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3 異世界で弱肉強食

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 お兄ちゃんは死んだ。

 何故だ!?


 ……生物的弱者だからさ。

 

 お兄ちゃんがおしまいになってしまった惨劇の日から一晩明けて、私達は新居に引っ越していた。

 野生動物は外敵の襲撃に備えて、頻繁に巣穴を変えることがあるという。

 お兄ちゃんが襲われたあの巣穴の付近は危険だと、ママンが判断したのだろう。


 私達はママンによって、一匹ずつうなじを咥えられて新居に移された。

 まあ、私としても、同じ巣穴を使い続けていると、糞尿とかで汚れてくるので、清潔な新居はありがたい。


 しかし新しい環境に移っても、私はショックから抜け出せずにいた。

 正直、前世が人間だった私としては、お兄ちゃんが家族だという認識がいまいち薄い。

 他の兄妹に対しても、同様の認識だ。


 勿論、私を庇護してくれて初めてのプレイの相手であるママンや、妹ちゃんに対しては情が移っているけれれど、それでも何処か一線を引いている部分がある。

 言葉が通じない動物を相手にしているという意識が、どうしても消えないのだ。


 それでもお兄ちゃんの死に大きな衝撃を受けたのは、「明日は我が身」という言葉が嫌というほど実感できたからだ。

 野生動物の子供の生存率が低いというのは、知識としてなら知ってはいたが、やはり自分自身のこととして直面すると、明確な恐怖と絶望として実感せざるを得ない。


 もういっそ、この巣穴に引きこもりたくなったが、そんなことをしてもママンから見捨てられて餓死するだけだろうし、外敵が侵入してくる可能性もあるので、絶対に安全な場所だとも言えない。

 結局、いつ死ぬか分からない恐怖を抱えながらも、弱肉強食の世界を生き抜いていくしかないのだ。


 あ……急に焼き肉定食が食べたくなってきた。

 「弱肉強食」と「焼き肉定食」をかけたベタなギャグかと思われるだろうが、これは割とマジで感じている強い欲求だ。

 連想ゲーム的にふと前世のことを思い出して、いかに人間としての生活が恵まれていたのかを、思い知らされたのだ。

 

 だって焼き肉定食は、キツネのままではもう2度と食べられないからね……。

 なにこの喪失感……。

 今頃になってようやく私は、人間としての命が終わってしまっていることを実感する。

 このままではもう二度と、あの頃と同じような生活には戻れない。

 

 そう思うと、いつの間にかポロポロと涙が溢れ出していた。

 その時──、


「きゅうぅ……」


 私が打ちのめされている姿を見かねたのか、それとも自分自身が不安でたまらないのか──それは分からないが、妹ちゃんがすりよってきた。


きゅううん(妹ちゃん)……」


 妹ちゃんの身体(からだ)(ぬく)もりを感じて、確かにまだそこに存在している生命(いのち)を感じる。

 私はこの小さな温もりを守ってやりたい……と、思ったが、その為には私自身が強くなるしかない。

 でも、その手段については、皆目見当が付かなかいままだ。


 今はまだ途方に暮れたまま、妹ちゃんの温もりに身体を預けるしかなかった。

 



 その数日後、私のメンタルはなんとか回復してきた。

 そしてこの厳しい大自然の中で、どのように生き抜いていくのか、その方法を考えたいと思う。


 まず堅実な手段として、ママンをお手本にして生きる(すべ)を学びつつ、よく食べてよく運動し、強い身体へと成長することだ。

 しかしこれは、普通の野生動物としては当然のことで、生存率が大幅に上がる訳ではない。

 意識的に取り組めば、やらないよりはマシだろうが、すぐに劇的な変化は得られないだろう。


 次に人間の知恵を活用する方法だが、これも難しい。

 たとえば動植物の知識は、異世界における未知の生態系の中では、無意味である可能性が高い。

 少なくとも毒の有無を判断して、何が安全に食べられるのかなんてことは、まったく分からないだろうね。

 

 それに戦闘術やサバイバル術などの知識も、人間の身体で道具を用いることが大前提で、今の私の身体では活用できない物がほとんどだ。

 せめてこの身体が猿のように、手足を器用に使える種族だったら、簡単な道具を作ったり、火を(おこ)したりすることも不可能ではなかったのだろうけど、肉球じゃなぁ……。

 

 むしろ今はキツネの身体から、スペックの限界をどうやって引き出すのかを、考えた方がいいのかもしれないねぇ……。

 結局、身体を鍛えるしかないのか……。

 

 あっ!

 待て待て、そういえば転生特典のスキルがあるんじゃなかったっけ!?


 でもどうやって使うんだ?

 異世界転生のお約束ならば……、


うやん(ステータス)!」


 ……………………………………変化無し。


うきゅうん(プロパティ)!」


 ……………………………………やっぱり変化無し。


 その後、思いつくワードをすべて試してみたけど、やっぱり駄目だった。

 では、何かしらの動作が必要なのか?


うきゅう(右クリック)!」


 右の前足を招き猫のように動かしながら叫んでみたが、まったく何も起こらない。


きゅう(おかわり)!」


 ……左の前足でも駄目かっ!


 何故(なぜ)だ!? 

 人間の言語で発音していないからか!?

 それとも、そもそもそういうシステムが無いのか!?

 じゃあ、どうやってスキルを確認するんだよ!


 せめて状況に応じて自動で発動するタイプなのか、それとも意図的に使わなければならないのか、それだけでもハッキリしてくれないと、どうしようもないじゃんよ……。


 結局は普通のキツネとして、なんとか生き抜いていくしかないのだろうか……。

 まあ……やれる範囲で、自身の強化を図っていくけどね。

 しかしそんな私の決意をへし折るような事態が、すぐそこまで迫っていることを、この時の私は知らなかった。




 それは乳離れの時期──。

 ママンが、私達の前に何かを吐き出した。

 どうやネズミか何かの小動物を、噛み砕いた物のようだ。


 ……私にはモザイクが必要な、グロい肉塊に見えますが?

 でも兄妹達は、その肉塊に興味を示し、鼻を近づけて臭いを嗅いでいる。

 ああ、私達の離乳食なのですね、これが……。


 …………うん、元人間にはちょっと厳しいかなぁ。

 拒食症になりそう……。

 ただでさえ十分な餌が常に得られる訳ではない野生動物なのに、好き嫌いが激しいとか、とんでもないハンデだよ。


 クソ……。

 いきなり「よく食べてよく運動し、強い身体へと成長する」という目標が、頓挫しかけている……。

 そんな私の明日はどっちだ。


 はあ……焼き肉定食が食べたい……。

 次回から日付変更直後(午前0時)頃の更新になるかと。

 そしていよいよ物語が分岐します。

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