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16 領主の館

 サンバートルよ、私は帰ってきた!


 そんな訳で、ナユタを背中に乗せて走ること約1日。

 私は再びサンバートルの町へとやってきた。

 私に喧嘩を売ってきた新領主を、成敗する為に──だ。


 私達は夜の闇に乗じて町に侵入し、そのまま領主の館へと向かう。


『ここか……』


 領主の館は、すぐに分かった。

 田舎の町には不釣り合いなほどの、豪邸だったからだ。


 庭には離れもあるけど、なんだか嫌な感じだな……。

 たぶん前領主は、ここで買い取った幼い少女奴隷を囲っていたのだろう。

 私が助け出していなければ、レイチェルもここに閉じ込められていたかもしれない。

 そう思うと、やっぱり始末しておいて良かったと思える。


 さて……これからどうしようかな。

 騎士達からは、領主の寝室はが2階にあると聞いている。

 そこまで忍び込んでいくか、それとも屋敷ごと燃やすか……。

 いや、屋敷の中には、メイドとかの使用人もいるだろうから、巻き込めないな……。


 やっぱり忍び込むか。

 とはいえ、施錠されたドアや窓を開ける技術は、私もナユタも持っていない。

 そこで、ワープです!!


 こういう時の為に影の魔法を鍛えて、影から影の中を移動できるようにしておいたのだ。

 今の私ならば、物理的に隔絶している影の間でも移動できる。

 それによって私とナユタは、一気に屋敷の2階まで侵入した。


 しかし領主が何処にいるのか、それはまだ分からない。

 保安上の理由で、彼の寝室は毎晩変わるらしい。

 これから(しらみ)潰しに人の気配があるすべての部屋を、確認しなければならない訳だが……。


『ナユタ、そろそろ敵がきますよ』


「お、おう……!」


 私はともかく、ナユタの気配を消す技術では、既に敵に捕捉されていると思った方がいい。

 まあそれは、あの黒ずくめの男達が、この屋敷にもいるのならば……の話だが。

 彼らは私の敵ではないが、それなりの手練れではあったからね……。


 だけどここに、そいつらはいないようだった。

 その代わりに現れたのは──、


「あらぁ、小さな侵入者ねぇ。

 こそ泥かしらぁ?」


 1人の女だった。

 年齢は一見若く見えるけれど、化粧で若作りしているだけなのかもしれない。

 実際、化粧の臭いが、かなりキツイ。


 彼女はドレスを纏っていたが、まるで娼婦のように露出度が高く、無駄に色気を振りまいていた。

 その姿で剣を持っているのだから、違和感が凄い。


 なお彼女は、私の存在には気付いていないようだ。

 今の私は完全に気配を消して、闇に溶け込んでいるからね。

 そんな私を感知できるほどの技量は、彼女には無い──つまり私から見れば、そんなに強くはない。


 ただし、ナユタにとっては、話は別だ。

 そのナユタが、女の姿に対して反応した。 


「んっ……あいつ!」


『知っているのか、ナユタ?』


「あいつ、オレに薬を飲ませて攫った、冒険者の先輩だよ!」


 ああ……彼女が。

 じゃあ彼女も、人身売買組織の一員だということで間違いないな。

 

 ……って、ちょっと待てよ。

 レイチェルの父親が借金を作った理由は、女に(みつ)いだ……って聞いているけど、もしかして……。

 前領主の意向で、奴隷商はどうしてもレイチェルを手に入れる必要があったみたいだから、あの女を使って罠に嵌めたという可能性もありそうだな……。


 その馬鹿な父親も許せないが、この女も許せない。

 だけどここは、因縁のあるナユタに任せるとしようか……。


『ナユタ、対処は任せます』


 私は空間収納から取り出した戦槌(ウォーハンマー)を、ナユタに渡す。

 ナユタの小さな身体(からだ)に合わせてあまり()は長くないが、先端のハンマーは人の頭ほどの大きさがあり、それで殴られれば人間の骨なんて簡単に折れるし、片側がピック状になっているので鎧にだって突き刺さる。

 なので、見た目の印象よりも殺傷力は高い。


 その戦槌を振り上げて、ナユタは女に突進した。

 ただ、人間の大人と比べると足が短いので、スピードはそれほどでもない。

 だけどドワーフの筋力は、人間よりも上だ。


 子供のようなナユタでも、100 kgほどある岩を、軽々と持ち上げることができるのだ。

 その筋力を活かして振り下ろした戦槌の速度は、かなりのものになる。


「あらぁ、怖い」


 しかし女は、ふらりと揺れるような動作で、ナユタの攻撃を(かわ)した。

 そして彼女は剣を振るう。


「ぐっ……!?」


 ナユタの左肩が、浅く斬り裂かれた。

 女の動きはまるで舞っているかのように、変則的なものだ。

 力任せの直線的な攻撃が得意のナユタにとっては、相性が悪い相手かもしれないな……。


 それでも、弟子の成長を実戦の中で(うなが)す為に、私はギリギリまで手出ししないよ。


『思いっきりやりなさい、ナユタん!!』


「おう!

 ……おう?」


 ナユタは変な呼ばれ方をした所為で、一瞬気勢が()がれたようだった。

 その程度で気が散るとは、まだまだ甘いなぁ。

 それでも彼女はすぐに立ち直り、女へ向けて再び戦槌を振るった。

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