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18 存在の価値

 私がナユタの治療をしていると、領主の護衛をしていたと(おぼ)しき騎士達がこちらに向かってきた。

 しかし彼らは私の姿を認めると、まったく動かなくなる。


 ああ、この前の遠征で、領軍に参加していた者達かな?

 それなら私の恐ろしさは理解しているはずだし、無謀な攻撃は仕掛けてこないだろう。


『今回は新たな領主と、私に敵対した者しか相手をするつもりはありません。

 ……巻き込まれたくなければ、無関係の者を連れて、この屋敷から出なさい』


「……ひっ!」


 私が忠告すると、騎士達は慌ててこの場から立ち去った。

 わあ、領主様、人望が無ーい。

 たとえ勝ち目が無い相手でも、どうしても守らなければならない者の為ならば、命懸けで戦う価値はあるだろう。

 結果として勝てなかったとしても、その者が逃げる為の時間稼ぎにはなるかもしれないからね。


 でも彼らにとっての領主は、命を懸けるほどの価値は無かったようだ。

 まあ、命を無駄にしない判断は、賢いと思うよ。


 さて、領主は……騎士達が来た方の部屋にいるのかな?

 うん、確かに人の気配がする部屋があるな。

 だけど3人……?


『ナユタ、このドアを壊してください』


「おう!」


 ナユタが戦槌(ウォーハンマー)で、人の気配がある部屋の扉を打ち破った。

 どうせ鍵がかかっているだろうから、この方が早い。


 そして私達が部屋に入ると、前に立ちはだかる者がいる。

 それは男の子と女の子の2人組で、全裸だった。

 奥の方にいる領主と思われる太った男も半裸であることを考えると、この2人が何をされていたのか、それを察することはできたが、理解はしたくなかったなぁ……。


 えっ……ロリコンだけではなく、ショタコンまでこじらせているってこと……!?

 しかも2人同時にって、どんな特殊なプレイを……!?

 もしもし、ポリスメン?


 というかこの2人、何処となく顔が似ているし、もしかして姉弟(してい)とかなのかな……?

 …………ちょっと(おぞ)ましいが、過ぎるのだが……。


 2人は恐怖に引き攣った顔で、私達の方へと歩み寄ってくる。

 奴隷だから本人達の意思に反して、強制的に動かされているのだろう。

 その役割は……私達に勝てるはずがないことは、本人のみならず、操っている領主も理解しているはずだ。

 となると、その目的は──、


『!!』


 2人の背後から、魔力の反応を感じる。

 攻撃魔法──子供達で私達の動きを止めさせて、諸共一掃するつもりか!

 どれだけ人を(もてあそ)べば、気が済む──!!

 お前の血は、何色だぁ!?


 おそらく領主は、風の(やいば)の魔法を発動させようとしている。

 風属性の魔法は不可視だが、魔力の気配で存在を把握することは可能だ。

 むしろ魔力の動きがあるのに視認できないことで、その攻撃の性質を把握することができる。


 だからタイミングさえ間違えなければ、回避すること自体は難しくない──のだが、今は子供達がいるので、私だけ回避するという訳にはいかない。

 こういう場合は、魔力で防御障壁を形成するのが一番かな。


 ただ、身体(からだ)の表面に魔力の膜を張るくらいならともかく、離れた場所に純粋な魔力だけで壁を作るのは消耗が激しい。

 なので風属性魔法によって、高速で同じ場所を循環する風の壁を生み出すのが効率的だ。

 局所的に風速数十mで空気が回転すると、風でも壁のような防御力を生み出せる。

 それによって領主が撃ち出した風の刃は巻き取られ、そのまま風の壁の一部として吸収されてしまった。


「なっ!?

 消えた!?」


 領主は驚愕するが、あれで勝とうだなんて、認識が甘すぎる。


『なんだそのあわれな術は?

 風はこうして使うものですよ』


 その瞬間、領主の頭上から、風の刃がギロチンのように落ちる。

 そしてその刃は──、


「ひぎゃああぁぁぁぁ!?」


 魔法を撃つ為に突き出していた領主の右腕を、斬り落とした。

 無茶苦茶痛いだろうけど、すぐには死なないだろう。

 むしろ即死させて楽にするには、彼のやったことはあまりにも許しがたい。

 なんなら失血死しないように、回復魔法で止血くらいはしておく。


『なんなのですか、お前達は……?』


「ひっ、はっ、はっ……へ?」


 領主は私の質問の意味が分からないようで、苦痛でゆがみ、涙に濡れた顔をポカンとさせる。


『貴族だかなんだか知りませんが、小さな子供を(もてあそ)び、その命を使い捨てるようなあなた達の何処に、価値があるのか私には分からない……。

 消えた方が、世の中の役に立つのではないですか?』


「ひっ、ひいぃぃぃ」

 

 私は無数の「狐火」を引き連れて、領主に近づいて行く。

 領主は転がるように私から逃げようとしているけど、実際には床の上をのたうっているだけだ。

 気が動転して、または傷の痛みの所為で、あるいは太りすぎていて、理由は色々とあるだろうけれど、とにかく今の彼はまともに動くだけの能力が無いようだった。

 

 まあ、それを抜きにしても、()がすつもりは無いけれど。

 知らなかったのか? 大魔王からは逃げられない


 私は領主の周囲に──触れるか触れないかのギリギリの位置に、「狐火」を配置していく。


「ひうっ!?」


『熱いでしょ……?

 でも、その熱さから逃げようとして動けば、他の火があなたに触れ、連鎖的に身体へと燃え移っていきますよ?

 そのまま動かなければ、もしかしたら助かるかもしれませんね?』


 まあ、無理だろうけれど。

 至近距離からじっくりと全身を炙られ続けていたら、最終的にはどのみちその命は燃え尽きるだろう。

 それでも領主は命惜しさに、限界まで耐え続けるはずだ。

 結果的にそれが、自身の苦痛を長引かせるだけだとしても──。


『さあ、今までの自身の所業を(かえり)みて、懺悔しなさい。

 そうすればもしかしたら、神様が助けてくれるかもしれませんよ?』


 そう言い残して、私は領主に背を向ける。


「まっ、待って!!

 助け……助けろっ!!

 俺を助けろぉぉぉぉぉぉ……!!」


 この期に及んで、反省の言葉が無い。

 反省すれば一瞬で命を絶って、楽にしてやることも考慮してあげたのにねぇ……。

 そのまま、死ね!


 おっと、領主の言葉を命令として受け止めたのか、子供達が救出に動き出した。


『ナユタ、子供達を抑えて』


「お、おう」

 

 奴隷契約の術は、ここ半月ほどで研究を進めて、ある程度は理解した。

 今なら契約書が無くても、契約を解除したり所有権を移したりすることは可能だろう。

 取りあえず、所有者を私にしておくか。

 現状では勝手に動かれたら困るから、私の言うことを聞いてもらおう。


 うん、子供達の動きが止まった。

 私は空間収納から毛布を出して、2人に渡す。

 いつまでも全裸じゃ、可哀想だ。


『よし君達、私の言うこと聞いてね。

 2人は姉弟かな?

 名前は?』


「わ、私は、シェリー。

 そして、弟の……」


「だ、ダリー……。

 うっ、うう……」


 2人はなんとかそれだけを答えて、エグエグと泣き始める。

 領主にされた行為の数々に対する恐怖心が、その支配から解放された途端に蘇ってきたのだろう。


『ご両親は……?

 帰る場所はある?』


 私がそう尋ねると、2人は左右に首を振った。

 孤児か……。

 じゃあゴブリン村に、連れ帰るしかないな。


『では、私についてきてください。

 寝床を用意します。

 ナユタ、弟の方を背負ってあげて』


 私はユニコーン的な存在なので、女の子しか背に乗せません。

 でもナユタだと足が遅いから、シスも連れてくればよかったな……。

 

 ともかく、こんなところからさっさと出ようか。

 すると背後で──、


「待って、待ってください!?

 私が悪かった!!

 助けてくださいっっ!!

 熱い、熱いんだぁぁぁぁぁっっ!!」


 ……領主が何か言っているけど、私は難聴なのでヨクワカンナイ(すっとぼけ)。

 お前はそこで乾いてゆけ。


 そんな訳で、領主を無視して私達が部屋を出てから暫く経つと、絶叫と共に部屋から炎が吹き出し、私達が屋敷から出る頃には、全体を赤く飲み込んだ。

 本棚の「上」に積んでいた本が崩れ落ちて、片付けに時間を取られた今日この頃……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「そんな訳で、領主を無視して私達が部屋を出てから暫く経つと、絶叫と共に部屋から炎が吹き出し、私達が屋敷から出る頃には、全体を赤く飲み込んだ」 せっかく領主の館に来たのだから、めぼしい生活物…
[一言] わかる本棚の上の本たまに雪崩起こすんですよね
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