10 追跡者
レイチェルの熱が下がり、1日様子を見て大丈夫そうだったので、私達は出発することにした。
だけど急ぐことはできない。
またレイチェルが、体調を崩してしまう可能性もあるからね。
で、ゆっくりと進んでいると、背後から接近してくる何者かの気配を感じる。
キターン──もとい来たか!
10人近くはいるな……。
『追っ手が来たようですね……。
ナユタ、みんなの護衛を頼みます。
……お前達もだぞ?』
ナユタと奴隷商の護衛達だった者達に、この場を頼むことにする。
「師匠は……?」
そして私は──、
『私は引き返して、追っ手を片付けてきます』
迎撃だ!
「アイちゃん、大丈夫なのです……?」
『大丈夫だから、心配しなくていいですよ。
アイさんに任せなさーい!』
レイチェルは最近私のことを、「アイちゃん」と呼ぶ。
それだけ親しくなったということだ。
そんな彼女を危険な目に遭わせる訳にはいかないから、追っ手は効率よく、かつ容赦なく片付ける。
相手の命を考慮して手加減した結果、思わぬ反撃を受けるような愚は犯したくないからね……。
だからここに残すナユタ達には、たぶん出番は無いだろう。
『奴隷商の店主殿、きっとあなたの期待した通りにはなりませんよ?』
「ぬ……」
彼は追っ手によって救出されることを期待していたようだが、彼の希望は実現しない。
そもそも人身売買をしているような組織が、失敗した者を許すかな?
どのみち、組織とはもう二度と接触させるつもりは無いので、彼自身が改心して、私が解放するつもりになる以外、自由になる手段は無いのだ。
それを嫌と言うほど、これから思い知らせてやる。
さあ、征くぞ!!
私は近づいてくる気配の方へと走る。
それを察知したのか、追跡者達の気配が唐突に消えた。
身を隠して、私の死角から攻撃をしかけるつもりなのだろう。
そんな追跡者達を、これから私は全滅させることになると思う。
これ以上の追跡は、絶対に許さない!
……ただ、一応警告だけはするか。
私は「幻術」で、巨大な怪物を空中に映し出した。
『ここより先は、我が支配する禁足地である。
穢れた人間共が、踏み入ることはまかりならぬ!
いますぐ引き返し、二度とこの地に近寄らないのならば命までは取らぬが、これ以上進むのならば死の絶望がそなた達を襲うであろう……!』
これで本当に二度と近寄ってこないのならば、それが一番いい。
逃げ帰った者の証言に尾ひれがつき、幻の怪物を恐れた他の者達も近寄ってこなくなる可能性がある。
でも、無駄だろうなぁ……。
任務を受けて派遣されてきた者が、何の成果も無しに引き返すことなんて有り得ない。
『む……!』
殺気を感じる。
幻術で怯むことは、無かったか……。
でも、それを悟らせるようじゃ、まだまだ甘いな。
位置がバレバレだ。
私は足下にある石を操り、弾丸のように撃ち出した。
「ぐっ!」
「がっ!!」
命中した者は即死したのか、そのまま気配が消える。
だが、全員ではない。
1人だけ攻撃を回避し、私に迫ってきた。
しかも幻の方ではなく、私自身の方へ──だ。
私の「幻術」を、見破ったっていうの!?
こいつは手練れだな!
それは全身黒ずくめの男……だと思う。
顔すもら隠されているので、年齢も性別もハッキリとしないが、体格的に男だろう。
というか、これはもう忍者やん!
アイエエエエエ、忍者!? 忍者なんで!?
『この……!』
私は更に石の弾丸を飛ばすけれど、男はそれをすべて躱した。
生身で自動小銃の弾を、見切るようなものだ。
それはまさに超人的な技量だと言えた。
この世界の人間は、ここまで強くなれるんだ……!!
私はこの世界の可能性を感じて、少し嬉しくなった。
だけど油断はしない。
油断はしていないのに、男の接近を許してしまった。
男の短刀が、私の背中を斬り付ける。
しかし──、
「ぬっ!?」
魔力を帯びた私の毛皮は、その程度では斬り裂けない。
いや……痛いことは痛いが。
木刀か何かで、殴られたような感覚だ。
それに接近されたからと言って、不利になった訳でもない。
私は接近戦も弱くはないぞ?
「な、なんだ!?」
私の7本の尾が伸び、鞭のように男へと襲いかかる。
このあらゆる方向からの同時攻撃を、回避することなど不可能だ。
私の尾は、男の身体を貫き、斬り裂き、なぎ払った。
だが、男は即死していない。
ギリギリで致命傷を回避したか……!!
『──!?』
そして次の瞬間、男を中心に爆発が巻き起こる。
自爆した!?
爆●岩かよ!?
炎や熱は、私には効かない。
……が、爆発から生じた衝撃や、飛んできた破片は私に効く。
くそっ、私じゃなかったら死んでたぞ!?
男は……死んだのか?
それとも、爆発に紛れて逃げた……?
いや、仮に死んでいたとしても、今の大爆発は数kmから先でも確認できただろう。
大規模な爆発の痕跡だって残っている。
この痕跡を完全に消すのは無理だ。
後続の仲間がいれば、どのみちこの場所は特定されて、追跡の材料にされる。
そういう意味では、「やられた」としか言いようがないな……。
ともかく、今後のことは後で考えよう。
今はみんなとの合流を、優先しようか……。
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