15 その馬鹿をどうしよう
ゴブリン村に再び訪れた領軍の者達──その立派な身なりから、おそらく騎士だろう。
彼らは突然頭を下げた。
なんとなく察することはできるが、理由も無く頭を下げられる謂われは無い。
『謝罪の前に、まずは説明をしたらどうです?』
「そ……それが……」
躊躇いがちに語る彼らの話によると、前領主の後を継いだ息子が、私の討伐命令を出したという。
しかも金貨500枚の懸賞金をかけた──と。
私もついに賞金首か。
どうせなら、『ワン●ース』みたいに、億超えは狙いたいね。
それにしても金貨500枚って……。
私が倒した原始竜が金貨1000枚以上の価値があるらしいから、低くみられたものだ……ということでもない。
原始竜の1000枚は、純粋に素材としての価値のみらしいしね。
私の素材としての価値は未知数……精々毛皮が高く売れそうな程度か。
だから私への懸賞金は、私に対する脅威度へかけられたものだと言えそうだ。
どうやらこの世界の貨幣価値だと、金貨1枚で5万円前後って感じらしいので、金貨500枚となると2500万円くらいだろうか。
それだけ高額の懸賞金を私にかけるということは、父の仇を討ちたい……ってことなのかな?
え、違う?
「原始竜の死体を簡単に手放すくらいだから、他にも金になる物を沢山持っているはずなので、それらを奪ってこい……と」
ええぇ……。
やばいな……どこからツッコンでいいのか分からねぇ……。
自分は命令するだけで、実際に戦う訳じゃないから危険は無いと思っているのかもしれないけれど、それがどれだけ破滅的な結果を招くのか理解していないのか……。
『君達、ここにいるってことは、その命令を拒否していないんでしょう?
よく私の前に顔を出せましたね?』
「わっ、我々騎士は、貴族の命令には逆らえない!!
だが、我々ではあなたには絶対に勝てないのも理解している!!
だ……だからせめて、こうして頭を下げて、許しを請おう……と」
ふむ……彼らが板挟みの状態だというのは、理解した。
でもそれって、私が配慮する必要があることなのかな?
『ねえ……君達。
私を敵に回せばどうなるのか……それを理解しいてなお、何もせずにここに来たのですか?
どう考えても、その新領主の判断が間違っている。
ならば彼を暗殺してでも止める──それが、君達が選ぶべき選択ではないのですか?』
「…………!!」
騎士達は、追い詰められたような顔になる。
まあ、彼らが虫のいいことを言っているのは、事実だからね。
あわよくば私にその新領主を、殺させようとしていることも察せられる。
ただ、彼らにも立場があり、貴族に逆らえば本人だけではなく、家族の命も危うい──そんな事情もあるかもしれないが。
そして実際に彼らが領主を討とうとすれば、内乱に近い状態になり、必要以上の命が失われる……ということにもなりかねない。
『まあ、いいでしょう。
既についてしまった悪名が、少し大きくなる程度のことですから。
今回はその馬鹿の始末を、私が付けます。
ですが次に同じようなことがあったその時には、私の手を煩わせなくてもいいように、国の各所へ根回しをしなさい。
全力で──!!
それができない時は、今度こそどうなるのか……分かりますね?』
「はっ、ははーっ!!」
まあ、どうもしないけどね。
最初から一般人を巻き込む選択肢は無いので、あくまで脅しだ。
ただし、一般人以外なら、話は別──。
もしもこの騎士達が初手から頭を下げず、村に攻撃を仕掛けていたとしたら、その命は今頃無かっただろうね……。
『今回は私がその馬鹿を片付けます。
ただし、私と君達が会ったことも含めて、他言は無用。
いいですね?』
私の言葉に、騎士達はコクコクと必死で首を縦に振った。
その後彼らは帰っていったが、任務を終えずに町に帰ることもできないので、村から離れた場所に作った宿営地で待機するそうだ。
『シス、あいつらを監視してくれる?』
『あーい』
私が留守中に、村に攻撃を仕掛けてくる可能性も有り得るからね。
そんな訳で私は、再びサンバートルの町へ行くことになったのだが……、
「師匠、オレも行く!!」
と、ナユタが言い出した。
え……私1人の方が、手っ取り早いんだけど……。
素直に「はい」と言えない感じ……分かりますか?
『今回の仕事は、冒険者のやるようなことではありませんよ。
どちらかというと、暗殺者のやることです』
人間の醜い部分を目の当たりにすることだってあるだろうし、そういうところに純真な子を、連れていきたいとはあまり思わないなぁ……。
「でも、悪い奴を倒しに行くんだろ!
それだって冒険者の仕事だ!」
それはどちらかというと、英雄とか勇者とかの仕事じゃないかな……。
ナユタの冒険者のイメージは、ちょっと間違っているのかもしれない。
「それにこの前も、襲撃者をシスさんとゴングさんで殆ど片付けちゃって、オレは活躍できなかったし……」
そっちが本音か。
う~ん、確かに現状では冒険者の活動もできないし、それは可哀想かな。
将来的にはこの村独自の冒険者ギルドを作るつもりだけど、それはまだ先の話だし……。
『仕方がないですね……。
今回は連れて行きますけど、あなたにまで懸賞金が付くようなことになったら困るので、正体がばれないように顔とかを隠してください。
この前の連中みたいに、黒……』
いや、黒ずくめの姿は、父親の仇である影の魔物みたいで嫌かな?
じゃあいっそ──、
『白ずくめの服で、全身を覆いましょう』
『分かった!』
そんな訳で、私とナユタの2人でサンバートルの町へ行くことになった。
実はレイチェルも付いてこようとしたけど、さすがにそれは却下だ。
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