17 うずまき
女のヒラヒラと舞うような剣技は捉えどころが無く、彼女が剣を振るう度に、ナユタの身体に傷が増えていく。
それでもまだ、致命的な直撃は無い。
ギリギリだけど、その動きにはなんとか反応できている。
それに頑丈なドワーフの身体だというのも、幸いしているようだ。
その頑丈さのおかげで、重傷の手前で済んでいるといえる。
普通の人間なら、致命傷ではなかったとしても、剣で数回も斬り付けられれば、酷い出血によって戦闘不能になっていたことだろう。
ナユタの傷はそれほど深くないのか、出血量は多くなかった。
とはいえ、これ以上傷が増えれば、ナユタにも限界が遠からず訪れる。
一方彼女の攻撃は、女にかすりすらしていなかった。
いくら威力があったとしても、その直線的な戦槌での攻撃は、女の風になびく布のような動きとは相性が悪い。
『ナユタ、もっと頭を使って!
どうやったら攻撃が当たるのか、工夫をするのです!』
「ぐぬぬ……!!」
しかしナユタって、深く考えることはそんなに得意ではないからなぁ。
どちらかというと、直感に頼るタイプだ。
その直感が、上手くハマれば強いが……。
『お……?』
その時、ナユタの動きが変化した。
ハンマー投げのようにグルグルと回転しながら、戦槌を振り回している。
しかも上下に高さを変えながら戦槌を振っているので、軌道も読みにくい。
あれはもしかして、以前私が暇つぶしでヘリコプターの真似をして遊んでいたのを、ヒントにしたのかな?
そう、尻尾を高速回転させることで、空中に浮いてみせたのだ。
その時ナユタは、「凄ぇ、オレも回れば飛べるのか!?」ってはしゃいでいたけど、私のは風の魔法を併用していたから浮かんだのであって、回転だけで浮くのは無理だ。
でも……悪くはないな。
高速回転する戦槌をかいくぐって攻撃することは難しいだろうし、ましてや正確に弱点を狙うことは困難なことだろう。
勿論、攻撃が当たれば、回転によって自ら傷口を広げるかもしれないが、それを狙うのは少しリスクが大きい。
それに狭い廊下で回転されると、左右には通れる隙間が無い為、女には背後にしか逃げ道が無い。
「くっ……!」
女は徐々に追い詰められていった。
ただ、ナユタもいつまでも回転することはできず、いずれは目を回すだろう。
それを待てば、女の逆転は十分にありえる。
それに回転しながら上下する戦槌は、床には接触していない。
つまり、床ギリギリ高さで剣を振れば、回転するナユタの足を斬り付けることは可能だ。
それが有効だと、女が気づくことができれば──。
しかしその前に、ナユタは次の行動に移った。
「なっ!?」
女は驚愕の声を上げる。
ナユタが光る──。
いや、彼女が炎に包まれたので、眩く光っているように見えているだけだ。
かつてナユタは、自身の拳に光の魔法を纏わせて、影の魔物を倒したことがある。
今回の彼女は、その応用で戦槌に火の魔法を纏わせていた。
ゲームでは武器に魔法の力を付与して、攻撃力を上昇させる技をよく見かけるけど、それと同じことを彼女は実現できるようになっていたのだ。
今のナユタは、燃えさかる戦槌を高速回転させることによって、まさに炎の独楽と言うべき状態になっている。
……ゲームセンターを荒らせそう。
ともかくその炎が発した光を浴びて、女は一瞬目を眩ませた。
今までは照明も点いていない暗い廊下だったので、急に発生した炎の光は彼女にとって強烈なものだったのだろう。
そしてそれは、致命的な隙となる。
「おおおおおおーっ!!」
ナユタの雄叫び。
そして──。
「ふぐっ!!」
戦槌が女の横っ腹に食い込む。
ナユタ自身の筋力だけではなく、回転の勢いも加わったその一撃は、女の肋骨や骨盤などを砕き、内臓も破裂させていることだろう。
「こ……こんなところで、あ……たしが……」
女はそんな言葉を発しつつ、床に昏倒する。
おそらく治療をしなければ、いずれは命を失う。
まあ、治療してやる義理も無いが。
今まで散々他人の人生を狂わせてきたのだろうから、彼女の人生はここで終わっておくべきだろう。
その方が世の為だ。
無論、命は尊い。
殺人は憎むべき罪だ。
だがその価値観を尊重しない者には、例外とすべきだと私は思う。
……私達も、その例外にならないように心がけて、生きていかなければならないねぇ……。
権力と癒着し、裁かれることがない犯罪者を始末することは、必要なことだ……と、信じたいけど、それでも自分達が正義だと勘違いしてはいけない。
でもここは、弟子の勝利を喜ぶことにしよう。
勝つこと──それはつまり、生き残ることに他ならないのだから。
『よく頑張りましたね、ナユタ!!
今、怪我を治します。
──って、ナユタぁぁぁ!?』
「おろ?
おろろろろ……ごっ!?」
そこには目を回して、頭から壁に突っ込むナユタの姿があった。
ドワーフの石頭じゃなかったら、死んでいるぞ!?
実際、壁には大きな穴が空いているし……。
……今の衝突音で、領主達には完全に気付かれたかな?
いつも応援ありがとうございます。