12 炎の決闘
ゴブリン村に、千人以上の軍勢が訪れた。
奴隷商から逃げ出した奴隷を追うだけにしては、ちょっと大袈裟じゃない!?
暇なのか、人身売買組織……。
いや……よく見たら、重武装の騎士みたいのが多く確認できる。
もしかして領軍なのか、これ……!?
つまり、領主が直接出てきた……!?
そして領主の目的は、もしかしてレイチェル……?
どんだけ執着しているのよ……。
しかし数が多いなぁ……。
大規模魔法を撃ち込めば、全滅させることは容易いけど、虐殺したい訳じゃないんだよなぁ、私は……。
中には冒険者と思しき一団もいるし、将来ナユタの仕事仲間になるかもしれない者達は、さすがに殺したくないな。
ふむ……ここは圧倒的な実力差を見せつけて、追い払うのがベストかな?
ただ、領軍が分散して、四方八方から攻撃してきたら、私だけでは対応することは難しくなると思う。
そうなると、村の被害が皆無ということにはならないだろう。
まだ領軍が分散していない今の内に、さっさと片付けた方がいいな。
『シス、ナユタ、ゴング、ここは任せます。
堀を越えてきた者には、容赦しなくてもいい!!』
私はシス達に村の守りを任せて、単独で領軍の前に出る。
「なんだ……キツネ?」
「赤い……」
「尻尾が多いぞ?」
と、領軍の中から、困惑の声が上がる。
私の正体が分からないからなのだろうけれど、見た目が小さい所為か、完全に油断している。
さあ、度肝を抜いてやるか。
『死にたい者は、前に出ろ!!』
「熱っ!?」
「ひいっ!?」
その瞬間、私の身体から炎が立ち上る。
高さ約20mにも達する炎だ。
それが横に広がって、領軍の前に立ちはだかった。
この炎の壁を突破する為には、私のような炎熱無効化能力か、飛行魔法や転移魔法を持つ者でなければ難しいだろう。
勿論、炎を迂回して進もうとしても、私が炎を操ってその行く手を塞ぐ。
現状では、領軍がこれ以上進軍するという、選択肢は存在しないだろう。
しかし領軍の者達は動揺こそしているが、さすがにこの時点で撤退する気は無いようだ。
「ひ……怯むなぁ!!
弓兵、撃てぇっ!!」
おっと、矢を撃ち込んできた。
木製なら炎ですぐに燃え尽きるから問題は無いけど、鉄製だとさすがに私に届くな……。
だが、当たらなければどうということはない!
回避するよー。
『って──!?』
ちょっ、魔法で水や氷を撃ち込むの、やめーいっ!!
水蒸気爆発が起こるだろっ!!
「ぐわあぁぁぁー!?」
「退避っ、退避ーっ!!」
ほらぁ、爆発に巻き込まれて、勝手に被害を広げているよ……。
ただ私だって、多少は爆発の衝撃でダメージを受ける。
こりゃ、魔法を使う奴は、優先的に倒した方がいいな……。
私は炎の中から尻尾を伸ばして、魔法を使う奴をなぎ倒していく。
それを繰り返すだけで、領軍は抵抗する能力を失っていった。
うん、後は炎の壁で領軍を取り囲めば、降伏してくれるかな……?
それで駄目なら、周囲の酸素を燃やして、酸欠を狙うという手もあるが……。
『──っっ!?』
その時、私に向かって接近してくる気配を感じて、私は飛び退いた。
直後、私が先程までいた場所に、刃が通り過ぎていく。
超高熱の炎の中なのに、突入して攻撃してくる人間がいるとは──!?
『あっ、お前は……!!』
それは、数日前に自爆した黒ずくめの男……だと思う。
発している気配は同じなので、同一人物だと思うけど、相変わらず顔は隠しているのでちょっと自信が無い。
……なるほど、耐火装備をしているから、今炎の中にも平気で入ってこられるし、あの爆発もある程度はダメージを軽減することができて、生き延びることも可能だったという訳か……。
しかし炎熱無効という私のアドバンテージが無くなるのは、ちょっとマズイな……。
たぶん相手だって、前回の戦いから学んで、何かしらの対策をしてきているはずだし。
う~ん、今回は距離を取って戦いたいけれど、炎の壁を維持しながら他の属性の魔法攻撃はできないし、かといって火属性の攻撃は、あの男に対しては効果が薄そうだ。
勿論、耐えられる熱には限界があるのだろうから、熱を上げることもできるけれど、それだと領軍の方に不必要な被害がでるな……。
それに私自身も、大きく魔力を消費してしまう。
ここはあえて、前回と同じ戦い方をしてみるか?
案ずるより産むが易し!!
相手の出方を見てから、対策を考えよう。
私は尾を伸ばして、攻撃する
しかし──、
『!?』
攻撃が男に届かない。
途中で止まってしまったのだ。
痛……っ!
何か絡まって……!?
んんっ、これは細いワイヤー!?
鋼糸というやつか!
それを周囲に張り巡らせることで、私の尾の攻撃を絡め取ったんだな……!!
そして尾を封じられたということは、私自身の動きも封じられたということだ。
そんな私に対して、男が短刀で斬りかかってきた。
その攻撃は、私を真っ二つに斬り裂いた。
事実、その瞬間に、私が形成していた炎の壁が消え失せる。
男は勝利を確信した──と思う。
……まあ、実際には違うんだけどさ。
拙作の『百合転生』の総合評価が、4000ポイントを突破しました。ありがたいことです。