルが食事を作ってくれることになった。
『ありがとう』
レイチェルは料理も得意だから、実に楽しみだ。
それから暫くして、完成した食事が運ばれてくると──、
『美味そうな匂いじゃのぅ……』
『……食べます?』
『うむ!!』
匂いにつられたのか、魔族の少女が目を覚まし、すぐに食事を要求した。
なんだ?
食いしん坊キャラか?
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